イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百九十四話 幸運とは

女神がさけんだと同時どうじに、彼女のまわりにいていた剣がリョウタたちへとおそかる。


まずは一番近くにいたレヴィへとき出され、それをたてを使ってかばおうとしたリョウタと共に、二人はき飛ばされた。


そして、そのまま先ほど女神が開けた大穴へと落ちていってしまう。


「レヴィ! リョウタ!」


「人のことなんか気にしてる場合じゃないわよ」


ルバートが二人へ呼びけると、女神はクスリと上品じょうひんに笑った。


そして次に、ルバート、イルソーレ、ラルーナへと剣が向く。


無数むすうの剣が彼らを切りこうと、その神々こうごうしいやいばき出される。


そのあまりのすさまじい剣速けんそくえきれず、イルソーレとラルーナはなんとか防御ぼうぎょしつつもジリジリと後退こうたいせざるえなかった。


「くッ! なんだよこれ!?」


「こんなの反則はんそくだよ!」


受け切るのが精一杯せいいっぱいといったイルソーレとラルーナの目の前にでは、その暴雨ぼううのような斬撃ざんげきをすべてさばきながら女神へと突き進む男の背中せなかが見えていた。


彼らが兄貴分あにきぶんしたうルバート·フォルテッシだ。


ルバートは向かってくる無数の剣など物ともせずに、女神との距離きょりめていく。


その姿すがたはまさに無双むそう――。


愚者ぐしゃの大地をのぞけば、世界最強せかいさいきょうと言われているのは伊達だてではないと思わせる剣さばきだ。


「あなた、面白おもしろいわね。たった一本の剣で私のコレクションを押し返すなんて」


だが、それでも女神の笑みはくずれない。


無数の剣を切りはらいながら少しずつ近づいて来るルバートを見ても、両腕りょううでを組んだままでその余裕よゆうに変わりはない。


それでも女神は彼をみとめているようだった。


たかが人間が、星の数ほどある伝説の剣を切り払いながら向かって来ているのだ。


それは、ルバートの剣の技量ぎりょうたしかなものであることの証明しょうめいだ。


「なら、これならどうかしら?」


女神が組んでいた腕をき、右手のゆびをヒョイッと動かすと、前からルバートへと襲い掛かっていた剣が彼の体をかこみだした。


全方位ぜんほういによる一斉いっせい斬撃ざんげき――。


たとえどんな剣の天才てんさいであろうと、これをふせぐことは不可能ふかのうだ。


前方ぜんぽうだけで凄まじいというのに、後ろからも同じように襲われたらいくらルバートでも無理である。


「そうはいくかよ!」


もはや絶対絶命ぜったいぜつめいだと思われたが、そこへイルソーレが飛んで来る。


そして、ラルーナが金属きんぞく――チャクラムを女神へと投げはなった。


だが無数にある剣が女神を守り、ラルーナの放ったチャクラムが当たることはなかった。


「ルバートの兄貴の背中はあたしたちがまもる!」


さけぶラルーナ。


人狼ワーウルフ本能ほんのうなのか。


まるで山に吠えるおおかみのように咆哮ほうこうした。


「ラルーナの言う通りだ! いくらてめえが反則技を使おうが、俺たちがついた兄貴が負けるはずねえ! たとえそれが神であってもなッ!」


ダークエルフの特徴とくちょうであるとがった耳をピンっと立たせ――。


ラルーナに続きイルソーレも叫んだ。


ルバートはそんな二人の声を聞き、向かってくる剣を打ち落としながらおだややかな笑みを浮かべていた。


そしてその内心ないしんでは、自分はなんて幸運こううんなのだと感慨かんがいにふける。


世界最強、剣の天才などと言われていても自分はよわく、これまで何度も挫折ざせつしてきた。


だがそのたびに、このいまそばにいるダークエルフの男と人狼ワーウルフの女――。


イルソーレとラルーナがささえてくれていたのだ。


これまでの道のりがけして楽だったわけではない。


今だって目の前にいる女神が世界をほろぼそうしている。


それを止めらければならない。


世界と愛するラヴィを守るために、当然このいのちてる覚悟かくごでだ。


しかし、それでも自分は運がいい人間だ。


ルバートはイルソーレとラルーナを見ていると、そう思わずにはいられなかった。


「イルソーレ! ラルーナ! 二人ともありがとうッ!」


ルバートは二人へ向かって叫ぶようにれいをいうと、女神の前へと飛びんでいった。

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