イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百六十四話 思い人のところへ

「ここは……?」


ソニックが目をますと、自分がベッドの上で横になっていることに気がついた。


そして、自分の体を見ると包帯ほうたいかれていた。


どうやら誰かが治療ちりょうしてくれたらしい。


ソニックはまだいたむ体を無理むりやりに起こして考える。


あれからどうなったのか? 


ググが悪意あくいに飲み込まれた後は?
 

ワルキューレは自分を殺さなかったのか? 


気をうしなう前のことを必死ひっしで思い出そうとしたソニックだったが、結局けっきょくは何も出てはこなかった。


「おッ! やっと起きたか」


ソニックの部屋に入ってきたのは、海の国マリン·クルーシブルで泊まった宿屋を店主てんしゅ――ねこ獣人じゅうじんトロイアがいた。


彼女は手に大量たいりょう果実かじつを持って、にこやかにソニックへと近づいてくる。


「お前は……宿屋の……?」


「いや~大変だったんだよ。あんたをここまで運んでくるのはさ」


それから彼女はソニックのことを無視むしして、自分がいかにして彼を介抱かいほうしたかを話し始めた。


彼女が食料しょうくりょうを手に入れるために仕掛しかけたあみ確認かくにんしに海へと行ったとき――。


その網には目当ての魚ではなくソニックが引っ掛かっていたそうだ。


かなりひど怪我けがっていた彼を見つけた彼女はあわてて網から解放かいほうし、すぐに自分の住む宿へともどったと言う。


「ホントはさぁ。ほっておこうとも思ったんだけど。一応いちおううちに泊まったことあるお客さんだしぃ。まあ、助けてやろうかなって」


「そうか。れいは言っておくぜ。おかけで助かった。ところで、俺はどのくらいねむっていたんだ?」


トロイアはソニックの質問に、約六時間くらい答えると、またいきおいよく話し始めた。


海の国は突然空からあらわれたバハムートにおそわれ、ほぼ半壊状態はんかいじょうたい


またいつバハムートが襲ってくるかわからないと、住んでいた者たちはみな避難ひなんしたらしい。


「あたしはさ。自分の店を捨てて行くのがいやだったから一人ここにのこっているんだ」


余程よほど誰かと話したかったのか。


トロイアはたずねてもいないのに、今の海の国の状況じょうきょう説明せつめいしてくれた。


「バハムートが……? こうしちゃいられねぇ」


ソニックはそう言うとベッドから立ち上がった。


だが彼の体に激痛げきつうが走り、その表情ひょうじょうゆがめる。


「ダメだよ動いちゃッ! あんた、体にデカいあなが空いてんだよ!?」


フラフラと立ち上がったソニックをささえる彼女。


口ではしょうがなく助けたと言っていたが、彼女が本気で彼のことを心配しんぱいしているのがわかる態度たいどだった。


ろくに歩けもしない自分の状態じょうたい理解りかいしたソニックは、彼女に声をかける。


「……たのむ、俺をライト王国まで連れていってくれッ!」


「な、なに言ってんのあんたッ!? だから体に穴が空いてだって!? いくら吸血鬼族きゅうけつきぞく不死身ふじみみたいなもんだからって、そんな体で無理したら死んじゃうよ!」


ベッドに寝ていろと言う彼女に、ソニックは話を始めた。


ビクニが聖騎士せいきしに連れていかれたこと――。


ググが悪意あくいに飲み込まれてしまったこと――。


そして、愚者ぐしゃ大地だいちからこちらの大陸たいりくの人間や亜人あじんたちをらえようと、とんでもないかず軍勢ぐんぜいが押し寄せていることを。


「時間がねぇんだ! 頼むッ!」


「その話が本当なら、あたしも店がどうとか言ってられないね。……よし、連れて行ってあげる。けど、それだったら避難した連中が向かったストロンゲスト·ロードに行ったほうがよさそうだね」


「ストロンゲスト·ロード? 武道家ぶどうかさとか?」


「うん。なんでもライト王国のほうは本格的ほんかくてきにやられちゃって、今この大陸で生き残っている人間も亜人もみんなそこへ行っているみたい」


「そうか……」


ソニックは、本当に聖騎士せいきしリンリがライト王国を制圧せいあつしたことを知ると、体の痛みをえて立ち上がった。


ビクニはおそらくライト王国にいる。


ググがどうなったのかはわからない


だが、今は一刻いっこくも早くビクニに元へ行かなければ。


ソニックはそう思うと、たとえこのまま死んでしまっても構わないと、両足にちからを込める。


「ストロンゲスト·ロードはライト王国へ行く途中とちゅうにあったよな? よし、今から行くぞ猫ッ!」


「ちょっと待ッてよ吸血鬼ッ! てゆーかあたしの名前はトロイアだ! 猫って呼ぶなよ!」


「じゃあトロイア。俺のことはソニックって呼べ。さっさと行こうぜ」


かすソニックにあきれながらも、トロイアはすぐに馬車ばしゃ準備じゅんびたび支度じたくに取り掛かるのだった。

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