第百四十三話 これまでの想い

「間違まちがっている? 一体いったい我々われわれの何が間違っていると言うのだ吸血鬼きゅうけつき?」


ワルキューレは目の前に立った傷きずだらけのソニックを見て、小馬鹿こばかにするような笑みを浮うかべていた。


すぐにでも押さえ付けないところをみると、どうやらそんなソニックの態度たいどを楽しんでいるかのようだ。


「ああ……いくらでも言ってやる……。てめぇらは間違っているってな!」


必死ひっしの形相ぎょうそうで叫さけんだソニックは、そのままワルキューレに襲おそい掛かかるかのように言葉を投げかけた。


恐怖きょうふと憎悪ぞうおを基礎きそに世界を築きずくことなどできない。


それは、自分がこの愚者ぐしゃの大地だいちで生まれたからこそよくわかる。


人間や亜人あじんは、けして憎にくみ合うために生まれてきたわけではない。


そのことは、ライト王国からここまでの旅たびで自分が思い知ったことだ――。


と、彼はワルキューレに向かって怒鳴どなりあげた。


「女神の治療ちりょうやら恩恵おんけいやらで、一時的いちじてきにうまくいくかもしれねえが……。てめぇらは必かならず人間や亜人の精神せいしんによって打ち破やぶられるんだ!」


「その考え……あの落ちこぼれから垂たらし込こまれたのか?」


「ああ、そうだよ! あいつは……ビクニは、どうしようもなく人見知ひとみしりですぐに不機嫌ふきげんになるし……」


ソニックは、言葉に詰つまりながら話し続ける。


こうやって彼がビクニのことを話すのは初めて見るよ……。


「おまけに弱よわいくせに進んで物事ものごとに首を突っ込みたがるアホだが……。俺はあいつがここまでの旅でしてきたことを見て変わったんだ。それはあいつに関かかわった奴やつら全員そうだと断言だんげんできる。間違って……それでもやめられない奴……。誘惑ゆうわくに負けてしまった奴……。そいつら全員を……あいつはただなんとかしたいって思いだけで救すくってきたんだ! もちろん救えなかった奴もいた……だが……それでもあいつは……」


ソニックはやっぱりビクニのことが好きで――。


いや、本気で好きになっていったんだ。


それはビクニとのこれまで旅を通とおして、彼女の心こころの奥おくにある優やさしさに触ふれたから……。


うん……。


ぼくはずっと知っていたよ、ソニック……。


ビクニは気づいていないかもしれないけど。


……けど、ぼくはそんな二人のことが大好だいすきだ。


「わかったわかった。もうそのへんでいい。貴様きさまの暗黒騎士あんこくきしへの想いはよくわかった」


そう言ったワルキューレはため息いきをつくと、指ゆびをパチンと鳴らした。


すると、ソニックの前に部屋にあった大きな鏡かがみが移動いどうしてきた。


一体なにを見せるつもりなんだろう?


今の傷だらけのソニックの体を、自分で確認かくにんさせる気なのかな?


ぼくは体を引きずって、鏡になにが映うつっているのか見える位置いちまで移動した。


特とくになにか映っているわけじゃない。


鏡には、目の前にいるソニックの姿すがたが映し出されているだけだった。


「貴様にとって、もっとも恐おそろしいことが何か――それを聞かせてもらったぞ」


ワルキューレが口元くちもとを緩ゆるめると、突然鏡が輝かがやき出した。


まさか聖せいなる光ひかりでソニックを消し去るつもりなの?


「ごく稀まれにいるのだ。苦痛くつうすらも受け止めてしまう者が。しかし、これから始まる治療にはけして耐たえられまい」