イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百四十話 拷問の目的

それからどれくらい時間がったのか。


何分? 何時間?


いや、もう朝になってしまったのかも。


まどのないこの地下ちかの部屋では時間の感覚かんかくがまるでわからない。


グッタリとしている僕の横では、そのあいだもずっとソニックへの拷問ごうもんが続いていた。


まずは手足の切断せつだんから始まって、次に目や顔をつぶした。


「では、首と心臓しんぞうはどうだ? やってみろ」


ワルキューレの指示しじしたがって、衛兵えいへいが持っていた剣で言われた箇所かしょを切りきざんでいく。


だけどソニックは、けして悲鳴ひめいをあげなかった。


苦痛くつうちた表情ひょうじょうで、ただうめきながら拘束こうそくされた体を強張こわばらせている。


一体いつまで続けるつもりなんだ?


もしかしてソニックが死ぬまで続けるつもりなの?


「ビクニは……どこだ……?」


一方的いっぽうてきに苦痛をびせられても、ソニックはビクニのことが心配しんぱいなのか、弱々よわよわしい声でずっとつぶやいている。


ああ……ソニック……。


なんでそんなに強いんだよ……。


ぼくなんて、り飛ばされただけでもうこころれちゃっているのに……。


「まだまだ他人たにんを気にする余裕よゆうがあるな。早く続けろ。こいつの自我じが崩壊ほうかいするまでけして止めるな」


ワルキューレの目的もくてきは、ソニックの死なんて簡単かんたんなものじゃない。


苦痛によって彼の思考しこうたたき潰すことなんだ。


このままじゃ、ソニックがソニックじゃなくなっちゃう。


「ビクニは……どうした……?」


「そんなにあの落ちこぼれが気になるのか?」


「いいから……答えろ……」


ソニックはすごくくるしそうだけど、ワルキューレに向かって言葉を続けていた。


「あいつにも拷問をしているのか……? 答えろッ!?」


ワルキューレはまだ怒鳴どなり返す元気のあるソニックを見て、その顔をしかめていた。


そして、衛兵へ拷問を止めるように言うと、彼のそばへと近寄ちかよって来る。


「多くの者を治療ちりょうしてきたが、ここまでえた者はいなかった。いいだろう……お前にはとことん付き合ってやる」


「治療……だと?」


「ああ、そうさ。治療だ。そして、この治療はこれから全世界におこなわれる」


ワルキューレはそう言うと、ソニックの体に自分の手をかざした。


すると、ソニックを拘束していたひかりかせが全身に巻き付いた。


「ぐっ!? ふっ……ふざけたことを……」


「どうだ吸血鬼きゅうけつき? 全身がけるようだろう? まだまだじょの口だ」


光の枷が神々こうごうしいくかがき、ソニックの体を焼いていく。


吸血鬼ぞくのソニックは闇属性やみぞくせい


だから女神の使いを名乗なのるワルキューレのはなせいなる魔力まりょくは、彼にとって弱点じゃくてんといっていいものだ。


そして、枷は次第にめ上げ始める。


全身のほねをゆっくりとりながら、ソニックの白い皮膚ひふがしていく。


「その苦しみのもとわすれさせてやる」


「俺が……あいつのことを……忘れるもんか……」


「いいや、忘れるね」


ワルキューレはかざした手を引っ込めると話を始めた。


この世で起きていることは、すべてせいあたえられた者の中にしか存在そんざいしない。


だから、女神の使いである我々われわれがすべての種族しゅぞく現実げんじつをコントロールするのだと。


「女神さまはなげいておられる。人間も亜人あじんも生きる道を誤ってしまったと。そのために我々が使わされたのだ」


「それで……痛めつけて従わせようってのかよ……。女神が聞いてあきれるずいぶんと乱暴らんぼうなやり方だな」


ワルキューレは、ソニックの返事を聞いて、ふたたび手をかざした。


光の枷がまたソニックを焦がしながら締め上げ始める。


「ぐわぁぁぁッ!」


さっきよりも締め上げるスピードがはやい。


今まで耐えてきたソニックだったけど。


ついに悲鳴をあげてしまっていた。


ソニック……ぼくがもっと強かったら……。


君もビクニも、ヴァイブレもすくえたのに……。


「物分かりが悪い吸血鬼だな、貴様きさまは。これは治療だと言っただろうに。……あとはまかせる。私は自室じしつもどってかがみから見させてもらうぞ」


そしてワルキューレは、衛兵へ夜のあいだずっと拷問という名の治療を続けるように言うと、ぼくらのいる部屋から出て行ってしまった。

「イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く