イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百三十二話 旅の目的

それからソニックは不機嫌ふきげんそうに話をしてくれた。


自分が愚者ぐしゃ大地だいち権力者けんりょくしゃ――吸血鬼族きゅうけつきぞくの王ラヴブラッドの息子むすこであること――。


父親であるラヴブラッド王が聖騎士せいきしの少女にころされ、自分の国が崩壊ほうかいした後にライト王国まで逃げてきたことを、実に言いたくなさそうにに説明せつめいしてくれたよ。


「俺は……お前のおさななじみと会ってんだよ」


ソニックがぼくらと出会ったときからよく言っている、“本来ほんらい魔力まりょくもどれば”ってやつ。


それは自分の国から逃げるときに、女神から受けたのろいなんだってさ。


なんでも女神にえらばれし者の血を飲むことで、その呪いはけるらしいんだけど。


でも、これまでのたびから考えるに、女神に選ばれ暗黒騎士あんこくきし――。


ビクニの血を飲んでも、一時的いちじてきに呪いがけただけだったよね?


じゃあ、一体どうすればソニックにかけられた女神の呪いを完全かんぜんに解くことができるんだろう?


「ソニックって……女神さまのてきだったの……?」


ぼくが首を左右さゆうに振りながら考えていると、ビクニが両目りょうめ見開みひらいていた。


そりゃ、まあおどろくよね。


だってビクニとそのおさななじみの子は、愚者の大地に住む亜人あじんたちをたおすために暗黒騎士と聖騎士に選ばれたんだからさ。


「ねえソニック! 私が女神さまに選ばれた暗黒騎士だって知ってちかづいたの!? だからここまで道案内みちあんないしてくれたの!? ねえこたえて! 答えてよソニックッ!」


これはいつもしている喧嘩けんかみたいにはいかなそう。


今までも何度かこういうわめき方をしたことがあったけど。


今回のはレベルがちがいそうだ。


「俺は……お前を使って聖騎士をたおすつもりだった……」


ビクニにめられたソニックは、つめたい声で返事をした。


もしぼくがソニックの立場だったら、こんな正直しょうじきに答えなかったと思うけど。


それは不器用ぶきような彼なりのビクニにたいする誠実せいじつさだったのかもしれない。


だけどさ。


女の子に「ぼくはきみを利用するためにここまで連れてきました」ってストレートに言ったら、誠実さを感じてもらえるどころのさわぎじゃないよね。


ひどい……酷いよソニック……。ずっと私をだましてたんだ……」


あんじょうビクニにソニックの不器用な誠実さはつたわってはいなかった。


ビクニはその身をふるわせながら目になみだかべている。


「私はかならずリンリを連れてライト王国に帰る……。もうソニックなんて知らないッ!」


ビクニは大声でそうさけぶと、部屋から出て行ってしまった。


部屋に残されたソニックにぼくはきかける。


「ググ……あいつについていてやってくれ……」


その言葉に鳴き返したぼくは、すぐにビクニの後を追った。


ぼくはビクニとソニック二人が喧嘩するのはいいけど。


一緒にいないのはヤダ。


だけど今のビクニにそれをもとめるのはむずかしいから、気持ちが落ち着くまで――。


と思ったけど、ここは敵地てきちなんだよね。


地上に出たら衛兵えいへいつかまっちゃうじゃん。


あれ? でもこの大陸を支配しはいしているのはビクニの幼なじみの聖騎士なわけで。


それじゃ敵じゃないってこと?


もうッ! ぼくにはわからないよ!


それからぼくはくらい地下通路つうろを走って、なんとかビクニに追いついた。


このところずっとソニックの頭の上にいたから、自分で走るのがこんなしんどいことだとは思わなかったよ。


「ググ? 来てくれたんだ……」


ビクニはぼくの姿すがたに気がつくと、やさしく抱き上げて黒に白いメッシュが入った毛並けなみをでる。


それはきずつけられた自分の心をいたわるみたいな、そんな抱擁ほうようだった。


ビクニ……。


たしかにソニックは、きみの幼なじみを倒す目的もくてきでここまで道案内してきたんだけど。


それを彼が正直しょうじきに話したことを考えてみて。


利用するつもりなら、わざわざあんなことを話すわけないよ。


――と、何度もビクニに向かって鳴いたけど、彼女には伝わらなかった。


ぼくは人間や亜人の言葉がわかるけど。


人間や亜人には、幻獣げんじゅうの言葉がわからないのが当たり前だからしょうがないけど。


ビクニは何も言わずにぼくを自分のかたに乗せると、地下通路を走り出した。


それから、まよいながらもなんとか地上へと出るとびら発見はっけん


「もう誰にもたよらない……私がリンリを助けるんだ……」


ビクニはブツブツとつぶやきながら地上へと出る。


そして歩き出し、見晴みはらしのいい場所へとたどり着くと――。


「私は女神さまに選ばれた暗黒騎士ビクニ! 誰か聖騎士リンリのところまで私を連れて行って!」


大声を出して衛兵を呼びつけたのだった。

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