イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百十話 湧き出る感情

獣人じゅうじんの男はルバートがこの店にいると思ったらしいが、あいにくやつ用事ようじがあってパーティーには参加さんかしていなかった。


何かあったらすぐにルバートへ知らせるというのは、この国の義務ぎむなのかよくわからないが、獣人の男はガックリとかたを落としている。


中心街ちゅうしんがいに火の手があがったのか


それはただの火事かじなのか、それとも誰かが意図的いとてきにやったのか。


どちらにしても俺には関係かんけいないな。


そのうち誰かが消すだろう。


「で、その火事はどうなんだよ? かなりヤバいのか?」


イルソーレは獣人の男に状況じょうきょういた。


獣人の男がいうに、とおくからでもわかるほど火がひろがっているそうだ。


それを聞いたイルソーレは店から出ていく。


だが、ワインの飲みぎでフラフラしていて、とても走り出せるようには見えなかった。


「あたしもいくよぉ」


ラルーナもイルソーレを追いかけたが、同じように飲み過ぎのため千鳥足ちどりあしだった。


というか、この場でまともに動けそうなのは俺とググ、あとさけを飲んでいないビクニくらいだ。


……そう考えるとすごいや予感よかんがしてきた。


「ソニック、ググッ! 私たちも行こうッ!」


ビクニが椅子いすから立ち上がって俺とググに声をかけた。


やはりというべきが、ビクニの奴は火の手が上がるところへ行くつもりだった。


当然俺たちをれて……。


って、だから何で俺まで行かなきゃいけないんだよ……。


「ほら、いそいでッ!」


そして、ビクニに強引ごういんに手を引かれた俺は、店の外へと連れ出された。


外にはフラフラのイルソーレとラルーナがいた。


ビクニは二人へ、自分たちが何とかするからじっとしていてと言った。


「だけどよ。お前らだけじゃみちがわからねぇだろ」


イルソーレの言うとおりだった。


俺たちはこの国に昨日きのう来たばかりだ。


この入り組んだ迷宮めいきゅうのような道をけ、中心街へとたどりくなんてとてもじゃないができない。


「それは大丈夫だよ。ソニックは飛べるから」


たしかにビクニが今言ったように空を飛んで行けば、まようことなく中心街まで行ける。


だが、そのビクニの奴の“ソニックは私のちからになるのは当たり前”という態度たいどが気に食わん。


一体いったい俺のことをなんだと思っていやがるんだ、この女は。


そうしているあいだに、ここから見える中心街のほのおがさらにひろがっていた。


その光景こうけいは、もう夜だというのにまるで中心街だけ昼間ひるまにでもなってしまったかのようだった。


それを見たイルソーレとラルーナは、フラフラながらも中心街へと向かおうとする。


だが、こんな状態じょうたいのこいつらが行っても、やくに立つどころかぎゃく足手あしでまといになるだけだろう。


ビクニは二人に動かないように声をかけていた。


「くッ! さけごときでなさけねぇ」


「でも……ぱらっているからってじっとしていられないよぉ……」


イルソーレとラルーナは、少し泣きべそをかいていた。


二人が考えていることは何となくわかる。


この火事によってまた旧市街きゅうしがい亜人あじんたちへの当たりがきびしくなる。


宮殿きゅうでんに住む貴族きぞくたちも中心街の住民じゅうみんたちも、さらにきらうようになる。


もちろん犯人はんにんさがしなどしない。


人間たちはかならず亜人たちがやったと思いむ。


だからこそ旧市街出身しゅっしんである自分たちが動かないといけない。


そんなことを思うからこそ、今にも泣きそうな顔をしているのだろう。


「もしかして、今までにもあったの?」


ビクニにたずねられたイルソーレとラルーナはコクッとうなづいた。


それでようやくビクニも、二人が何故泣きそうな顔をしているのかを理解りかいしたようだ。


ひどいよ……ルバートもイルソーレもラルーナも、ずっとこの国のために頑張がんばっているのに……こんなのってないよ……」


すると、ビクニはうつむいてなみだながし始めた。


なんなんだよお前は……。


どうして他人たにんのために泣いたりできるんだよ……。


……って、なんだこの気持ちは……?
 

俺はビクニと出会ってから、たまにき出てくる感情かんじょう戸惑とまどっていた。


だが、こいつが泣いているからって俺に何の関係かんけいがあるんだ。


ビクニの奴が泣こうがわめこうがどうでもいいんだよ。


俺の知ったことか。


……あぁぁぁッくそッ! 


「ビクニッ! 俺に考えがある。とりあえずお前はここにいろ」


泣いているビクニのあたまをポンッとたたき、コウモリのつばさ背中せなかから出した俺は、ググの体をつかんで空へと飛び立った。

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