イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第百二話 挨拶 失笑 無礼

大広間おおひろまに入るとそこには円卓えんたくがあり、すでに出席しゅっせきする貴族きぞくたちは全員席にすわっているようだった。


俺たちはルバートの後に続いて、いている席へとこしをかけた。


貴族たちからきびしい視線しせんを感じる。


それはビクニにではなく、あきらかに俺とググにたいしてだった。


それはそうだろう。


ルバートは事前じぜんに貴族たちへ、ライト王国から来た暗黒騎士あんこくきしとそのおともである吸血鬼きゅうけつき幻獣げんじゅうがいると言っていたのだから。


いくらビクニが大賢者だいけんじゃメルヘン·グースが召喚しょうかんした救世主きゅうせいしゅだとしても、亜人あじんぎらいのこの国の貴族たちなら、俺やググのような人間ぞくではない者と同席どうせきすることに不快感ふかいかんあらわにしてもおかしくない。


「では、紹介しょうかいさせていただきましょう。こちらの漆黒しっこく少女がかのライト王国から来た暗黒騎士です」


ルバートがまずビクニのことを貴族たちに説明せつめいした。


すると、ビクニのやつは何を思ったのか、突然椅子いすから立ち上がる。


「は、はじめましてッ! わ、私は雨野比丘尼あめのびくにでございます。色々いろいろあって暗黒騎士などをやらせてもらっています。本日ほんじつはお日柄ひがらもよく、この会議かいぎ参加さんかさせていただき、まこと恐縮きょうしゅくいたり……じゃなかったッ!? かぎり? いやきわみ? ともかく感激かんげきでありますッ!」


どこの田舎出身いなかしゅっしん新米兵士しんまいへいしだと言わんばかりの挨拶あいさつをしたビクニ。


それを聞いた貴族たちからは失笑しっしょうこぼれている。


ビクニのやつめ、早速さっそくやらかしてくれるよな。


だが、ググはうれしそうにその身をふるわせていた。


こいつの精神構造せいしんこうぞう相変あいかわらずよくわからん。


「こっちの少年がソニックで、そしてこの子は幻獣のググですッ!」


緊張きんちょうでカチコチにかたまったビクニは、そのまま俺とググのことも紹介した。


貴族たちからはさらにややかな笑いや、あきれたような鼻息はないきが聞こえて来ていた。


そのことでビクニはますます体を硬直こうちょくさせ、まるで石像せきぞうのように動かなくなってしまっている。


たしかにつたな自己じこ紹介をしたビクニもビクニだが、こいつらの態度たいどはなんなんだ。


お前らの国をまもろうとした客人きゃくじんに対して、その人を見下みくだすようない。


べつにビクニの奴が馬鹿ばかにされたからとかではだんじてないが、正直しょうじき気に食わん。


ググも同じようにおこっているのか、俺のかたの上でうなっていた。


だよな、こいつらはムカつく連中れんちゅうだ。


そんな貴族たちに苛立いらだった俺は、何か言ってやろうと立ち上がろうとすると――。


静粛せいしゅくに。彼女がわざわざ挨拶をしてくれたというのに、その態度は無礼ぶれいですよ」


ルバートがしずかに、そしてちから強い声で貴族をいましめた。


ざわついていた貴族たちは、その一声ひとこえで静まり返り、では会議を始めようとその中の一人が言った。


そして、ルバートがビクニの肩をポンッとたたいて笑みを見せる。


それでようやくビクニは椅子へと座った。


なんだかホッとしてもう終わったとでも思っているように見えたので、本番ほんばんはこれからだと俺はビクニに耳打みみうちをした。

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