イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第八十四話 ラヴホテル

それから俺たちは、宿屋やどや店主てんしゅからもらった地図ちずを見ながら旧市街きゅうしがい目指めざした。


せまく入り組んだ道も、目的地もくてきちまでのルートがるされていたので、まよわずに進むことができる。


すっかりは落ちて辺りは夜になっていたためか、ある路地ろじに入ってからきゅうまわりの雰囲気ふんいきが変わった。


地図を見ると、どうやらこの路地から先が旧市街のようだ。


人通ひとどおりはくらくなっていても多かったが、人間たちの姿すがたは見えなくなり、代わりに亜人あじんたちの姿がえていた。


あと中心街ちゅうしんがいくらべると、とにかく街中がきたない。


旧市街の道にはそこらじゅうにゴミが落ちていた。


それに、あやしい落書らくがきがたくさんかれた家が立ちならんでいて、道に落ちているゴミの中にはボロボロになった衣服いふくくさった食べものなどがごったまぜになっててられている。


建物たてものかべもはげはげで見映みばえがわるい。


旧市街はまるでスラム街のようだ。 


さらに、あちらこちらに洗濯物せんたくものがビラビラとされていて、このような干しかたは中心街ではあまり感じなかった生活臭せいかつしゅうがする。


「なんかこわいところだね」


いつのにかさきを歩いていたビクニが、俺の背中せなかにピタッとり付いていた。


ビクビクとふるえながら俺のふくすそつかんでいる。


ビクニはこういう場所ばしょへ来るのがはじめてなのだろう。


善人ぜんにんしかいないライト王国には、こんなスラム街のようなところはなさそうだしな。


ともかく俺たちは旧市街を進み、目的地である宿屋へと到着とうちゃくした。


ここではやはりというべきか、宿屋の店主は亜人で獣人じゅうじん――ねこみみを持つ女だった。


「あらあら、ずいぶんと可愛かわいらしいおきゃくさんだねぇ」


くわえていた煙草たばこから、けむりをモクモクとき出してそう言った猫女の店主。


とても商売しょうばいをするようには見えない態度たいどで、部屋を借りようとしている俺たちを見た。


だが次の瞬間しゅんかん、その猫女の表情ひょうじょうが変わった。


何故かビクニの姿を見た途端とたんに、れていた耳が動き、尻尾しっぽがピンッと垂直すいちょくに立つ。


そしてビクニに近づいて、あまえるようにのどをゴロゴロとらし出した。


「さあ、どうぞどうぞ。部屋ならいくらでもいてるよ」


あまりの変貌へんぼうに俺もビクニも戸惑とまどったが、どうやら何事もなくまらせてもらえるようだ。


それにしてもビクニのやつ……。


まさか動物どうぶつだけじゃなくて獣人にまでかれるのかよ。


本人ほんにん自覚じかくはないみたいだが、こりゃ下手へたしたら一国いっこくあるじになれるほどの才能さいのうだぞ。


そして、案内あんないされた部屋は一人部屋。


小さく狭い場所に、大きなベットが置いてあるだけの簡素かんそなものだった。


「ニヒヒ、それじゃお二人さん。たっぷり楽しんでねぇ~」


猫女は風呂ふろのある場所と、この宿屋には食事しょくじがでないことを説明せつめいすると、卑猥ひわいな笑みをかべて部屋を出ていった。


意味はよくわからなかったが、なんだがすご不快ふかいな気分にさせられた。


「ソニック……」


「あん? なんだよビクニ」


何故かビクニは顔を赤くしていた。


そして、震えながらさけぶよう大声を出す。


「もしかしたらここってラヴホテルじゃないのッ!?」


俺にはそのラヴホテルというのが何なのかわからなかった。


だが、きっとこの女が作ったくだらない意味いみを持つ造語ぞうごだろうから、気にすることはないだろう。


今までねむっていたググが、その叫び声で目覚めざめ、ビクニに続いてうれしそうに大きく鳴いた。

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