第六十五話 幼なじみの言葉

一体いったい何が起おきたのだろう?


もしかして、またモンスターが里さとを襲おそってきたのか?


そう思った私が里へと引き返そうとすると、ソニックにガシッと肩かたを掴つかまれる。


私は黙だまったまま振ふり返り、彼のことを睨にらんだ。


だけどソニックは、そんなことは気にせずに口を開ひらく。


「お前が戻もどったところで何ができるんだよ」


ソニックはそう言ってから、私が里に行っても役やくに立たないと話し始めた。


武道家ぶどうかの里――ストロンゲスト·ロードの住民じゅうみんたちは、実力じつりょくでいえば間違まちがいなく私やソニックよりも上で、森に現あらわれるようなモンスターなら問題もんだいなく対処たいしょできる。


たとえ昨日きのうの夜に現れた、打撃だげきが通つうじないスライムが相手でも、もう対策たいさくはわかっているのだから、今さら私が行く意味いみなどないと――。


ソニックは、冷つめたい顔を向けたまま私に忠告ちゅうこくした。


私はソニックに肩を掴まれたまま、また里のほうを見た。


さっき見たときよりも昇のぼっていく煙けむりの量りょうが増ふえていて、里を守まもっている防護柵ぼうごさくまでも燃もえ始めている。


そして、さらに大きな爆発音ばくはつおんも響ひびき始めていた。


「だけど、あんなの絶対ぜったいに普通ふつうじゃないよ! きっと里の人たちでも対処できないことが起きているに決まっているでしょッ!?」


「それならなおさら行かせるわけにはいかねえ。大体だいたいお前、自分の旅たびの目的もくてきを忘わすれたのかよ」


「そ、それは……」


ソニックの言葉に、私は何も言い返すことができなかった。


そうなんだよ……。


私たちの目的は、世界を救すくうために旅立った聖騎士せいきし――晴巻倫理はれまきりんりことリンリがいるという“愚者ぐしゃの大地だいち”へと向かうためだ。


私と一緒いっしょにこの異世界に転移てんいさせられた幼おさななじみ――。


彼女をライト王国まで連つれて帰るのが、この旅で私がやらなければならないことだった。


それに愚者の大地は、狂暴きょうぼうなモンスターが生息せいそくし、世界地図上でも空白――無人扱あつかいされている場所。


そこは、国を追おわれたお尋たずね者や、迫害はくがいを受けた異種いしゅ族や、善良ぜんりょうな世界に相容あいいれぬ魔族たちが暮くらしている。


各種族、魔族などの縄張なわばりがあるので完全な無法地帯むほうちたいではないみたいだけれど、とっても危険きけんなところ――。


そんなところに一人でいるリンリを、少しでも早く迎むかえに行かないといけないのだけれど……。


でも……それでも……もし、リンリが私の立場だったら……。


「大丈夫だよビクニ。そんなのワンパンだよ、ワンパン。それに困こまっている人を放ほうっておくなんてあたしはイヤだな～」


――って、何もない空中にパンチを連打れんだしながら言うに決まっている。


「ワンパン……」


「はぁッ? 何言ってんだよビクニ?」


「問題を解決かいけつするなんてワンパンでできるって言ったのッ!」


私はそう叫さけぶと、肩を掴んでいたソニックの手を振りほどいて走り出した。


ソニックは愚者の大地まで案内人あんないにんで、けして私の従者じゅうしゃというわけではない。


だから彼としては、当然こんなところで時間をかけることに反対はんたいなのはわかる。


だけど……私は……。


「おいビクニッ! 今は朝だぞ! 夜じゃねえんだぞ! 俺は助けてやらないからなッ!」


背中せなかからソニックの怒鳴どなり声が聞こえたけれど。


今の私を止めるには至いたらなかった。


ごめんねリンリ……。


私……ちょっと遅おくれるよ。