イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第五十四話 夢はありますか

私はリムにゆめはあるかと訊かれた。


だけど、今までそんなことを考えたことがない。


早い子はもう私ぐらいで将来しょうらいのこととか、やりたいことを考えているかもしれないけれど。


学校へはろくに行かずになんとなく生きている私が、夢がどうとか、なりたいものことについてなんて考えないよ。


そんな私はリムに返事をしたくてもうまく言葉にできなかった。


普通ふつうだったらそのまま考えたことはないと言えるのだろうけれど。


他人たにんと話しれていない私は、どうしてもどもってまう。


リムはそんな私の態度たいどを見ると「あわわッ!」と、両目りょうめと口を大きく開く。


そして、大あわてで私に頭を下げてきた。


もうわけございません! たずねてはいけないことだったのですね!」


そんなことない。


ただ、私がいけないだけなのに……。


リムはどうしてこんなにやさしいんだろう。


私はリムに頭を上げてもらい、気を使わせてしまったことをあやまった。


その言葉を聞いた彼女は、私が頭を下げる必要ないと言ってくれた。


「悪いのはリムです。ビクニはちっとも悪くないのです」


「いや、私が悪いよ……」


「では、両成敗りょうせいばいということにしましょう」


リムのつつむようなあたたかい笑顔。


その笑みに、つい私は見惚みとれてしまっていた。


……って、私ったらなんで女の子にドキドキしているんだ!?
 

早く落ち着かなきゃリムに変な目で見られちゃうよ!
 

心の中にあたふたしていた私は、慌てて話をもどした。


「じゃ、じゃあさ。訊いてきたってことはさ。リムにはあるの? 夢」


リムから夢の話をしてきたのだから、今度は私が訊いても変じゃないはず。


咄嗟とっさながらこの対応力たいおうりょく――。


われながらピンチに強いなぁ、と思う。


でも、ふるえてぎこちなくしゃべる私はあきらかに動揺どうようしていたから、やっぱりおかしく見えていただろうけれどね。


だけど、リムはそんな私のことなどまったく気にしていなそうな感じで、こちらを見ていた。


うれしそうに楽しそうに――。


まるで訊かれるのを待っていましたと言わんばかりだった。


「はい! リムにはあります! 夢があるのですよッ!」


二回同じことを言うくらい強調きょうちょうしてきたリム。


それだけ夢にたいして強い思いがあるんだろうなぁ。


「リムの夢は悪者わるものから人々ひとびとまも英雄えいゆうになることなのです!」


身を乗り出してさけぶリム。


私はてっきり大魔道士だいまどうしっていうと思っていたけれど。


どうやら魔法まほう使いのことはただのあこがれで、本当は自分の力で人をたすける大人おとなになりたいんだ。


でも――。


憧れだけであそこまで努力どりょくできるものかな?


ソニックの話だと、攻撃系こうげきけいの魔法を使える者が回復、補助系ほじょけいの魔法をとなえられることはすごいことって言っていたし。


それこそ賢者けんじゃか、上位じょうい魔族まぞくだけしかできない芸当げいとうだとも――。


それって趣味しゅみのレベルえてると思うんだけれど……。 


リム……本当は魔法使いになりたいんじゃないの?
 

だけど、現実的げんじつてきむずかしいのをわかっているから、そう考えるしかないと思っているのかも……。


なんか、お父さんのエンさんと会ったときに、リムはこのさとおさがないといけないぽかったし……。


でも、今日会ったばかりの私なんかに、言えることなんて何もないよね……。


わかった気になって何か言うほうが失礼だよ……。


そう考えると私は、やりたいこと――。


なりたいものがあるのに我慢がまんしているように見えるリムが、とても可哀想かわいそうに思ってしまった。


そして、それに何も言えない自分をひどなさけなく感じた。

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