イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第三十九話 ソリテールの指輪

その後――。


私は意識いしきを取りもどすと、村にある小屋のベットの上にいた。


体をこして辺りを見回みまわすと、私とかさなるようにているググと、部屋のはじかべりかかっているソニックの姿が見えた。


「よかった……ドリアードをやっつけたんだね」


ソニックに向かって言ったつもりだったのだけれども、どうやら彼はググと同じように眠っているようだった。


両腕を組んでうつむいているソニック。


初めて見る彼の寝顔は、普段ふだん不機嫌ふきげんそうな表情とはちがい、見た目通りの少年の顔をしていた。


ふと顔を上げてみると、ボロボロの天井てんじょうからはの光がんできている。


そうか……私はあのまま気をうしって、朝まで眠っちゃってたんだ。


昨日きのうの夜――ソニックに大量の血をわれたというのに、私の体には特に異常いじょうはなかった。


貧血ひんけつくらいは覚悟かくごしていたんだけど、それすらもない。


図書館で借りてたDVD『ルパン三世 カリオストロの城』で言っていた「血がりねえ」とか、そういう台詞せりふを言ってみたかったな。


「う~ん……うん? やっと起きたのか、ビクニ?」


私の動く気配けはいを感じたのか、ソニックが目をました。


そして、すわった状態じょうたいで壁に寄りかかっていた彼は、ゆっくりと立ち上がると用意よういしておいたという森でれる果物くだものを持ってきてくれた。


「それ食ったら出発しゅっぱつするぞ」


ソニックはそういうと小屋から出て行ってしまった。


昨日の夜、あれだけのことがあったというのにずいぶんあっさりというか、別に何もなかったみたいな態度たいどだな。


でも、もしかしたら寝起ねおきの女の子である私に気を使ってくれたのかな?


……いやいや、ないない。


あの吸血鬼きゅうけつきはそんなことをする性格せいかくじゃないよ。


それから食事をえた私は、いまだに目が覚めないググをきかかえる。


「キュウ……キュウ……」


気持ちよさそうに寝息ねいきをたてているググ。


その姿はやっぱり可愛かわいい。


ググはまだぐっすり眠っているようだし、起こしちゃ悪いと思ったから、このまま出発することにした。


まあ、ググの重さは非力ひりきな私でもすっごくかるいしね。


「お待たせ。もうこっちの準備じゅんびはいいよ」


「そうか。じゃあ行くぞ」


そして、私たちは村を出た。


森の中、私の少し先を歩いているソニック。


私は彼の背中を見ながら思いだしていた。


血を吸われたことによって、意識いしきを失う寸前すんぜんに見た背の高い人って……。


もしかしてソニックなのかな。


こうやって彼のうしし姿を見ていると、そんな気がしてくる。


まあ、夢かまぼろしか。


きっと私の脳内のうないで、都合つごうのいい改変かいへんおこなわれたんだろう。


それにしてもなんかカッコいい感じの人だったな。


普段ふだん口ではそういうの興味きょうみないって言っちゃうけど、やっぱり私も女の子なんだね。


そのときに、前を歩いていたソニックが、急にり返って私のほうを見た。


「そうだ、ビクニ」


「へっ?」


しみじみとしていた私は、前みたいにまた調子ちょうしはずれの声が出てしまった。


ソニックは、そんな私にことなど気にせずに、何か小さなものをほうげてきた。


「わわわっ!? ちょっと、いきなりなに!?」


飛んできたものを、両手をばしてあわててキャッチする。


運動神経うんどうしんけいにぶい私だったけど、なんとか落とさずにすんだ。


そして、取った小さなものに目を向けると――。


装飾そうしょくのないぎんに、キレイな宝石ほうせきの付いた指輪だった。


「ねえ、これって……?」


私はこの宝石に見覚みおぼえがあった。


そう――。


この指輪に付いている宝石は、木の精霊せいれいドリアードに石にされちゃったソリテールの姿だ。


「ソニックこれ……ソリテールの……」


「これでそのむすめもお前のおさななじみに会いに行けるだろ?」


「あ、あんた!? どうしてそれをっ!?」


「誰かさんの寝言ねごとがデカいから、聞きたくもないのに耳に入ってきたんだよ」


まったくこのツンデレ吸血鬼は……。


もうちょっと言い方を変えられないのか。


しかし、私はさっすることのできる女。


そこはちゃんと読み取ってあげますよ。


「キュウ、キュウ!」


突然目が覚めたググが、私のうでからソニックの頭の上へ飛びうつった。


ググは丸々と太っているのに、何故か身軽みがる素早すばやくて、なんか物理的法則ぶつりてきほうそく無視むししているよな。


あっ! でもググって幻獣げんじゅうなんだっけ?


それに、ここはファンタジーの世界だったね。


頭へ飛び移られたソニックは、必死ひっしでググにはなれるようにさけんでいた。


私はそれを見て、ついクスクスと笑ってしまった。


それから、私はソニックの体をポンポンたたいて――。


「ありがとね、ソニック」


彼に向かって感謝かんしゃの言葉を言った。


ソニックは「ふん」っといつものようにはなを鳴らして、私からそっぽを向いたけど。


彼に代わってググが大きく鳴き返してくれた。


「じゃあ行こうか、ソニック、ググ」


そして、私ソニックとググよりも前に出て先へと歩き出した。


彼らは、そんな私の後を追いかけてくる。


……リンリ。


新しい友達とむかえに行くから待っててね。

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