イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第三十六話 価値観の相違

「うるさいっ! ソ、ソリテールを返してよっ!」


私はこしかして地面じめんすわんだままさけんだ。


その姿はだれがどう見ても無様ぶざまでしかなったけれども。


それにこわくて仕方しかたがなかったけれども、ふるえる体をせいして怒鳴どなりあげた。


高く巨大きょだい樹木じゅもくからき出ている木の精霊せいれいドリアードは、そんな私の姿を見てクスッと笑う。


「このむすめは私にのぞみました。この村を以前いぜんのようにもどしてほしいと。だからこれは当然の対価たいかなのです」


「でもまたみんな消えちゃって廃墟はいきょになっちゃったじゃん! そんなの詐欺さぎだよ! ソリテールをだましたのと一緒だよ!」


わめき続ける私に、ドリアードはあきれているようだった。


ドリアードは、その後も番犬ばんけんのようにえる私を無視むしして、自分とソリテールとの契約けいやくした経緯いきさつかたる。


仲間割れを始めた村の盗賊とうぞくたちは、たがいに殺し合って全員死んでしまった。


村で唯一ゆいいつ生きのこったソリテールは、森を一人で彷徨さまよっているときにドリアードの本体であるこの巨大な樹木に見つけたと言う。


「私は何も強制きょうせいなどしていません。ただこの娘は死んでしまった――自分をひろってそだててくれた盗賊たちが、どうして殺し合ってしまったのかをたずねてきたのです」


ソリテールは、泣きながら樹木にすがり、ひとごとのようにつぶやいていたみたい。


喧嘩けんかするくらいならお金なんて手に入らなければよかったとか。


やさしかったみんなが、どうしてあんなに変わってしまったのかと。


「私はこの娘のことを気に入りました。この純粋じゅんすいたましいは、きっと素敵すてきかがやきを持っているだろうと」


泣き続けるソリテールに、ドリアードは自身じしんの姿をあらわし、そして契約を持ちかけた。


もしあなたが私と契約をするのなら、精霊の力で今ねがっていることををかなえてあげましょうと。


ソリテールはよろこんで、そのもうし出を受けた。


そして、廃墟になった村は仲間割れを始める前の村に戻った。


村に住んでいた盗賊たちも、以前のように仲の良い関係のままで。


ドリアードが話す内容は、ソニックが予想よそうしていたものそのものだった。


「でも、ソリテールは自分が石にされちゃうなんて知らなかったんでしょ!?」


「ええ、訊かれませんでしたから。それに自分の末路まつろおしえないほうが、この娘も幸せなままでいられるでしょう」


「そんなの……」


「何も知らずに、幸せだったころの夢を見たままで。それはとても幸福なことじゃないでしょうか?」


「ふざけるなっ!」


腰を抜かしていた私が立ち上がると、ドリアードは不思議そうな表情でこちらを見ていた。


私は、そんな精霊の顔を見てさらに苛立いらだつ。


「そんなのおかしいよっ! 自分が死んじゃうなんて知っていたら望みなんて叶えてもらわないよ!」


暗黒騎士あんこくきしの少女……あなたは私の話を聞いていたのですか? この娘は死にはしません。私の中で生き続けます。そう……幸福な夢を見続けながらね」


ドリアードがそう言うと、樹木からえだび始めた。


そしてその伸びた枝は、まるでクラゲやイソギンチャクの触手しょくしゅのようにウネウネと動き出す。


「ちゃんと説明してあげてもまだ邪魔じゃまをするつもりなら、あなたも私の一部になってもらいましょうか」


しのびび寄ってくる触手。


私はふたたび魔剣をかまえたけど、あのとき――ググを止めたときのような力は感じられなかった。


「なんで、なんでなの!? こいつは悪者わるものなのに、どうして剣は反応してくれないのっ!?」


「暗黒騎士の魔剣が吸収きゅうしゅうするのは悪意あくいのみ。まさか私が意地悪いじわるや自分のよくたすために、この娘と契約したと思っているんですか? ならば、それは間違まちがいです。私は人間が必要以上にうばった森の資源しげんを――自然のめぐみを――。元のように再生さいせいさせるために存在そんざいしているのですから」


森でグリズリーにできなかったように、私の暗黒騎士としての力じゃこの性悪しょうわるな精霊を止めることはできないみたい。


……なんでよ……こいつはソリテールを騙したじゃない。


こんなのおかしいよ……。


触手のような無数の枝は、あっという間に私をらえた。


そして、枝によってしばり上げられた私は空中へ――ドリアードの目の前へ持ち上げられていく。


「ああっ!? ソリテール!?」


ドリアードは、わざわざ私の見せつけるように、ソリテールを自分の体である樹木に取り込んでいった。


……結局けっきょくダメなの?


私は特別なスキルを手に入れても、助けたい子一人すら守れないの?


そして、ソリテールは樹木の表面に石となって現れた。


それは他の埋め込まれた宝石よりも、さらにきらめいていて、まるで人間だった頃の彼女の笑顔の輝きみたいだった。


「ソ、ソリテール……」


「さあ、次はあなたの番ですよ、暗黒騎士の少女」


ドリアードはそう言うと、縛っている私を自分の体である樹木へと近づけていく。


「あなたは一体どんな輝きを見せてくれるのでしょうね」


……もうダメだ。


私はここでこいつの一部にされちゃうんだ。


ライト王国のみんな……ごめんね。


リンリ……ごめんね。


ばあちゃん……ごめん……。


私は結局無力で何もできないやつだったよ……。


「ファストドライブ!」


そのとき、聞き覚えのある叫び声が聞こえた。


そして気がつくと私は、触手から自由になり、誰かにかかえられていた。


「来て……くれたの……?」


「弱いくせに……どうしてお前はわざわざトラブルに飛び込んでいくんだよ」


そこには、不機嫌ふきげんそうに顔をゆがました吸血鬼きゅうけつき族の少年――ソニックが目の前にいるドリアードをにらみつけていた。

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