イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第二十一話 嘘じゃない

これで幻獣げんじゅうバグは止まるはずだ。


前にリンリが女神様からさずかった剣――ホーリ―·ソードをバハムートに突きしたとき――。


それでバハムートは浄化じょうかされて正気しょうきを取りもどしたもん。


女神様の話によれば、リンリには相手を浄化する聖騎士せいきしの力があるように、私には相手の悪意あくいを受け止める力――吸収きゅうしゅうする力があるはずだもの。


だけど、剣を刺したというのにバグは止まらなかった。


リンリのときみたいに、剣でつらぬくことができない。


「えっ!? なんで、なんでよっ!?」


私は何度もバグのモサモサした毛がおおっている背中に剣を突き刺したけど、全部鉄板てっぱんに刺したみたいにね返ってくる。


やっぱり私じゃダメなのか……。


選択せんたくほこらで……。


奇跡きせきいずみで……。


リンリと同じように女神様のから魔道具まどうぐさずかったのに……。


「うわぁぁぁ!」


その悲鳴ひめいを聞いて、うつむいていた私が顔を上げると、上空でバグの長いはなに体をからめ取られたソニックの姿が見えた。


バグの鼻はソニックをきつくしばり上げていく。


城のかべみ木をくずすみたいに簡単にこわしてしまうバグの鼻だ。


このままじゃソニックのほねれちゃう……いや、その前に窒息死ちっそくし? ともかく殺されちゃうよ! 


だけど、ソニックは――。


「何やってんだよ! 早く力を使えって!」


全くひるむことなく、私へ向かって大声を出していた。


「む、無理だよ……やっぱり私なんかじゃ無理っ!」


私は駄々だだをこねる子供のように、ただ泣きそうな声で返事をすることしかできなかった。


だけど……それでもソニックは――。


「お前がやならきゃ誰がこの国を、みんなをすくうんだよ!」


「だってできないんだもん! いくら剣で突き刺したって止まらないし、やっぱり私なんかじゃ……」


「お前はよっぽど自分のことを信じられないようだけどな」


ドンドンめ上げられていくソニックは、血をき出しながらも、私に向かって言葉を話し続ける。


「ここにいるみんな、王もあの暴力ぼうりょくメイドも、兵士も魔術師まじゅつしたちも全員お前のことを信じているんだぞ!」


「ソ、ソニック……」


「お前の願望がんぼうはその程度ていどか!?」 


「……私……私……」


「それともみんなを守りたいって言ったのはうそだったのかよ!?」


「嘘じゃないよ……嘘じゃない……」


「だったら幻獣くらい、さっさと止めちまえ!」


「うん! 私……あきらめないよ! みんなを絶対ぜったいに守るっ!」


私が涙を流しながらさけぶと、にぎっていた真っ黒な剣がはげしくふるえ始めた。


私は震えを止めようとして両手で剣を握ると――。


「ビィィィッ!」


それと同時に、バグが甲高かんだかき声をあげた。


そして、ソニックをらえていた長い鼻の拘束こうそくいて、今まで以上にくるしみ出した。


すると、バグの全身から黒いオーラがき出てきて、私の持っていた剣に集まっていく。


剣がバグから出るオーラを吸い始めると、巨大だったバグの体はみるみるうちに小さくなっていった。


「こ、これが女神様が言っていた私の力なの……?」


そして、バグは子猫ほどの大きさまでちぢんだ。


私もソニックにもそんなバグの姿を見て、おどろきのあまり両目と口を大きく開いてしまっていた。


「これが元の大きさだったのだったのかな……?」


私は小さく縮んだバグを抱きかかえた。


体の毛色は黒に白いメッシュが入ったままだったけど。


くま胴体どうたいとらの手足、牛の尻尾しっぽぞうはなさいの目、いのししきばはなくなり、さっきの巨大な生き物と同じだったようにはまるで見えない。


鼻や手足はみじかく、体は丸まると太っていて、とっても可愛かわいらしい姿だ。


「キュウ……キュウ……」


おまけに鳴き声まで可愛らしい。


「はは……やった……私……やれたんだ……」


私はバグを強く抱きしめて、泣きながら大声で叫んだ。


「やったよ! 私、みんなを守れたよっ!」


そんな私のそばで、ボロボロになったソニックが「ふん」と鼻を鳴らしている音が聞こえた。

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