イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第十五話 犯人候補

それから私はあらめて挨拶あいさつをし、自分の名前――雨野比丘尼あめのびくに名乗なのった。


寝起ねおきで寝ぐせがついた髪型かみがったのままで、しかもスエット姿でずかしかったけど――。


それ以上に彼が腕輪うでわぬすんだ犯人はんにんじゃないと思えたことがうれしかったから気にせずにいられた。


「それで……あなたの名前は……?」


私にたずねられた吸血鬼きゅうけつきの少年は、不機嫌ふきげんそうに両腕りょううでを組んでベットに腰掛こしかけている。


朝早く、いきなりノックも無しに部屋に入って来られたらそりゃ機嫌も悪くなるよね……。


これはおしえてもらえそうにないかも……。


「……ソニック」


「えっ?」


「俺の名前はソニックだよ」


キツイ目つきで私を見ながら言うソニックと名乗った少年。


私は、名前を教えてくれたことがうれしくて、つい身を乗り出してしまっていた。


「バカっ!? そんなに近づくな!」


そんな態度たいどせっしたせいか、彼は私から目をらしてフンッと鼻でらす。


「ごめんごめん。じゃあ、改めてよろしくね、ソニック」


「ケッ、何がよろしくだよ」


相変わらず荒っぽい口調だけど……。


でも、それでもいい……。


だって彼は――ソニックは、私に名前を教えてくれたんだから。


「まだ居たんすね。吸血鬼」


私たちが話していると、ラビィ姉が兵士たちを連れてあられた。


そして、兵士たちが部屋に入ると、突然ソニックのことを拘束こうそくしてしまう。


「な、何すんだよ!?」


あばれてげようとするソニックだったけど。


彼は私とそう変わらない子供だ。


大勢の大人たちにかこまれたらかなうはずもない。


うたがいがれるまでは我慢がまんしてもらうっすよ」


ラビィ姉がソニックに向かって、まるで汚いものでも見るかのような冷たい視線しせんを送っていた。


私は一体何が起きているのかは、よくわからなかったけれど。


じっとしてちゃいけないと思い、ラビィ姉の目の前に立った。


どうしてソニックをつかまえるのかを説明せつめいをしてほしいと。


「まだそいつが犯人と決まったわけじゃないっすけど。一応候補こうほには入っているっすからね。逃げ出される前に捕まえておかないと」


ラビィ姉が言うに、今朝けさに兵士の一人が宝物庫ほうもつこ整理せいりをしようとして中に入ってみたら――。


そこは泥棒どろぼうが入ったみたいにらされていたみたい。


「だからってなんで俺なんだよ!? 大体俺は昨日きのうこの城に来たばかりで宝物庫の場所なんて知らねえし!」


ロープでしばり上げられたソニックは、自分の無実をうったえたけど、ラビィ姉はジト目を向け、そんな彼を見ているだけで何も言わなかった。


……なんとかしなくちゃ。


ソニックは犯人じゃない……はず。


だって、もしそんなことをしたのなら、部屋でゆったりと着替きがえているわけないもの。


それに……。


せっかく名前を教えてもらえたんだから。


「待ってよ、ラビィ姉! 彼じゃない、ソニックじゃないよ!」


すでにソニックを連れて行った兵士たちの後を追いかけようと、ラビィ姉は部屋から出ようとしていた。


私はその背中に向かって大声でさけんだ。


振り返ったラビィ姉は、私のことを見つめて大きくため息をつく。


「あいつに口説くどかれでもしたんすか? はあ~ビクニって案外あんがいチョロいんすね」


「うっ」


別に図星ずぼしというわけじゃないけど、思わずうめいてしまった私。


たしかに、ラビィ姉の言う通り私はチョロいかもしれない。


だけど、私はソニックを信じたい。


ばあちゃんやリンリが、いつだって私にそうしてくれていたように。


「ラビィ姉、ソニックは犯人じゃないよぉ。お願い、信じて……」


悲願ひがんする私を見たラビィ姉は、右手で自分の頭をポリポリとき始めた。


あきれているというよりは、こまったという顔をして私のことを見ている。


「まあ、まだあの吸血鬼が犯人と決まったわけじゃないっすから……でもっすよ。あいつがビクニの魔道具まどうぐはずせたっていうのが、結構けっこうな決め手になりそうっすけどね」


……そうだ。


朝起きたら私の腕輪うでわはなくなっていた。


今まで何をやっても外せなかったものを、初めて取ることができたのはソニックだけ……。


でも……それでも彼じゃないって信じたい。


「私……なんとかしてソニックの無実を証明しょうめいしたい!」


私がそう大声を出すと、ラビィ姉はさらに困った顔をするだけだった。

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