イントロバートガール·シヴァルリィ~無気力少女の異世界冒険記

コラム

第十一話 悪い人たち

城にある自分の部屋に戻った私は、目の前でしばり上げられている吸血鬼きゅうけつきの少年を見ながらお昼ご飯を食べていた。


ラビィ姉が作ってくれた野菜やさいスープと焼き立てのパン、それと城下町じょうかまちの近くにある牧場ぼくじょうからとどくチーズ。


このライト王国では、肉や魚は特別な日じゃないと食べないみたいだけど。


どれも美味おいしいし、食べごたえもあるので十分に満足まんぞくできる食事だ。


好き嫌いが多い私だったから心配だったけど。


この世界――ライト王国の食事は私に合っていたみたい。


少年はよっぽどラビィ姉の一撃がいたのか、ロープに縛られても気を失ったままだった。


それにしてもこの吸血鬼の少年。


どうしてこの暗黒騎士あんこくきしあかし――黒く禍々まがまがしい腕輪うでわを外すことができたんだろう?


何をやっても取れなかったのに。


「よし。これで拘束こうそくんだし、こいつは連れて行くっすよ」


「ねえラビィ姉。この子はどうなっちゃうの? やっぱり牢屋ろうやに入れられちゃうの?」


「このままライト王様の前に突き出したら、すぐに釈放しゃくほうされると思うっすよ」


「えっ? 悪いことしたのに?」


それからラビィ姉は説明せつめいをしてくれた。


ライト王国には、他人をきずつけるようなつみおかす人間はいない。


食べものをぬすんだり、家畜かちくさらったりする人はいるようだけど、そういう人たちの多くは生活苦せいかつく仕方しかたなくやるみたいで、根っからの悪人はこの国には全くいないのだそうだ。


だからそういう風土ふうどもあって、ライト王はよっぽどの理由がないかぎり悪いことをした人をゆるしてあげるみたい。


「その上、以前にライト王様は、罪人ざいにんの身の上に深く悲しんで、仕事と住むところまで与えたこともあったっす」


「いくらなんでもそれはやりぎなんじゃ……」


あのおじいちゃんもといライト王らしいけど。


でも大丈夫か、この国……。


ちょっとやさしすぎるだろう……。


「でも、すごいね。悪人がいない国って。まるで『キノの旅』に出て来そう」


「そのキノってのはよくわかんないっすけど、ライト王国に住む人たちはみんな余裕よゆうがあるっすからね」


これはラビィ姉の持論じろんだそうだけど。


他人をだまそうとするような人間や、何か悪いことをしようとする人間は、心に余裕のない人間をねらう。


自分以外のすべてをうたがい、何も信じない――そういう心にゆとりのない人間はぎゃくにカモにされやすい。


それはゆとりのある人間は、悪い話には飛びつかないからなんだそうだ。


余裕がない人間ほど、一発逆転を狙う。


だから、住民のほとんどが不安を持たないライト王国では、悪人にはとても暮らしづらいんだそうだ。


治安ちあんの悪い国に殺しや盗みが多い理由は、悪い人がいるからじゃないっすよ。むしろ他人を疑い、嫉妬し、憎むような人しかいないから殺しや盗みがまかり通ってしまうっす」


ラビィ姉は、がくのない自分の持論なんで気にしなくていい、と謙遜けんそんしていたけど。


言われてみるとそうだよね。


こんな性格が悪い私がゆがまなかったのは、私なんかを信じてくれるおばあちゃんや、昔から何かと関わってくれたやさしいリンリがいたからかも……。


感謝かんしゃすべきは大事にそだててくれた人と優しい友人か……。


「じゃあさ。その子も許してもらえるんだね」


「いや、この吸血鬼はライト王様に会わせずに、このまま処分しょぶんするっす」


「えぇッ!?」


ラビィ姉の言葉を聞いた私は、思わず身を乗り出してしまった。


なんかさっきと話が違うと思ったからだ。


「えっ!? 処分って殺すってことでしょ!? どうして、どうしてなの!?」


声をあらげてたずねる私に、ラビィ姉は大きなため息をついた。


「吸血鬼族は国の外でも危険きけん存在そんざいなんすよ。夜になると手が付けられないし。それにこの少年は、この国に来るまでに盗みで生活してきたっぽいっすからなおさらっすね」


ラビィ姉は達観たっかんしたような顔で言葉を続けた。


「もしちゃんとした国の決まりでさばいたら、王様はこいつを許す、そしてこいつはまた悪いことをする。あとは取り返しがつかない状態じょうたいになるまでり返しっすよ。悪いことが起きると悪い人が集まりやすくなるっすからね。その連鎖れんさが始まる前に止めるのがうちの仕事」


その言い分は私にもわかった。


ラビィ姉は傭兵ようへいをやっていたとき――。


ライト王にメイドとしてやとわれるまでは、平穏へいおんな生活などなかったそうだ。


ただ生きていくための金と、自分が生きることで精一杯せいいっぱいの生活。


たとえモンスターがあばれなくても、ライト王国の外は危険がいっぱいなのだと。


「わかってもらえたっすか、ビクニ」


この吸血鬼の少年は悪いことをしたんだ。


だからばつを受けるのは当然。


でも、もし街で私がこの子に関わらなかったら――。


リンリのマネをして助けようとなんてしなければ――。


きっとライト王のところへ連れて行かれて許してもらえたはず……。


私の……私のせいでこの子が殺されちゃう。


「ラビィ姉。そ、その……その子をのこと……私にまかせてもらえないかな?」


「ビクニ、マジで言ってんすか?」


「お、お願いします! 負の連鎖なんて絶対に起きないようにするからっ!」


私は床に頭をりつけてお願いした。


そして土下座どげざしたまま、この子が私の魔道具まどうぐはずせた理由を知りたいことも伝えた。


ラビィ姉はめずらしく困った顔をしていたけど――。


「……今回だけっすよ」


「ありがとう、ラビィ姉!」


愛想あいそのない返事だったけど。


ラビィ姉は私の言うことを聞き入れてくれた。

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