世界崩壊を機にブラック会社を退職し魔法少女になりました~前の会社でパワハラセクハラしてきた上司や、虐めを行ってきた同期が助けを求めてきてももう遅い。……まあ助けますけど

水無

第27話 デジマ!?☆魔法少女は人間じゃない?


 ──ロストワールド。
 また聞き慣れない単語が出てきた。今日だけでどれくらいの新出単語が出てきたんだろう。
 インベーダー、リアル魔法少女、S.A.M.T.にミス・ストレンジ・シィムレス……エトセトラ、エトセトラ。元々そんなに勉強が出来るタイプじゃないから、そろそろ限界が近い。


「うス。インベーダー共は、ロストワールドってところから、こちらの世界へとやって来たと言われてるんス」

「ロストワールドね……。たしかに、どうみても地球産じゃないっぽいしね。でもどうやって? 宇宙から来たって感じでもないんでしょ?」

「んー、ウチも〝ロストワールド〟っていう単語しかわかってないんスけど、次元? つーのを切り裂いて現れた、とかとかなんとかって説明を受けた気がするっス」

「次元……」


 次元といきなり言われても、いまいちよくわからない。私の認識としては平面が二次元で立体が三次元だという事くらいだけど、さすがにそういう話じゃないでしょ。


「……あ、そうだ! ちょっと待っててくださいっス。えっと……たしかここら辺に……」


 ツカサは急に立ち上がると、部屋にあったクローゼットの扉を開け、ガサゴソと何かを探し始めた。


「あったあった。ここに忘れた時用に、適当にメモしてあるんスよ」


 ツカサはボロボロになったノートを私に見せてくると、まるで小学生が国語の時間、本を読む時のように、ピンと腕を伸ばして読み上げた。


「『インベーダーはこちらの次元とはまた別次元の存在。目視でその姿を確認できるけど、そもそも次元が違うので、人間から介入することが出来ず、刃物による裂傷、銃弾や爆弾による爆風、熱も勿論の事、毒や細菌、その他諸々の兵器の効果は認められない』……ここに書いてあることを、ウチなりにかみ砕いて説明したら、だいたいこんな感じっスね」

「うん、それは玄間さんから何となく聞いてた。……けど玄間さんはインベーダーは〝薄い膜〟に守られてるから、攻撃されても意味がないとか言ってた気がするけど……」

「薄い膜……。ああ、たぶんそれが次元の正体っスね」

「あれ、次元って概念じゃなくて物質なの?」

「んー、ウチにもよくわからないんスけど、そもそもインベーダーはこの次元とはまた別の次元……つまり、元々、この世界には存在しないヤツラじゃないっスか。でも、実際ここにいる。だから、インベーダーの体の周りの空間が歪み、薄い膜のように見えるって言ってたっス」

「そういう意味でのインベーダーって名前でもあるのね……。それにしても〝次元〟かぁ。なんかフワフワした概念だね。でも、なんで魔法少女の攻撃はインベーダーに効くんだろ?」

「それがこの話の重要なポイントっスね。さっきインベーダーが、次元を切り裂いてこちらに来たって言ったじゃないっスか」

「言ってたね」
 
「じつはその際、次元の裂け目から、ロストワールドのよくわからない成分が漏れ出たんスよ」

「よくわからない成分って……」

「はい。ちなみに、別のチームでは〝ミステリー・マテリアル〟って呼んでる見たいっス」

「はぁ……また新しい単語が……」

「どうしたんスか?」

「な、なんでもない。ごめん続けて」

「そして、その次元から漏れ出た、ミステリー・マテリアルのせいで、その時死にかけてたウチらの体が強化されたらしいんス。で、そのロストワールドの成分によって体が強化されたから、ウチら魔法少女の体は、〝人間〟と〝インベーダー〟両方の性質を併せ持つ事が可能となったんス。それが魔法少女の攻撃がインベーダーに通用する理屈だとかなんとか」


 さらっと衝撃的な事実を突きつけられたけど、そうだよね。そう考えないと、確かにインベーダーを攻撃できるのは不自然だ。
 でも、いきなり〝自分の体の半分がインベーダー〟とか言われても、いまいちピンとこない。たしかにものすごい力は手に入ったけど、肌の色が変わったり、目が爬虫類みたいじゃなかったり、人間じゃなくなったりもしていないからかな。
 これは……なんというか、複雑だ。



「でも。そっか。つまり、今の私たちは半分人間で、半分インベーダーみたいなものなんだ」

「そっスね。少なくとも、ウチはそういう風に理解してる感じっス」

「……でもさ、人間の攻撃がインベーダーに届かないなら、インベーダーの攻撃も逆に人間には届かないよね。なんで人がいっぱい亡くなってるの?」

「これが……そうじゃないんスよね」

「どういうこと?」

「たしかに人間の攻撃はインベーダーには届かないんスけど、そもそもインベーダーって、次元を切り裂いてこの世界へ来てるんスよ。だから……」

「あ、一方的にこっちに干渉することが可能ってこと?」

「そうっス。これはもう、インベーダーがそういう生物だと割り切るしかないんス。鳥が空を飛べるように、インベーダーもまた、次元が違う人間を攻撃できるんス」

「そういう事ね。一方から強引に干渉することが出来るから、人間も目で認識することも出来ると」

「はいっス。……とまあ、だいたいこんな感じっスね。ウチから言えることは」


 ツカサはそう言うと、手に持っていたボロボロの紙切れをくしゃっと丸めて、ゴミ箱に捨てた。


「うん、ありがとう。わかりやすかったよ」

「えへへ、アネさんのお役に立てて何よりっス。……ちなみに、アネさんからはなんか質問とかあるっスか? ここがわかりにくかった、みたいな」

「うーん、そうだねえ……」


 ツカサに訊かれ、改めて自分でも考えてみる。
 今までの情報を繋げて要約すると、魔法少女はインベーダーがやってきた日に、皆一度死にかけていた。もしくは死んでいた。
 ……けど、その次元を切り裂いた時に、向こう側から漏れ出た〝ミステリー・マテリアル〟を体に受けて強化され、死を免れた。でもこれにより、体は半インベーダー化されてしまって、その恩恵で能力が使えるようになり、インベーダーに攻撃することも可能になった。
 まとめるとだいたいこんな感じか。
 大体の疑問は潰れたけど、でも、ひとつ気になることがある。それは玄間さんも、ミス・ストレンジ・シィムレスも言ってた事で──


「──ひとつ、質問していいかな?」

「もちろんっス」

「これからは新しい魔法少女は生まれない……死にかけていた体が、ロストワールドの影響を受けて、強くなって復活するんだったら、インベーダーに殺された人たち……というか、インベーダーがこの世界にやってきた日から今も、誰も、死ななくなるんじゃないの? なんで亡くなってる人がいいっぱいいるの?」

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