世界崩壊を機にブラック会社を退職し魔法少女になりました~前の会社でパワハラセクハラしてきた上司や、虐めを行ってきた同期が助けを求めてきてももう遅い。……まあ助けますけど

水無

第24話 マジカルフラワー☆魔法少女


「──でも、私はそれよりも、ツカサが魔法少女やってる事にビックリしたよ」


 気を取り直して話題を変える。私はもう過去は振り返らないのだ。


「そ、そっスよね……。ウチみたいなのはガラじゃないっスよね……」


 私の言い方が悪かったのか、ツカサは下を向いてシュンとなってしまった。
 ……どこかで見たことあるぞ、これ。


「あー……ううん、そういう意味じゃなくて、意外だったって事ね。もし私がツカサと同い年だったら、絶対入ってなかったからさ。魔法少女チームに」

「で、ですよね……魔法少女とか、何フザケてんだよって話っスもんね……。ウチなんて……ウチなんて……」


 何でこんなに落ち込んでるんだ、この子。
 お酒……入ってないよね?
 さっきから飲んでるの、ただのオレンジジュースだし。
 もしかして場酔いしてる?


「だから違うってば。昔からツカサって、人想いなところがあったから、手段はどうあれ、誰かを守るために戦うって偉いし、カッコいい事だと思うよってこと。昔の私よりも、全然偉いなってことだよ」

「ま、マジっスか……! アネさんにそう言ってもらえて、めっちゃ嬉しいっス!」


 そう言って、パァっとツカサの顔が明るくなる。
 うーん、単純。
 なんか色々と心配だけど、私に心配されたらそれはそれで終わりか……。


「マジマジ。友達の私としても、鼻が高いってもんよ」

「と、友達……っスか……」


 私がそう言うと、なぜかツカサが悲しそうな顔をした。
 え? 何その反応?
 もしかして、ひと回り年上のヤツに友達とか言われたら、引いちゃうタイプ?


「ご、ごめん、もしかして、なんか地雷踏んだ?」

「あ、いえ! なんでもないんス! ウチがアネさんの友達だなんて、畏れ多いなって!」

「……畏れ多いは言い過ぎだと思うけど……」


 そう言ってるけど、さっきのツカサのあの顔、絶対そういう感じじゃなかったよね。たぶんない、と思いたいけど、もし本当にそういう風に考えてたらちょっと傷つくかも。


「で、でも! やっぱすごかったっスね、あの〝プロレ素手喧嘩ステゴロ〟ウチがガキの時に見たまんまでしたよ!」

「あー……アレね……」

「あれだけ衰えてないってなると、やっぱ、ずっと鍛えてたんスか?」

「き、鍛え?!」


 むしろ筋肉は落としちゃったんだけど……。


「あー……うん、主にイメトレでね(嘘)」

「すっげー……! イメトレって……なんかアネさん、もはや達人の領域っスね!」

「達人は恥ずかしいって」

「そんな事ないっス。あれが技になってるって事は、つまりそういう事なんスから」

「そう、なんだよね……。玄間さんにも言われたけど、あれが私という人間を形作ってる一部、強い別側面なんだよね……」

「な、なんか気になるんスか? ウチとしては、プロレ素手喧嘩で戦えるなんて、羨ましい限りっスけど……」

「うーん、たしかに自分が昔、人を傷つけるために編み出した技が、こうやって人の役に立つって言われるのは嬉しくもあるけど、なんか複雑なんだよね」

「そういうもんスかね?」

「そうだよ。だって、考えてもみなよ。ヒラヒラフリフリのピンクの服を着た二十後半の女が、素手でインベーダーを惨殺するんだよ? もう映画で言えば、限りなくR18に近い、R15だからね? そんなのが全国放送されてるって思うと……はぁ、私も口や手から花とか出したかったなぁ……」

「は、花っスか……。でも、年齢に関して言えばアネさん、見た目全然若いっスよ。むしろウチと同年代くらいに見られてると思いまケド」

「え……、え~? ほんとにぃ~? からってな~い?」

「ホントっスよ。だからウチは最初、テレビでプロレ素手喧嘩を使ってる魔法少女を見た時、『ウチと同じくらいの歳でアネさんの技を使ってるなんて、いったい誰なんだ』って思いましたもん」

「ちょ、ちょっと、ツカサ~? あんた褒め過ぎよ~! まじもう、嬉しすぎて吐きそう!」

「え!? だ、大丈夫っスか? 袋持ってきますよ」

「大丈夫大丈夫! まだまだ全然飲めるから! いまちょっとほろ酔い気分なだけだから!」

「さ、さすがアネさんっス! ……でも、もう結構飲んでますよね。テーブルの上全部、飲み終わったカップ酒で埋まってますし……もうやめておいたほうが……」

「問題ない問題ない! 日本酒なんて水と同じだから! お酒は40度超えてからって、よく北のほうの人たちも言ってたし!」

「な、なんかよくわかんねっスけど……さすがっス!」

「そういえば、ツカサも魔法少女なんだから技、何か使えるんだよね? 素手で戦う魔法少女はいないって玄間さん言ってたから……、鎖かなんかで相手をがんじがらめにして、能力を封じたりすんの?」

「の、能力……っスか!? そ、それは……」


 ツカサは昔、私がとっておいたプロテインバーを勝手に食べて、バレた時のような顔になった。大きな瞳がバチャバチャと右往左往している。


「おお? もしかして、私以上にバイオレンスでフェイタリティな感じなのかな? やーるねー! ひゅーひゅー! さっすが現役! 私なんて目じゃないね!」


 私がそうやってツカサに軽口をたたいていると、やがて堪忍したのか、ツカサはまっすぐに私を見てきた。


「あ、もしかしてふざけ過ぎた? ごめんごめん、もう変な事言わないから──」

「い、いえ、あの……アネさん、笑わないで聞いてほしいんスけど……」

「あー……と、なにを?」

「う、ウチの能力についてっス」

「笑えるほど危ないの?」

「も、もう! 茶化さないでほしいっスー!」


 相手が私だから強く怒れないのか、ツカサは不満そうな目でプリプリと怒っている。もうツカサからは、S.A.M.T.事務所で感じていた、あのトゲトゲしい雰囲気はない。


「ごめんごめん、それで、ツカサの能力ってどんなの?」

「は、ハナを……」

「はなを……」

「撒き散らす……感じのヤツっス……」

「うん? 撒き散らされる〝ハナ〟ねえ……。ハナ……って、あの鼻?  じゃあ撒き散らすっていったら……自分の体液を……?!」

「……はい?」

「……あの、ほんとごめん、無理に訊いちゃって。たしかにこんな事言いたくないよね……私、頑張って忘れるから」

「いやいや、そんなワケないじゃないっスか! ハナってアレっスよ! ノーズじゃなくて、フラワーのほうっスよ!」

「ああ、なんだ。花ね。ビックリしたよ、鼻水でどう攻撃するんだよって思ったから」

「カンベンしてくださいっス……」

「て……え、花? あれ? じゃあ玄間さんが言っていた、花で相手を攻撃する魔法少女って──」

「あ、その、ウチ……の事なんス……」


 ツカサはもじもじと体をよじらせながら、恥ずかしそうに私の顔を見上げてきた。

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