世界崩壊を機にブラック会社を退職し魔法少女になりました~前の会社でパワハラセクハラしてきた上司や、虐めを行ってきた同期が助けを求めてきてももう遅い。……まあ助けますけど

水無

第13話 激突!☆力対力


「オンノォーーーーーーーッホッホッホ! そろそろ作戦会議は終わりまして?」

「……わざわざ、話し終えるのを待ってくれたんですか?」

「ええ、無論ですわ。それがあたくしの流儀。それが、あたくしのいまからぶっ殺す相手への敬意ですの。何も考えず何も感じず、ただ相手を死に至らしめるだけでは、獣と何ら変わりません。あたくしは誇りをもって、理性を用いて相手をぐっちゃぐちゃにブチ殺すのです! ──さぁ、もう一度問うて差し上げましょう。準備はよろしくて・・・・・・・・? 新人魔法少女さん?」


 どうやら本当に、私が準備を終えるまで待っていてくれたようだ。こういう律儀なところを見てしまうと、わざわざ戦わず、話し合いで済むんじゃないか……とも思ってしまうけど、目の前にいるのは〝侵略者インベーダー〟で私たちの敵。相容れるような存在ではない。
 だったら、これ以上癇に障る笑いのバリエーションが増える前に、私が引導を渡してあげよう。そもそも勝てるかどうかすら怪しいけど、私は私で全身全霊をもって応えるだけだ。

 ──コンコン。
 私はもういちど、インカムのマイク部分を軽く指でたたいた。


「どうですか。プリン・ア・ラ・モード」

『ひとまずは接続には成功したきゃと。あとは任意のタイミングで、声を放送に乗せることが出来るきゃと』

「ありがとうございます」

『でも、キューティブロッサム。インベーダーの度肝を抜くって、一体何をするつもりきゃと? 超音波による聴覚破壊はもうすでに失敗して──』

「──マイクパフォーマンスです」

『ま、マイク……? あのプロレスでよくある戦う前と後にあるスピーチみたいなものきゃと……?』

「はい。それで合ってます」

『……いちおう策があるみたいだから、今すぐ逃げろ。なんてことは言わないきゃとが、〝危なくなったら逃げる〟これは、絶対遵守してほしいきゃと』

「努めます」

『それ、絶対努めない人のセリフきゃとね。……とにかく、僕からアドバイス出来る事があるとすれば、ミス・ストレンジ・シィムレスの手に注意するきゃと。〝Seamless〟の名前が指し示す通り、掴まれたら継ぎ目がなくなるくらい伸ばされてしまうきゃと。掴み合いになるなんて、もってのほかきゃとよ』

「わかりました」

『さっきから返答が極端に短いきゃとが……もう僕の話はあんまり届いていない感じきゃと?』

「すみません、そろそろお願いしていいですか」

『はぁ……危なくなったら絶対逃げるきゃとよ。じゃあカウントダウン始めるきゃとよ。3──2──1──』


 プリン・ア・ラ・モードの声が聞こえなくなる。もうこの状態で話せば、声を拾ってくれるのだろうか? ためしに一言二言話してみるか……。


『あーあー……テステス……』


 校舎にあるスピーカーから、グラウンドに備え付けられているスピーカーから、私の声が拡大されて、反響して聞こえてくる。接続は良好。声も透き通ってる。問題はない。


『聞こえてますか……あー……いや、聞こえてっか、レンジ!』


 キャラを作る。
 今までみたいな普通の感じではなく、出来るだけ大胆不敵なキャラに。


「あら? これは一体、なんの催し物かしら? もしかして、ダイナミックな命乞いでもするつもりなの?」

『あててみなよ』

「フン……無駄でしてよ。命乞いなんてされたら──命乞いなどという、無様な真似をあたくしの目の前で晒されたら──ああンっ! 余計にあなたを掴み殺したくなってしまいますものっ!」


 レンジはそう言うと、自分を自分で抱くようにして、くねくねと身をよじらせた。その顔はほんのりと上気しており、恍惚としていた。
 変人じゃないか。いや、インベーダーってみんなこうなのかな……?
 とはいえ、このままじゃ雰囲気にのまれてしまう……早めにこっちのペースに持ってこよう。
 私は呼吸を整えると、インカムをゆっくり外し、胸から45度の角度で持った。


『──レンジィ!! ……おうレンジ、聞こえてるか、大事な時にクソして出遅れた、哀れで、間抜けな、バカインベーダー!』

「ば、バカ……!? もしかして……あたくしに対して仰っているのかしら?」

『ケッ、ここ一番の大事な時に、腹下してクソしてるマヌケなんて、他にいねえだろ』

「な、なんてこと、あたくしに向かって……なんて不遜な……!」


 レンジは先ほどまでの余裕たっぷりな表情はすっかり消え、今は肩をわなわなと震わせて私を睨みつけている。
 だけど、無視無視。私は気にせず声を発声し続けた。


『おまえらの大将は既に私たちに討たれている! この戦いは、戦争は、すでに人間の勝利で終わっている! ……だのに、バカなインベーダーどもは各地でまだウロチョロウロチョロと目障りに、ゴキブリみてぇに人間様に迷惑をかけ続けている。それをこの国で何て呼ぶかわかるか? 〝未練たらたらの負け犬のクソ野郎〟って言うんだよ! 本気を出したら誰にも負けない? 戦いに参加していたら負けなかった? ──はン! どの口が言ってんだ! 恥知らずにも程があるだろ! これ以上お前の顔面をクソで汚して、何をしようってんだ、ああン!? スカ〇ロ趣味ならそれ相応の場所でやりやがれ!』

「な・ん・で・す・ってェーッ!?」

『……いいか、テメェはインベーダー共の幹部なんかじゃねえ! この国が総力あげても倒しきれなかった難敵でもねえ! ……亡霊だ! 負けているのに、死んでいるのに気づかず、たまたまちょっとだけ強かったからって理由で、増長し続けてこの世に未練を残している、惨めで、惨めで、惨めで惨めで惨めで惨めな負け犬の亡霊だ! いいか、おまえはこれから私に倒されるんじゃない! ……除霊されるんだよ。いまから文字通りこの世から綺麗に切り離してやるから、せいぜい気持ちよく成仏しろや!』

「お……お……お……ゥォオーーーーーーーーーーーーーッホッホッホ!」

『……ゴリラ?』

「あなたのお気持ちは大変よくわかりましたわ! そんなに威勢がいいのでしたら、一切のお遊びはなく、一瞬のうちにくびり殺して、終わらせて差し上げましょう!」

『そいつぁ上等だ。やれるもんならやってみな』

「名乗りなさい、無謀で無策で、無礼な新人魔法少女さん! せいぜい息の根を止める、その刹那までの間は覚えて差し上げますわ!」

『おう、いいか、よく聞いとけ。私の名前は……鈴木さく……じゃなかった。〝キューティブロッサム〟だ!! おまえをブッ飛ばす、魔法少女の名だ!』

「初めましてキューティブロッサム。そして──さようなら! キューティ何某ナニガシさん!!」


 そう言い終えるや否や、レンジがものすごい勢いで、グラウンドの砂を巻き上げながら突進してきた。


「もう忘れてるじゃん……」


 私はそう呟くと、持っていたインカムを投げ捨て、レンジの突進を迎え撃つべく、両手を前へ突き出した。
 真っ向勝負。
 玄間には止められていたが、策を弄さず、正面から叩き潰す。
 それが私なりの流儀だ。

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