世界崩壊を機にブラック会社を退職し魔法少女になりました~前の会社でパワハラセクハラしてきた上司や、虐めを行ってきた同期が助けを求めてきてももう遅い。……まあ助けますけど
第12話 もう終わり?☆人類存亡の危機
「……ん?」
今なんて言った? こんな世界、滅ぼしますとか言わなかった?
聞き間違いかな? 聞き間違いだよね?
「さ、構えなさいな、魔法少女。たとえ新人といっても容赦なくぶっ殺して差し上げますわ! そして生きたままその心臓を抜き取り、刺身で食べて差し上げます。付け合わせは……そうね、山葵なんていかがかしら?」
私は耳につけていたインカムを、コンコンと人差し指でつつき、ひそひそ声で続けた。
「……ちょちょちょ、ちょっと、聞いてるんでしょ玄間さん!? いや、プリン・ア・ラ・モード! なんか聞いてた話と違うんですけど! あの人、ちょっかいかけるだけって言ってましたよね!? なんかすごい物騒な事言ってるんですけど!? 世界滅ぼすとか言ってますけど? これ、おちょくられてるんですよね?」
『お、おかしいきゃと。今まではこんな事なんてなかったのに……そちらの様子はどんな感じきゃと? 一応訊いておくきゃとが、ミス・ストレンジ・シィムレスは冗談でそれを言ってるのきゃとか?』
「あー……いや、なんていうか長かった髪が逆立ってるし、目の瞳孔とか完全に開いちゃってるし……うちでも犬飼ってたんですけど、硬い餌あげるときとか、散歩のとき、かわいい雌の犬を見つけた時とか、ちょうどあんな感じの目をしてたような……たぶん私の勘だと、真剣です」
『……逃げるきゃと。キューティブロッサム』
「へ?」
『おそらく……というか、経験の浅いキューティブロッサムだと、まず間違いなく生きたまま心臓を抜かれ、刺身にして、わさび醤油で美味しく食べられてしまうきゃと』
「そ、そんなに危ないんですか? 私がここで戦って勝てる可能性は……?」
『ゼロ。きゃと』
「え、マジですか……?」
『マジもマジ。大マジきゃと。……よーく考えておいてほしいきゃと。ただでさえ、警察や自衛隊、魔法少女といった、国防の要となる人的リソースを投入してなお討伐出来ない化物を、国がそのまま放置すると思うきゃとか?』
「もしかして……、一回討伐に失敗してるんですか?」
『そうきゃと。我々は一度、大規模な〝対ミス・ストレンジ・シィムレス討伐作戦〟を発令して、それで失敗しているんきゃと。その時にかかったコストは、じつにこの国を二年は優に運営出来るくらいの額きゃと』
「と、途方もないですね……」
『だけどミス・ストレンジ・シィムレスには、特にこの国を滅ぼそうとすることも、人を殺傷するようなことも、建造物を破壊するようなこともしないから、上の偉い人たちが『じゃ、放置でいっか』みたいな感じで、その対処は見送ってきたんだきゃと……今日に至るまで』
「軽っ!? じゃあ、こういう事態は全く想定してなかったんですか?」
『なかったきゃとねぇ……』
「そんなしみじみと言われても……え? じゃあもう世界……というかこの国、マジで滅びるんじゃないですか」
『まだ、それは何とかなるきゃと』
「なんとかって……。あ、なるほど、こういう時のために、とっておきの作戦があるんですね」
『それは……上の人たちがそのうち考えつくと思うきゃと』
「ダメな思考のタイプの人間だ……じゃあ私、ここで逃げられないじゃないですか」
『いや、ここは是が非でも逃げてもらうきゃと。もうすぐそっちに応援が来るきゃとから、それまでは全力で逃げてほしいきゃと』
「応援っていっても、いま魔法少女の子たちはみんな有給休暇中なんですよね? 他にも新人の魔法少女が?」
『勿論、応援に来てくれるのは特殊部隊や自衛隊のどちらかきゃと。その人たちが時間を稼ぐから、キューティブロッサムはその間に逃げてほしいきゃと』
「……でも、それじゃあ勝てないんですよね? あのインベーダーの様子じゃ、もう普通に命を奪いに来るだろうし……無駄死にになっちゃうんじゃ……」
『さっきミス・ストレンジ・シィムレスからも聞いたと思うきゃとが、新しい魔法少女はもうこれ以降出てこないんきゃと。キューティブロッサムみたいなのは本当にレアケース……つまり、魔法少女にはもう替えはきかないのきゃと』
「いやでも……」
『うーん、これはあまり言いたくはないきゃとが、この緊急時において命の重さは平等ではないきゃと。魔法少女の数の減少は即ち、インベーダーへの対抗手段の減少。それはひいては、人類存亡の危機へとつながるのきゃと』
なんだそれは。
言いたいことはわかる。言っている事もわかる。人類存亡という危機を回避したいという気概もわかる。これが最低限のリスクヘッジだという事も当然わかる。
けど、飲み込めない。
こんな魔法少女になりたての、これから役に立つかどうかもわからない、ペーペーの魔法少女のために、どうして普段から身を粉にして人々の役に立っている人たちを、さらに犠牲にしなければならないんだ。
それに魔法少女の敵がインベーダーなら、インベーダーと戦って死ぬ事こそが、本望なのではないのだろうか。
『だからここはぐっと堪えて、次の反撃のために、力を蓄えて──』
「──引きません」
『きゃと?』
「プリン・ア・ラ・モード……いえ、玄間さん。このインカムを今すぐ、この小学校の校内放送に繋いでください。大音量で」
『な、なにをするつもりきゃとか……?』
「魔法少女の、魔法少女なりのパフォーマンスですよ。あの勘違いインベーダーに、度肝抜かせてやりますとも!」
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