下弦の陰陽師

北 伊理奈

第八話 夏の終わりの訪問者

       下弦の陰陽師


第八話 夏の終わりの訪問者


 夏休みはあっという間に過ぎていった。

 高校の夏休みの課題と、陰陽師としての修行に明け暮れて、遊びらしい遊びは全くできなかった。こんな夏休みは生まれて初めてだ。
 
 しかし、不思議と充実した気持ちで新学期を迎えることができた。
 
 俺も少しは成長できたということだろうか。



 
 『おっはよー!全弥、久しぶりだな。』

 飄が元気良く挨拶をし、教室に入ってきた。

 『さっき、犬飼(いぬかい)先生達が話してたんだけどさ。転校生が来るらしいよ。』

 犬飼先生とは俺達の担任で歴史の先生だ。

 『マジ!?すげー!どんな奴かな?』

 他のクラスメイトも転校生に興味津々らしく、騒ぎ出す。

 キーンコーンカーン
 チャイムが鳴る。


 『おはよう。皆、席に着きなさい。』

 犬飼先生は30代の男性教員だ。若く見えるが年齢はアラフォーに近いという噂がある。
 あまり自分のことは語らないので、私生活は謎。少しミステリアスな所が女子生徒には人気らしい。

 『夏休みはどうでしたか?新学期は気持ちを引き締めて始めましょう。もう話題になってたみたいだけど…新しいクラスメイトを紹介します。』

 クラス一同が驚きの声を上げる。

 教室に入ってきた生徒は金髪で碧眼。明らかにイケメンの外国人だった。

 『クレイシス・ウァティカヌスです。クレイと呼んで下さい。母国語はイタリア語ですが、英語と日本語を少し話せます。』

 クレイはイタリア人で、留学生として日本へやってきた。あまりにも日本のアニメやマンガが好きすぎて、日本の高校を体験したいということで特別に入学を認められたらしい。

 『やばっ!格好良い~!!』

 クラスの女子が目を輝かせている。

 『何だよ。男かよ。』 

 飄と他の男子生徒が愚痴を溢す。

 俺は全く興味がない為、窓の外をぼーと眺める。

 『えーと…席は英語が得意な学級委員長の隣で…』

 『僕はあの人の隣が良いです。』

 クレイは笑顔でとある生徒を指差した。

 『え?』

 飄が俺の顔を見る。

 ん?

 ずんずんと180cm以上はあるであろう図体が近寄ってくる。
  
 『初めまして。どうぞよろしく。』

 『は?俺?』

 ニコッと笑い、隣の飄を無理矢理に席から立たせる。性格はわりと強引だ。

 『よ…よろしく…』

 


 クレイはすぐにクラスに溶け込んだ。
 持ち前の明るさと勉強熱心な姿勢が周りの共感を得ていた。
 もちろん、見た目のインパクトが絶大の人気なのだが、日本語の使い方をたまに間違えたり、意味が理解できなかったりとたどたどしさがある部分は本来の素直な性格の親しみやすさを滲み出していた。

 

 
 下校の帰り道

 全弥と飄は二人でテスト勉強をする為、飄の家へと向かっていた。

 『何で全弥だったのかな?』

 クレイと俺は面識がなかったはず。どこがで会っていたのだろうか?

 『さぁ?俺の髪色のせいかな?』

 

 全弥の髪は生まれつき特徴的だった。
黒と白、灰色が混じっていて、小学校と中学校の頃はそのことをからかわれたこともあり、クラスメイトと喧嘩になったし、外国人と間違えられたこともある。

 

 『ただいまー。あれ?先に雪菜が来てるな。』

 飄の彼女の大伴雪菜は近くの女子高に通っていて、自宅も近い為、よく遊びに来ていた。
 二人は家族ぐるみで仲が良いのだ。
 
 『おじゃましてます。全弥君、久しぶり。』

 夏休みの海の家でのできごと以来、会っていなかったが元気そうだった。

 雪菜に今日の学校でのことを話した。

 『イタリア人の留学生?ほむらちゃんの中学校にも留学生の女の子が来たらしいよ。しかもイタリア人!』
 
 雪菜とほむらは夏休みから連絡をまめに取っている。雪菜は妹ができたような気がして、とても可愛がっていた。
 
 煉は心境の変化からか夏休み明けからしっかりと学校に通っている。

 
 

 昼食を終えて、3時間ほどテスト勉強に集中する三人。
 夕飯の時間までには自宅に帰り着くように、早めに切り上げる。

 『よし!今日はここまでだな。よく勉強した~!』

 飄はほぼ漫画を読んでいたような?

 『じゃ、俺はそろそろ帰るな。また明日。』

 雪菜は飄の家で夕飯作りの手伝いをしていた。そのまま夕飯も食べて帰るようだ。




 全弥は歩いて数分で自宅に着いた。
 
 残暑らしい蒸し暑さで汗ばむ。喉が渇いたので、すぐにでも水を飲みたい気分だった。

 ふと自宅の玄関に目をやると、誰かが立っていた。

 その髪は金髪で、身長も高い。それに全弥と同じ制服を着ている。

 

 
 『え?何でクレイがここに?』

 クレイは帰ってきた全弥に気がつき、振り返るとニコッと笑い、静かに近寄る。

 『不思議でしょ?自分に何が起こっているのか。』 

 その言葉には深い意味を含んでいるようだった。

 『今はね。まだ教えられないけど、いつか分かるよ。裏の陰陽師さん。』


 俺の家系が裏陰陽師ということを知っている外部の人間はほぼいないはず。
 
 どうして?

 どうして知っている?

 

 『今日は君の家を見てみたかっただけ。じゃあ。また、あした。』

 

 クレイは何者なんだ?

 なぜ、俺が陰陽師の家系だと知っている?




 
 全弥はその場に立ちすくみ、動けなかった。

 あまりにも唐突な出来事に動揺していた。

 クレイは何者なのか?

 危険な人物なのか?

 また自分は試されることになるのだろうか?

 頭の中は色々な考えがぐるぐると巡っていた。



 
 その訪問者は夏の灼熱の太陽のように光輝き、反射した光が目を眩ますように、周りを惑わす。
 
 一方的に、そして理不尽に夏の終わりを告げた。
 


 
 

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