下弦の陰陽師

北 伊理奈

第四話 哀しみの海 前編

       下弦の陰陽師

第四話 哀しみの海


 『イエーイ!海ー!!』

 夏休みに入り、俺達は海に遊びに来た。
飄とほむら、ほむらの弟で中学一年生の煉(れん)も一緒だ。
 飄の彼女の大伴 雪菜は海の家でバイトをしている。海の家と海の近くのペンションは大伴家が管理をしていて、夏休み中は手伝いとしてこの海に来ていた。
 雪菜の叔父が管理人をしている為、今回は宿泊代を無料にしてくれるらしい。
 
 
 海の水面は目が眩むほどの太陽が反射してキラキラと光り、どこまでも続くかのような広大さと海底の深さは己のちっぽけさを痛感させられる。

 修行に明け暮れていた日々から解放され、束の間の休息と言ったところだが、今回は他の目的がある。

 『みんな来てくれてありがとう。人手が足りなくて困ってたの。』

 『バイト代は弾んでくれよな~』

 
 3日間だけのバイトとして海の家とペンションを手伝うことになり、やってきたのだ。

 『最近はこの辺りで行方不明者が出てるらしいの。叔父さんが警戒を厳しくはしてるんだけど…みんなも気をつけてね。』

 『え!?怖いなぁ。』

 

 キラッと何かが光った。

 俺はハッとして後ろを振り返る。
 
 遠くから監視されてるような、見られているような感覚。
 
 

 『どうかした?』
 
 『いや…気のせいかな。』


 じーと煉が俺を見ている。煉は霊感があるらしく、何かを感じ取ったようだ。
 
 
 『行方不明って…もしかして若い男性とかですか?』
 
 『え!?そうなの!どうして分かったの?』

 
 勘弁してくれよ。今のでどうやって分かるって言うんだ。

 『なんとなく…』

 ガクッとなり、俺とほむらは目を合わせた。 
 『煉が霊感があるのは伏せておこう。心配させたら悪いし。私が後で詳しく聞いてみるね。』
 

 
 煉は登校拒否児だった。新学期からいじめに耐えていたのだが、我慢の限界を超えた時に相手に攻撃をしてしまい、大怪我を負わせた。
 
 しかもその攻撃方法は呪術。
 
 陰陽師の火の家系である煉を敵に回すなんて馬鹿な奴だ。
 しかし、怪我を負わせたことによりクラスメイトから恐れられるようになり、学校に行きづらくなってしまった。

 
 煉の力はまだ未熟な為に力のコントロールが利かない。
 15歳までには落ち着くと言われているのだが、力が壮大であればあるほどコントロールが難しいのだ。
 
 煉の力は異常だった。

 怪我を負わせたクラスメイトも無事に退院をして、今は元気に登校しているらしい。
 親と一緒に灯台寺家にいじめの件を謝罪にも来たそうだ。

 それでも、煉はずっと学校を休んでいる。
 
 自分の力が怖くなったのだろう。
 
 誰かを傷つけるのが嫌で心のドアを閉ざしてしまった。
 姉であるほむらには心を開いているようで、
良い話し相手になっていた。

 俺はと言うと…

 じー

 『みっ見られている…?』

 特に何も言われないが、俺に興味はあるらしい。
 複雑な心境だ。


 
 『じゃあ、ほむらちゃんと煉君はペンションの掃除をお願いね。飄と全弥君は海の家の接客と配膳をよろしく!』

 

 一日目は怒涛のように過ぎていった。
 
 夏の海は溢れかえるほどの人の多さ。注文が入り、厨房にオーダーを伝え、出来上がったらすぐに運ぶ。食べ終わった後の片付け。待っている人を席に通す。手が空いていたら商品の補充。暑さで喉が渇くので飲料はすぐに空になってしまう。
 
 『これじゃ、全然遊べないな。』

 俺と飄ははぁーと溜め息を漏らす。




 『すみません!この人、見かけませんでしたか?さっきから連絡がつかなくて…』

 10代後半くらいの女性が声をかけてきた。
 
 スマホの待ち受けには女性と同じ年くらいの男性の顔が写っていた。

 『もしかして…行方不明?』

 『分からないんです。一緒に来ている友人も探してくれてるんですが…今から警察に行こうかと思って。』

 すると、厨房から雪菜の叔父が出てきた。
 
 『それは心配だね。見かけたらすぐに連絡するよ。』

 女性は不安げな表情のまま友人に連れられ、警察に向かった。

 『これで三人目だよ。まいったもんだ。』



 
 俺と飄はペンションにいる三人が心配になった。
 
 そしてスマホが鳴る。

 『ほむら、どうした?』

 『煉、そっちに行ってない?急にいなくなっちゃって…』
 
 
 
 まずいぞ…煉まで行方不明!?

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