下弦の陰陽師

北 伊理奈

第三話 龍を呼ぶ。

       下弦の陰陽師

第三話 龍を呼ぶ。

 汗ばむ初夏。

 あの裏陰陽師五家の集まりから四ヶ月が経った。
 俺の修行は高校の期末テストという学生の本分の前では多少の寛容さを見せた。

 『テスト期間中は修行を休ませてくれるなんて、マジ助かったわぁ~』
 
 『こら!息抜きして良いなんて言ってないわよ。』

 木蓮が勉強を教えてくれることになった。現役女子大生から教えてもらえるのは有難い。
 クラスの男どもに羨ましがられたくらいだ。
 
 実際はスパルタ指導で、幼馴染みの中では一番厳しい。躾やマナーにも口うるさいのだが、母親を早くに亡くした俺にとっては姉のような貴重な存在だ。
 
 木蓮の木の家系では代々、占術や暦読みを得意としている。
 昔の人は太陽や月、星を眺めては暦を読んだという。
 そのためか木蓮は文系ではなく、ゴリゴリの理系。それも天文学を専攻しているのだ。
  
 『木蓮は何で今の大学を選んだの?天文学なんて俺にはさっぱりだよ。どこが面白いわけ?』
 
 『そうねぇ。今の自分や過去の人の想いをもっと知る為かな。』

 『え?』
 
 『私達の家系って特殊でしょ?普通の家庭じゃない。使命があって生まれてきた。でも望んだわけじゃない。』

 俺も望んだわけじゃない。仕方なくだ。

 『だから知らなきゃいけないと思ったの。全てを知った上で、理解できなくても…納得できなくても。何か意味があるんだって。』 

 
 自分の存在理由…

 
 『それに何より、子どもの頃から星を見るのは好きだったから』

 木蓮は穏やかに微笑んだ。

 

 
 その後、期末テストは無事に終了した。

 と言っても赤点ギリギリなのは相変わらずだろうけど。
 夏休みの補習は免れたわけだ。
 
 『あ~!海行きてぇ~!』
 
 『全弥!幼馴染みのほむらちゃんだっけ?
あの娘も誘って海行こうぜっ』
 
 クラスメイトの志能田 飄(しのだ ひょう)
が言った。
 飄とは小学校からの友人だ。

 『ほむらは受験生だからダメ~』
 
 ほむらは空手の推薦でほぼ合格は決まっている。
 
 『何だよ~。ほむらちゃんの水着姿見たかったなぁ』

 

 
 こんな会話や日常が普通の高校生なんだろう。しかし、俺は明日からまた修行の再開だ。
 
 友人と談笑している俺は普通に見えるのだろうか?
 
 明日からまた傷だらけの日々、疲れはてては死んだように眠り、また朝から修行と同じ繰り返しだ。
 
 友人の傍らで笑いながら、心の中は次の修行のことで頭がいっぱいだった。
 
 葛藤と高揚。悔しさと屈辱。

 
 
 自分の存在理由。

 
 知りたい。知らなくてはいけない。

 
 知ったその後に何があったとしても。


 

 
 この期待はいづれ彼自身を苦しめることとなる。
 誰かに必要とされることに恋焦がれていた少年はやっと自分の居場所を見つけた。
 その居場所は温もりがあるような安らかな場所ではない。
 足元は真っ暗で一歩間違えれば奈落の底へ落ちる。寒むさが刺のように突き刺さり、光を見つけては見失う。
 暗がりに一本の灯火を宿すように、己が火になり、光とならねば生きていけない。


 
 その光は絶やすことは許されない。






翌日

 

 『出でよ!青龍!』
 
 東の守護神、雷と風を司るもの。
 
 天からの稲妻は風と共に全てを巻き込み、その熱は光を生み出す。

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