下弦の陰陽師
第二話 試されるもの
下弦の陰陽師
第二話 試されるもの
『くっそ!何であんなに強いんだよ!ただの白い犬のくせに!』
俺は父、兼光の命により陰陽師としての修行を始めた。
表である陰陽師五家は俺を裏陰陽師頭の跡取りと認めたわけではなく、ただの力試しだと言ったそうだ。
現在の表宗家の力量は歴代史上最高であり、当分は安泰ということだろう。俺の出番はないとしても跡取り問題はどの時代でも取り沙汰される。
不思議なことに宗家の承諾もすんなりと下りた。拍子抜けだ。幼い頃より修行をしてこなかった俺は16歳まで全くというほどこの陰陽道の知識と経験もないまま、荒療治とも言える訓練を日々、繰り返していた。
『全弥!犬じゃなくて虎よ!白虎!あの白虎を手懐けなければ、本番の闘いなんてできっこない!』
ほむらは俺の修行の指南役としてこの稽古に付き合ってくれている。
東西南北の四神と言われる西の守護、白虎は白い虎の姿をしたいて、巨大な犬のような猫のような図体で、俺にめがけて鋭い爪を振りかざした。怯む俺に容赦なく繰り返される攻撃。
『まだまだ~!陰陽師なんぞ程遠いぞ!ただの小わっぱめ!』
『ちょっ!ストップ!そろそろ休憩させてくれって!朝から晩までなんてブラック過ぎだろ~』
『す…すと?ぶら…?』
白虎は平安時代から陰陽師に遣えていた。その性格は召喚した者の影響があり、それぞれ個性が出るらしい。俺の白虎は気性は荒いものの、面倒見の良い奴で修行を行う上では打ってつけだった。しかし、英語や現代語には弱いので言葉には気をつけてやらないといけない。
『そうね。私も疲れちゃった~。皆でお茶にしましょう。』
庭は木や石、地面まで粉々になっていたが直ぐに元に戻った。結界を張れば、その結界の中は簡単に修復可能なのだ。
俺は未だに結界張り、南の守護朱雀と白虎の召喚しかできない。何て無能…
朱雀はほまれの使役でなかなか使いこなせないし、白虎は金の家系である鏡矢の使役だ。
辛うじて召喚までは出来たが、手懐けるなんて到底無理だ…
『鏡矢…昔は優しかったのに。今じゃ俺を目の敵だよ。』
『そうねぇ。鏡ちゃんもお仕事忙しいんだよ。お医者さんなんて毎日気が抜けないでしょ?』
鏡矢は裏陰陽師五家の専属医師だ。ただ、今は表の金の家系の跡取りが病床に伏せている為に、表と裏を入ったり来たりと慌ただしい日々を送っていた。
『そんなに具合が悪いのか?表の金の家系の跡取りは…美鈴さんだっけ?』
話をしたことはないが、一度見かけたことはある。綺麗な金色の髪をした女性。華奢な見た目とは裏腹にとても明朗で豪快な性格だった。
『妊娠しているらしいの。あまり体調が良くないらしくて…もしかしたら永くはないかもって。お腹の赤ちゃんもどうなるか…』
そうだったのか。俺は本当に何も知らない。
『全弥はもし跡取りと認められたら…結婚相手はどうするの?』
『え!?そんなこと考えたこともねぇよ。』
すっかり忘れていた。正式に跡取りとなれば、すぐに結婚させられる。妻に次の跡取りを産ませる為だ。
血筋が保たれれば良いことだから、結婚をせず愛人を作ることも認められている。基本的には五家の親類、もしくは縁者の中から相手を選別されるのだ。
それ以外では神通力や霊能力のある者は例外として認められるが、かなりの粗暴な扱いを受けるらしい。
俺の母も部外者だった。
『あれ?じゃあ美鈴さんの相手は誰なんだ?』
『俺だよ。』
白衣を着た鏡矢が煙草を咥えて立っていた。
『うわぁ!びっくりさせんなよ!』
鏡矢とまともに話すなんて久しぶりだ。白虎の召喚契約の際に話して以来。三ヶ月ぶりだろうか。少し痩せたように見えた。
『美鈴さん…体調どう?』
何だ…ほまれは美鈴さんの相手が鏡矢だと知っていたのか。知らないのは俺だけ?
『芳しくないな…』
二人は恋人同士だったのか?結婚なんて話しは聞いてないぞ。
しかし、愛する人の苦痛の表情を見るのは辛いだろう。鏡矢もきっと辛いはずだ。
『そのわりにはよく笑ってやがったけど』
そうだった。美鈴さんはよく笑う人だった。
『そっか…無理してないと良いね。』
鏡矢はそれ以上を語らなかった。吸い終わった煙草をアッシュケースに入れ、じゃあなと手を振り、暗い表情を見せまいとくるりと向きを変え帰ってしまった。
本人同士にしか分からないことなのだろう。
誰もが辛さを抱えて生きている。亡くなった俺の母も兄も…
心配そうな目で全弥を見る白虎。
『おら!休憩は終わりだ!再開するぞ!』
『はい。はい。わかったよ~。』
鏡矢と白虎は似てる。やはり面倒見の良い所も、優しい眼差しも。
今はまだ認めてもらえないかもしれないけど、いつか鏡矢に安心してもらえるよう。
昔、俺に優しくしてくれたあの頃の鏡矢に戻れるように。
『よし!かかってこい!白虎!』
俺はやるべきことをやらなければいけない。
『ちょっと待って!先に結界を張らなきゃ!』
『あ!やべっ』
ドーン!!!という音と共に地面に白虎の爪痕がデカデカと残った。
『あ~も~!やるべきことをやってからにしてよ!』
そう。俺にはやるべきことがある。
『これは…親父に怒られるな…』
やるべきこと…たくさんあり過ぎる。
まずは目の前のことからだな。
第二話 試されるもの
『くっそ!何であんなに強いんだよ!ただの白い犬のくせに!』
俺は父、兼光の命により陰陽師としての修行を始めた。
表である陰陽師五家は俺を裏陰陽師頭の跡取りと認めたわけではなく、ただの力試しだと言ったそうだ。
現在の表宗家の力量は歴代史上最高であり、当分は安泰ということだろう。俺の出番はないとしても跡取り問題はどの時代でも取り沙汰される。
不思議なことに宗家の承諾もすんなりと下りた。拍子抜けだ。幼い頃より修行をしてこなかった俺は16歳まで全くというほどこの陰陽道の知識と経験もないまま、荒療治とも言える訓練を日々、繰り返していた。
『全弥!犬じゃなくて虎よ!白虎!あの白虎を手懐けなければ、本番の闘いなんてできっこない!』
ほむらは俺の修行の指南役としてこの稽古に付き合ってくれている。
東西南北の四神と言われる西の守護、白虎は白い虎の姿をしたいて、巨大な犬のような猫のような図体で、俺にめがけて鋭い爪を振りかざした。怯む俺に容赦なく繰り返される攻撃。
『まだまだ~!陰陽師なんぞ程遠いぞ!ただの小わっぱめ!』
『ちょっ!ストップ!そろそろ休憩させてくれって!朝から晩までなんてブラック過ぎだろ~』
『す…すと?ぶら…?』
白虎は平安時代から陰陽師に遣えていた。その性格は召喚した者の影響があり、それぞれ個性が出るらしい。俺の白虎は気性は荒いものの、面倒見の良い奴で修行を行う上では打ってつけだった。しかし、英語や現代語には弱いので言葉には気をつけてやらないといけない。
『そうね。私も疲れちゃった~。皆でお茶にしましょう。』
庭は木や石、地面まで粉々になっていたが直ぐに元に戻った。結界を張れば、その結界の中は簡単に修復可能なのだ。
俺は未だに結界張り、南の守護朱雀と白虎の召喚しかできない。何て無能…
朱雀はほまれの使役でなかなか使いこなせないし、白虎は金の家系である鏡矢の使役だ。
辛うじて召喚までは出来たが、手懐けるなんて到底無理だ…
『鏡矢…昔は優しかったのに。今じゃ俺を目の敵だよ。』
『そうねぇ。鏡ちゃんもお仕事忙しいんだよ。お医者さんなんて毎日気が抜けないでしょ?』
鏡矢は裏陰陽師五家の専属医師だ。ただ、今は表の金の家系の跡取りが病床に伏せている為に、表と裏を入ったり来たりと慌ただしい日々を送っていた。
『そんなに具合が悪いのか?表の金の家系の跡取りは…美鈴さんだっけ?』
話をしたことはないが、一度見かけたことはある。綺麗な金色の髪をした女性。華奢な見た目とは裏腹にとても明朗で豪快な性格だった。
『妊娠しているらしいの。あまり体調が良くないらしくて…もしかしたら永くはないかもって。お腹の赤ちゃんもどうなるか…』
そうだったのか。俺は本当に何も知らない。
『全弥はもし跡取りと認められたら…結婚相手はどうするの?』
『え!?そんなこと考えたこともねぇよ。』
すっかり忘れていた。正式に跡取りとなれば、すぐに結婚させられる。妻に次の跡取りを産ませる為だ。
血筋が保たれれば良いことだから、結婚をせず愛人を作ることも認められている。基本的には五家の親類、もしくは縁者の中から相手を選別されるのだ。
それ以外では神通力や霊能力のある者は例外として認められるが、かなりの粗暴な扱いを受けるらしい。
俺の母も部外者だった。
『あれ?じゃあ美鈴さんの相手は誰なんだ?』
『俺だよ。』
白衣を着た鏡矢が煙草を咥えて立っていた。
『うわぁ!びっくりさせんなよ!』
鏡矢とまともに話すなんて久しぶりだ。白虎の召喚契約の際に話して以来。三ヶ月ぶりだろうか。少し痩せたように見えた。
『美鈴さん…体調どう?』
何だ…ほまれは美鈴さんの相手が鏡矢だと知っていたのか。知らないのは俺だけ?
『芳しくないな…』
二人は恋人同士だったのか?結婚なんて話しは聞いてないぞ。
しかし、愛する人の苦痛の表情を見るのは辛いだろう。鏡矢もきっと辛いはずだ。
『そのわりにはよく笑ってやがったけど』
そうだった。美鈴さんはよく笑う人だった。
『そっか…無理してないと良いね。』
鏡矢はそれ以上を語らなかった。吸い終わった煙草をアッシュケースに入れ、じゃあなと手を振り、暗い表情を見せまいとくるりと向きを変え帰ってしまった。
本人同士にしか分からないことなのだろう。
誰もが辛さを抱えて生きている。亡くなった俺の母も兄も…
心配そうな目で全弥を見る白虎。
『おら!休憩は終わりだ!再開するぞ!』
『はい。はい。わかったよ~。』
鏡矢と白虎は似てる。やはり面倒見の良い所も、優しい眼差しも。
今はまだ認めてもらえないかもしれないけど、いつか鏡矢に安心してもらえるよう。
昔、俺に優しくしてくれたあの頃の鏡矢に戻れるように。
『よし!かかってこい!白虎!』
俺はやるべきことをやらなければいけない。
『ちょっと待って!先に結界を張らなきゃ!』
『あ!やべっ』
ドーン!!!という音と共に地面に白虎の爪痕がデカデカと残った。
『あ~も~!やるべきことをやってからにしてよ!』
そう。俺にはやるべきことがある。
『これは…親父に怒られるな…』
やるべきこと…たくさんあり過ぎる。
まずは目の前のことからだな。
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