SEASON

うさみかずと

第3話

電車に乗って三十分。徒歩五分のところにある河川敷のグラウンドには、早くも上級生が集まっていた。ピッチャーのりかこさん(三年)とショートのソフィーさん(二年)。この二人は最初のインパクトが強かったからすぐに分かった。あんこに一通り昨日のメンバーを教えてもらったからなんとなく分かる。ベンチの前でバットを振っているのは、レフトを守っていた身長が高くてりかこさんに負けないくらい長い綺麗な髪の織部雅さん(三年)だ。セカンドでノックを受けている岡希さん(二年)は、私たちに気がついたのか声をかけようかきょろきょろしていた。ノッカーの楠田翔子さん(三年)は、まったく気がついていないからどんどん球際に打っていた。
「のぞみ~あと三十本とらないと終わんないよ~」
「お、お願いしますもう一本」
「なにをへばってんのよ。弱音はいたらもう十本追加ね」
「りかこさん。いけないんだ~またのぞみちゃんいじめてる~」
あんこは、そう言ってグラウンドに駆け出した。先輩たちの視線がこっちに集まる。私の姿を見た先輩たちは練習を一旦中断した。
「こんにちは。くるみちゃんもいっしょです。真咲さんは?」
「真咲さんなら外野で走ってるよ」
ノックを打っていた翔子さんは、ライトのポールを指差し言った。
「じゃあ私挨拶してきますね」
あんこは、わたしの手をひいてライトの最深部まで走り出す。こちらに気がついて走り出すのを辞めた真咲さんは、近づいてくるのがあんこと分かって笑ったように見えた。遠くからは分からなかったが私よりも小さい、あんこくらいの身長で一六〇センチあるかないか、チームのキャプテンって聞いてたからもっと大きいと思った。まさきって言う名前も男らしいから怖い人かなと想像してたけど幼女みたいな顔でこのチームで一番可愛いかも。
「こんにちは。真咲さん。この子が昨日言った有望部員です」
「はじめまして。咲坂久留美です。あの昨日はいろいろすいませんでした」
真咲さんは、右手を差し出して握手を求めた。私も応じる。
「まぁそう固くならずに、昨日は就職課にいってたから会えなかったけど災難だったね。りかこにやられたんでしょ。あの娘負けず嫌いだから許してあげてね」
「別に気にしてないです」
そう言うと真咲さんは笑って私の手を今度は両手で包み込むように握り顔を近づけていった。
「ピッチャーとしての度胸はあるみたい。安城!!全員をベンチに集めなさい。歓迎します咲坂久留美さん。ようこそ栄光大女子硬式野球部へ」

「集合~」
キャプテンが号令をかけると一斉にベンチ前に円をかくように集まった。
「これから一週間後の港経済大学みなとけいざいだいがくとの初戦に向けてキャッチボールのあと実戦をやる。ピッチャーは、りかこと楠田。怪我明けの立花は調整して帳尻をあわせて、それ以外は、七イニング各打席でバント、エンドランをまぜてまわすこと。咲坂は別メニュー。以上」
よし。
先輩たちは一塁線に一列に並んでキャッチボールをはじめた。最初は五メートルほどの近い距離で肩をならす。しかし肩ならしにしてはボールをグラブでとってから投げるまで早い。グラブのなかでボールを握りかえるスピードがいままで見てきた中で男子よりも早かった。特にソフィーさんは取ったと同時に投げている。
「驚いた。これが大学野球のレベルよ」
「真咲さん。試合って公式戦ですか?」
「そうよ。リーグ戦。秋季リーグ三位の港経済大学。うちが秋季四位だから格上になるね」
「うちより強い・・・・・・」
私は身震いしていた。早く投げたいこんな気持ちになったのは久しぶりだ。
「咲坂。あなたの球を受けてみたいのだけど、あとでブルペンに来てくれる?」
「はい!!」

ゆっくりキャッチボールをして遠投をすませたあと、私は一塁側ベンチ側のブルペンに走った。真咲さんはキャッチャー防具を装備して待っていた。まっさらなプレートまだ誰も足を踏み入れてない。右足をプレートにかけて振りかぶる。ミットだけを見て投球モーションに入る。足をふり上げたときに感じた昨日より力が入っていなくてスムーズに体が動く。着地した足を開かないようにつま先をホームにまっすぐ向けて、並進運動の力を球の勢いに変換する。腰の回転が始まって少しずつ体が前を向く。腕をムチのようにしならすイメージはもう何千回としてきた。指がボールを離れる最後の瞬間人差し指で押し込んだ。
バシィィィィィ。
乾いたミットの音が河川敷に響く。
「驚いた。これは想像以上」
真咲さんはそう言ってボールを投げ返した。そしてどんどん要求した。アウトコース。インコース。高め。低め。アバウトなコントロールの私がそこに投げれているように見えるのは真咲さんのキャッチングがうまいからだ。そして全部ミットの芯でとっているから音もいい。なんだか今日は球が走っているような感覚になる。
「よし。咲坂マウンドに上がって見よう」
「え。でも昨日火だるまになったばかりで・・・・・・」
「大丈夫。なんとかなる」



「ちょっと。早乙女さん。先発は私ですよ」
反対側のブルペンから来たりかこさんがマウンドに上がろうとしたところ止められて不機嫌になる。
「気持ちは分かるけど。あなた最近投げすぎ。エースが怪我したら二部降格確定なんだから。今日は打者三人で我慢しなさい」
あきらかに納得はしていないがりかこさんは頷いた。すごい睨まれたけど。
「じゃあ私が一番に打っていいですか。咲坂の球」



左バッターボックスに入ったりかこさんは、バットも振らず不良がいまから喧嘩をしかけるようにバットを肩に乗せてマウンドを睨んでいる。
「真咲さん。私まっすぐしか投げれませんよ。それに細かいコントロールもありません」
「コントロールは今の段階では大雑把に”このあたり”くらいでいいよ。ただ少しプレートに足をかける位置を変えるだけでいい」
「プレートですか?」
「そう。咲坂ならそれだけで分かると思うから。あとはミットめがけて投げなさい」
真咲さんはそう言うとマウンドを降りた。私はその意味を深く考えていた。プレートの位置。そんなこと意識したことはなかったがいつもちょうど真ん中の位置に足をかけている。バッターは左。真咲さんの意図。ただ投げるだけにここまで神経を使ったことなんて今までなかった。おもしろい。
プレー
真咲さんのミットは、打者の胸元をえぐるインコースに構えられた。考えろ。りかこさんの勝気な性格からして様子を見るなんてことはしない。初球から振ってくる。ならばこの初球がこの打席一番の勝負になる。
私はプレートの左端ぎりぎりのところにりかこさんに悟られないように足をかけて渾身のストレートを投げた。
やはりりかこさんは、初球を狙っていた。右足を振り子のようにふりあげインコースも関係なく踏み込んできた。
ガツッ
鈍い音が響いて白球はキャッチャー後方にあがる浅いフライになった。真咲さんがなんなく捕球して抑えた。
「いまのめちゃくちゃ速くなかった?りかこ」
ネクストバッターの新庄詩音しんじょうしおん(三年)さんとベンチに戻るりかこさんとの会話が聞こえる。
「いまのは打ち損じただけよ。ただ今日は手元で伸びてきてるから昨日より若干始動をはやくしたほうがいいかもね」
「ちなみに創世大のひいらぎとどっちが速い?」
挑発気味に笑う詩音さんに機嫌を悪くしたりかこさんは、無言でベンチに戻り外野手用のグラブをつけてライトを守る堀越美雨ほりこしみうさんと入れ替わる。
「柊と比べるほどのピッチャーじゃないわ。でもスピードだけならもしかしたら・・・・・・」

「SEASON」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く