獄卒鬼の暇つぶし

うさみかずと

第25話

私とセラはまず男の髪の長さに驚いた。腰の位置まで届きそうな長さの髪はその不気味さとはうらはらににとても綺麗に整えられていた。

「二代目こちらは?」

「あぁ西口だ」

二代目のさらっとした紹介に西口と呼ばれた男は不満げな顔をしてズボンのポケットからおもむろに紙切れを取り出して、

「俺はこういう者だ、国枝の友人よ」
受け取った紙切れには『不思議現象事物最強研究所 西口直道』と記されてあり、私はなんのことか分からずセラと顔を見渡して首を傾げた。

「そう言った反応をするのは無理もない。俺はありとあらゆるオカルト現象を単独で研究しているいわば孤高の探求者だ」

察し。この男は変な人間だ。

「そ、それは悪魔も含まれているでしょうか」

「もちろんだ、お嬢さん」

前のめりに質問してきたセラに西口は嬉しそうにたたみかける。

「去年の12月に隕石が地球の軌道すれすれを通過したニュースがあっただろう、世界規模の混乱をさけるためにNASAが発表を遅らせたやつだ。俺の計算次第では、あの隕石の軌道、あれは間違いなく衝突していた。でも衝突しなかった、なぜか、それは俺たちの知らない組織か、悪魔的な力が働いていたに違いない。そもそも……」

熱弁する西口に対してセラの反応はどんどん微弱になっていく。セラが求めている悪魔の情報はそう言うことではない。セラはこちらをチラチラ見てきて助けを求めていた。私はそっと二代目に寄り添い、耳打ちする。

「二代目」

「なんだ?」

「あの人間はまともなの?」
「まともなわけなかろう、成人をとうに超えて現在大学七年生だぞ」

「なるほど」

「しかし西口はスマホの修理店でアルバイトをしているから、お主の携帯もついでに直してもらえ」

ほら貸せと二代目は手の平をこちらに差し出して私から機械を受け取る。

すっかりオカルト話につかまってしまったセラを見兼ねて二代目は、手をぱんぱんと大きく二回叩き「もうそのへんにしておいてやれ」と西口を制した。西口は残念そうな表情をしてようやく腰をおろす。

「で、俺に話しってなんだよ、これでも雑誌のコラムを書いたり忙しいんだぜ」

「主は最近不思議な男が映った写真を撮ったと言っていたな、持ってきたか?」

「あぁ、ちょうど今度のネットコラムに上げようと思っていたんだ」

西口はどうやって隠していたのかは謎だが長い髪の中から一枚の写真を取り出してちゃぶ台の上に置いた。どこかの建物の二階から撮られた商店街通りの写真には人々がまばらに行き来している様子が映っている。今のところなんの変哲もない写真だ。

西口が指さした人物の影はたしかに周囲の人間とは逆に伸び、その形も歪だった。食い入るように写真を

「ほら見てみろ、こいつだけ日光に向かって影が伸びている」

「本当だ、なんだこいつ」見ていたセラに西口は続ける。

「俺はね、この世界に住んでる人間の半分は人ならざる者だと思っている。写真の男はそのいい例だと思う。ワクワクしないか? 世の中にはまだまだ不思議なことがたくさん溢れてんだぜ」

西口は最初こそは冷静に話していたものの、後半にかけて膨れ上がる興奮を抑えられず、立ち上がり希望に満ちた目で私たちを見つめていた。

「あぁ分かった、分かったからほら主の店で我が弟弟子の携帯を直してくれ」

適当に話を聞き流された西口は不服そうに二代目を睨んだ。がすぐに機械の具合を確認すると三本指をこちらに向けて言った。

「三本だ。金がないことは知っているから、その分働いてもらうぞ」

「御意、御意」

二代目はめんどくさそうに答えた。

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