闇を統べる者

吉岡我龍

国を憂う -邪香-

 ブリーラ=バンメアが『闇の王』を手に入れて以降、『ジグラト』という国はより独裁的に、そして扇情的に進化していく。
彼の作った御香が人間の箍を外し、心身の潜在能力を高める事によってもはや兵士だけでなく国民全体が『ネ=ウィン』の力を越えていたのだ。結果領土はどんどんと拡大して行き、『ジグラト』国内には他国の捕虜が奴隷として溢れ返る。
これらは金品と引き換えの人質返還に利用される事がほとんどであったが、中でも有能な戦士は大いに利用された。

「やれぇぇええええええっ!!!そこだぁぁぁっ!!!」

それが剣奴だ。訓練場を改築して作られた即興の闘技場には連日人が押しかけてきて猛者達の命を賭けた戦いに一喜一憂している。
今までの『ジグラト』にはなかった言葉通り、血沸き肉躍る興奮を間近な場所で安全に楽しめるこの興行は一気に国内を活性化させ、王妃の支持を高めていった。

どしゅっどどしゅっ!!!

そして今日の主役である『若き手負いの虎』と呼ばれる剣奴が瞬く間に3人の敵を倒すと歓声が割れんばかりに鳴り響く。
名前の由来は簡単で、両足を斬り落とされていて満足に動けないにも関わらず並み居る強豪達を牙のような鋭い槍で毎回倒してしまうからだ。更に被っている鉄仮面には虎の耳のような突起がついていた。
その異様な容姿とずば抜けた強さから現在『ジグラト』で英雄のように扱われているが所詮は奴隷。大きな槍を持つ彼もそれを自覚しているのか周囲に勝ち誇るような仕草は見せずに逆立ちして闘技場を後にする。

「いやいや~!素晴らしい!!流石は我が国一番の剣奴だ!!さて、褒賞は何を望む?」

剣奴の控室に戻ってくると事なかれ主義の権化とも呼べる、自身では剣どころか人を斬った事すらないであろう人物が醜い笑顔でそう話しかけて来ると彼は迷わず手短に答えた。

「親父に会わせろ。」

既に何度も行われているやり取りだった為に話はすんなりとまとまる。それから彼は興行主に連れられて地下深くの独房前まで来ると、中では四肢を失い、辛うじて生かされている状態の父に優しく声を掛けるのであった。







4将であるフランドルとその息子フランシスカが敗戦したらしい話はかなり前に『ネ=ウィン』へ届いていた。
だが彼らの遺体や『ジグラト』からの交渉にそういった動きが見られなかった為、真偽は不明という事で一部の人間以外には知らされていなかった。
「ねぇあなた・・・『ネ=ウィン』はこれからどうなってしまうの?」
妻のセンナがとても不安そうに尋ねてくるもビアードが答えられる内容ではない為言葉に詰まるしか出来ない。それでも悲痛な表情を読み取った妻も悲愴な顔を黙って向けてくる。
「・・・心配ない。『ネ=ウィン』は戦いで全てを勝ち取って来た国だ。ナルサス様もご健在だし魔術という力も持っている。大丈夫さ。」
息子ビシールの頭を優しく撫でながら何とか声を上げたのは自分自身を鼓舞する為でもある。ここで大黒柱であり恐らく現在4将最後の1人であるビアードがみじめな姿を晒せば家族や国民にも申し訳が立たない。
自分はこの国で生まれ育ち、そして戦ってきたのだ。であれば迷いはいらない。散る時もまた『ネ=ウィン』の人間として、国と家族を護るために散ろう。

この日『ジグラト』侵攻を命じられたビアードは静かに覚悟を決めると登城前の晩餐では無理に明るく振舞う。

更にはビシールが欲しがっていた国章入りの短剣を預けるとセンナは喜ぶ息子にばれないよう静かに涙を流すのであった。





 国家間の均衡というのは崩れやすい。それは歴史から見てもわかることである。それでもこれほど短期間で強大な戦力を手に入れた『ジグラト』という国は過去に例を見ない程異常な存在だ。

「ならぬっ!!ナルサスよ!!お前はこの国の後継者なのだぞ?!またこの前のように怪我を負ったらどうする?!」
しかし認めてはいけない立場というのがある。それが隣国であり、今まで彼の国の遥か上にいた戦闘国家『ネ=ウィン』だ。
「それには心配及びません。その為に此度はしっかりと軍を率いて戦うというのです。幸い私の事を良く知るビアードが残っている。彼が傍にいれば間違いなど有り得ない。だよな?」
「ははっ。このビアード、命に代えても皇子の御身を御護り致します。」
恩を仇で返すという表現では生温い。今までの関係をぶち壊した挙句、こちらの領土を侵している『ジグラト』を黙って見過ごす訳にはいかないのが『ネ=ウィン』の立場なのだ。
そうなると矛を交えるしかないのだがビアードが、いや、皇帝もその懸念点を払拭するには至っていなかったらしい。

「・・・お前は何故フランドルが破れたか考えんのか?」

大きな会議室ではあったが皇帝ネクトニウスの呟くような質問は末席のビアードにもしっかりと届く。そうなのだ。今まで武官はおろかろくな練兵もしていなかった『ジグラト』が何故この短期間でそれだけの力をつけたのか。
斥候の話でも戦いは割と一般的な形式で展開されており、夜襲などがあったものの甚大な被害が出た報告は一切上がっていない。なのに突然フランドル達が消息を絶ち、現場を訪れると『ネ=ウィン』兵の亡骸が累々と積んであったそうだ。
一寸先は闇という言葉通り、その全容が見えない。理解出来ないまま戦うという点だけはビアードも引っかかっていたのだ。
とんでもない猛者がいるのか、それとも軍の練度が高いのかでこちらの戦い方も変えていく必要がある。それこそ敵陣にカーチフみたいな人物がいれば惨敗どころか命はないはずだ。
国の為に戦う、そこに異論はない。だが無駄死にだけは避けねば残してきた妻や息子に申し訳が立たないのだ。父は最後まで勇敢に戦った。出来ればそう伝えたいと願うのは贅沢だろうか?
「その正体を探るべく『ネ=ウィン』の最大戦力で立ち向かおうと提言しているのです。それとも父上はこのまま侵攻を放置しろと仰るのですか?」
ナルサスの皇子然とした発言に皇帝の口も堅く閉じてしまうがこれは仕方ない。何故なら息子は国の為に皇子としての言動を続けているし、父は皇帝という地位を見失い、息子の心配しか考えていない。であればナルサスの意見に流れが生まれるのも必然だろう。

(・・・ネクトニウス様も所詮は人の子か・・・)

それでもビアードには彼の気持ちが痛い程伝わって来た。同じ子を持つ父として、息子の心配をせぬ親がどこにいるのか。言葉で彼の肩を持つ事は出来なくても心の中では彼の意見に何度も頷いていた。
そんな会議とも呼べない言い争いが収まりつつある中、途中であるにも関わらず近衛が静かに皇帝へ何かを告げると僅かにその双眸が強く光る。
「・・・通せ。」
どうやら誰かがこの部屋に呼ばれるようだ。というか今の反応から考えられる人物など1人しかいない。
(まさかフランドルが帰って来たのか?!)
思いもよらぬ吉報に思わず胸が高鳴ったが彼の期待は刹那で打ち砕かれる。

「よっ!ナルサス、久しぶりだな!」

それは前に見た時よりも多少背が高く、そして体躯も育っていたカズキが軽い調子で声を掛けながら部屋へ入って来たからだ。
「・・・カズキか。よく戻って来れたな?」
ナルサスがやや怨嗟の篭った声を返した理由もよくわかる。何せ一度は皇子に刃を向けた挙句、その後は姿をくらましたままだったのだ。
恐らく『トリスト』へ戻ったのだろうという事でこの話はひと段落していたのだが、であれば尚更皆の前に姿を現した意味がわからない。
「ああ。前は済まなかったな。いくらダクリバンの術に掛かってたとはいえあんたに剣を向けるなんて。」
そういって深く頭を下げたのだからナルサスもそれ以上嫌味を言う事は無かった。だがネクトニウスには別の意図があるらしく、彼に帰国した理由を問う。

「いや、俺の国は『トリスト』であってここじゃない。だからまぁ・・・敵対してるっちゃしてるのかな?」

非常に飄々と答えると今は環境も悪かったのだろう。激昂しかけたナルサスが黒い剣に手を掛けた瞬間、ネクトニウスが慌てて制止すると場には異様な緊張感が走り出した。





 「カズキが祖父の為に喪主を務めたいという理由を汲んでやったのは私だ。皇帝である私が許したのだぞ?わかるな?ナルサス?」
先程までとは違い、今度は父がしっかり皇帝としての立場から釘を刺し、息子は渋々その怒りを収める。
「・・・ちっ。だが何故戻って来た?今は貴様に構っていられる時間などない。早々に去れ。」
「そう言うなって。俺からは1つ提案があって来たんだよ。今この国は『ジグラト』に圧されてるんだろ?」
その話を聞いてビアードも合点がいく。恐らく共闘を持ち掛けに来たのだろう。ただ、それならヴァッツやアルヴィーヌといったもう少し穏便に話を進められる人物の方が良い気もした。

だが彼はカズキを見誤っていたのだ。

ナルサスが顔を背け、ネクトニウスが静かに頷くとカズキは颯爽と歩きだし、皇帝の前に静かに跪く。

「祖父の葬儀を執り行えた御恩を返しに参上致しました。ネクトニウス様、よろしければこの私の力を御使いください。未だ祖父には至りませんが後悔はさせません。」

ここまで丁寧な所作を見たのはクンシェオルト以来だろうか。これにはナルサスだけでなく近衛達も溜息をついて眺めている。
「しかしお前は『トリスト』の人間だろう?良いのか?敵対している国に加担して?」
「既に国からの許可は得ております。」
それでこうも堂々と振舞っているのか。流石『孤高』のスラヴォフィルが国王を務めているだけはある。後は皇族がカズキの申し出を受け入れるかどうかだが・・・
「・・・よかろう。ではナルサスの下に付けるので見事『ジグラト』を落としてくるが良い。ただしどのような戦果になろうとも絶対にナルサスだけは護り通す事が条件だ。」
「御意。」
ネクトニウスが非常に難しい命令を下したにも関わらずカズキは迷う事無く即答した。と、同時にこのやり取りでナルサスが戦場に向かう事も許されたのだ。
一瞬だけ驚いた表情を浮かべていたがすぐに薄ら笑いを取り戻した皇子はその後カズキとビアードに準備を命じる。

同時にこの夜は出陣の宴が開かれた。

「いいのか?まだ旅の疲れも癒えていないだろうに。」
前回もあまり話せなかったのでその腕前や性格は人伝に聞いたものばかりだった。その中でもナルサスに本気で斬りかかった話は肝を冷やしたものだ。
なのでまずは話の取っ掛かりとして軽く尋ねてみたのだが彼はきょとんとした表情を浮かべた後大いに笑い転げた。
「あっはっはっはっは!!いや悪い、まさかそこまで気を使ってくれる男だったなんて。あんた、ヴァッツに聞いてた通りの男なんだな。」
それを聞いて少し気恥ずかしくなったが彼が人を悪く言う訳がないのだ。むしろ向こうで話題に上るほど自身の事を気に入ってくれたのだと前向きに受け取ろう。

「そういえばヴァッツ様はどうされているのだ?」

少し酔っていたせいか、つい口走ってしまったが本来どれ程強くても他国の人間に希望を持つなどあってはならない事である。国を支える将軍なら猶更だ。
それでも聞きたかったのは本能的に彼の力がないと『ジグラト』という国に対抗出来ない、そう感じ取っていたからかもしれない。
「ああ。あいつは今魔界に行ってるよ。最近魔人族の親類が出来たからさ、それについてちょっと話を聞いてみたいって。あ・・・これ言わない方がよかったか?」
しかしこちらも少し酔っていたのだろう。あまり聞いた事のない単語を使って教えてくれたのだが少し気まずそうに取り繕ってくる。ただ本心ではあまり気にしていない様子だ。
それよりもビアードからすれば『魔人族の親類』という部分が大いに気になった。故に宴が終わるまで聞き出すべきかどうかと悩んでいたらあっという間にお開きとなり、その夜は気になり過ぎてゆっくり体を休める事が出来なかった。





 翌朝、カズキが自身の部隊を、ビアードとナルサスが『ネ=ウィン』の兵士を率いて西へ向かうとまずは国境に近い拠点を片っ端から制圧していく。
少数精鋭な彼らが動けばそれくらいは朝飯前なのだが唯一の欠点もあった。それが制圧後の運営だ。ただ戦って勝つだけでなく、そこを自国の領土として保持するには一定数の人員を割かねばならない。
だが今回はネクトニウスも本気で奪還と陥落を狙っていた為兵力は十分用意してある。更に侵攻を受けて日の浅い領土であればまたすぐに運営権を敷ける為最初はほとんど苦労しなかった。



そんな順調だった反抗戦も2週間後には雲行きが怪しくなる。



「何だこの村?」
皆の声を代弁したカズキに注目が集まるがビアードも同意せざるを得ない。何故なら村中が妙な煙と臭いに覆われており、人々の眼には憎悪か狂気か。凡そ芳しくない感情を持っているであろうことが容易に読み取れたからだ。
「・・・中毒の類かもしれんな。まずはこの煙を全て処分しろ。」
ナルサスもすぐに原因を特定すると兵士達は速やかに行動を起こす。しかし村人らが必死で邪魔してくるのだからここで非常に時間を取られてしまった。
「これは邪香と呼ばれるものでしょうな。」
カズキの率いる『剣撃士隊』には1人だけ場違いな老人がいたのだが彼は相当腕の立つ医師らしい。そしてそれをまじまじと観察しながら結論を出すとカズキは小首を傾げて尋ね返した。
「わかりやすく説明すると感情を大いに乱れさせるものです。つまり人が変わると言えばよろしいでしょうか?」
「おお、なるほど!」
煙から想像するに煙草みたいなものかと思ったがその影響力は比ではないらしい。現に村人らはまるで家族を失ったかのような悲壮な叫び声を上げつつ泣き喚いている。
とにかく彼らを正気に戻すべく邪香を全て回収すると水をかけて地面に埋めるようナルサスが命じた。恐らくこれで問題は解決するだろうと。

だがその夜、彼らは突如凶暴な獣のように変貌し始めた。

最初の異変はいくらかの小さな悲鳴だった。夜襲に備えてた衛兵が突如襲われた事で野営地が慌ただしくなる。それから集まって来る情報によると何でも村人達がこちらに襲い掛かって来ているとの事だ。
「出来る限り怪我をさせぬよう全員を捕らえろ。」
将来は皇帝になる以上国民をいたずらに殺める訳にはいかない。故にその犠牲を最小限に抑えるべくナルサスがそう命令したのだが時間が経つにつれてこちらの犠牲の数がどんどんと増えてくる。
遂には別動隊という扱いだったカズキの『剣撃士隊』がそれらを尽く駆逐する動きを見せ始めたというのでビアードがそれを止めに入るよう送られた訳だ。

「カズキ!!それに『剣撃士隊』よ!!今すぐ殺戮を止めるのだっ!!」

彼らの野営地に到着したビアードは命じれられるがままにそう言って飛び込んだのだが同時に3人程の村人から襲われる。そして大いに驚いた。
その様子は本当の獣のようだったからだ。体中が黒く染まっており闇に溶け込むと視認するのが難しい。それらが歴戦の猛者、いや、狼のような俊敏な動きで連撃を放ってくる。
手にしている武器が握り拳ほどの石や鎌、もしくは無手だった事だけが唯一の救いだったがそれでも彼らの攻撃は重く、そして速いのだ。
「な、何だこいつらはっ?!」
あまりの異様っぷりにそれらが元村人だとは考えられず、慌てて円盾と長剣を構えたビアードも懸命に戦う『剣撃士隊』に交じってそれらを斬り伏せていく。
それらを一通り壊滅させるとカズキはすぐに野営地を囲む異形らを討伐すべく号令を飛ばす。
「いいか!!こいつらを人間だと思うなっ!!完全に動かなくなるまで斬って落とせ!!でないとこっちが殺られるぞっ!!!」
彼でさえも必死だったのか、その一端にビアードがいる事すら気づいていないらしい。ただ彼の命令には賛成だった。これを放置していてはいくら精鋭と呼ばれる『ネ=ウィン』の軍団でも甚大な被害が出てしまうだろう。

ましてやそれらが村人だとは思いもしなかったのでこの夜、脅威が完全に去るまでビアードはカズキらと夜襲の防衛に当たるのであった。





 全ての村人を斬り伏せた翌朝。ナルサスの怒りは天にも届きそうであった。
「・・・カズキ。貴様は何という事をしてくれたのだ?」
それもそのはず。彼は夜襲時の現場をその目で見ていない。故に朝日が昇った時の光景、村人らが惨殺された場面が情報の全てであった為だ。
「昨日のあれを放置してたら軍そのものが酷い被害にあってたと思うぞ?なぁビアード?」
カズキも『ネ=ウィン』の為に行動していたので悪びれた様子はない。むしろ憤怒を内包する皇子を前によくもケロッとしていられるものだと感心する。
「・・・ナルサス様。ここの村人らは完全に正気を失い、その戦力は決して侮れないものでした。」
昨夜襲ってきた黒い獣らが村人だと気が付けなかった為、その働きに加担してしまった以上ビアードにも責任はある。なので本当なら『もしカズキが彼らを殲滅しなければ我が軍は壊滅状態に陥っていたでしょう。』まで告げたかったのだが自身はあくまで『ネ=ウィン』の人間なのだ。
その2つを天秤にかけて葛藤した結果、ナルサスが国力を慮って村人を大切に思う気持ちを選び、そこで言葉を止めたのだがこの配慮は彼に伝わるだろうか?

「・・・今度村人らを手にかけたらお前達の首を飛ばす。以上だ。」

彼の思いはほぼ伝わらなかったらしく一先ず話はここで終わりを迎える。ならば機嫌を見てその詳細を説明すれば良いと気持ちを切り替えたビアードだったが後にその最終判断が『ネ=ウィン』を壊滅状態にまで追い込む事となる。







『ジグラト』の目標は西にある『シャリーゼ』、そして北にある『リングストン』も当然入っている。だがその前には何故か小国『ボラムス』の一都市であるロークスが立ちはだかったままであった。
《やれやれ。またあいつらか。全く懲りない奴らだ。》
既に10度以上の侵攻を受けていたものの彼の都市にはナジュナメジナ扮するア=レイの能力によって強靭な護衛の力が働き、全くの無傷で護りきっていたのだが『ジグラト』の人間らも邪香の力によっていよいよ人間離れしてきている。
《お、おい。このまま放っておいて大丈夫なのか?何だかあいつら・・・ほ、本当に人間なのか?》
自分の体に閉じ込められている素人のナジュナメジナでさえその異様な強さと変貌には気が付いていた。故に最近はとても怯えているのだがそれでもロークス市民軍が負ける気配は無い。

《はっはっは。私が操る市民が負けるはずがないだろう?しかしこうも増長し続けられると事業に支障をきたすな・・・どこかの勢力が討伐してくれないかな・・・》

相変わらず自信たっぷりの態度は鼻につくというか、友好的な立場だと非常に安心するというか、とにかく無性に腹立たしい。
《・・・ではお前がその力を使って『ジグラト』を攻め滅ぼせばいいではないか?》
そもそも本人が戦わずとも周囲を屈強な戦士として操れる力というのはこの上なく有用なのではないか?と最近になってやっと気が付いたナジュナメジナは提案してみる。
《おいおい。私は金とやらを使いたくてお前になり切っているんだぞ?何故そんな興味のない所に首を突っ込まねばならないのだ?》
そうなのだ。彼は『七神』の中でも非常に我儘な性格をしているらしく、己の欲望を満たす事だけに邁進する。一応組織への貢献も多少は行っているらしいが時折見て来た様子だと微々たるものだろう。
わかってはいたものの取り付く島もないとは正にこの事だ。諦めつつも、ならばもっと資産を増やすようその力を積極的に使ってもらいたいと願わざるを得ない。
《・・・そうだ。ならばお前の仲間である『七神』に頼めばいいじゃないか?彼らはお前より強いのだろう?》
《そうしたいのは山々なのだが今我らは休止中でね。やる気のあった2人が意気消沈してしまっているせいで全く機能していないんだよ。》
だったら猶更お前が頑張れよ!と言いたい所だがア=レイに何を言っても暖簾に腕押しなので無駄な労力は使わない。
《そうなのか?お前達も大変だな・・・そういえば宝石をちりばめた髪飾り、あれの設計はどうなっている?》
《うむ!そっちの方が気になるな。では早速出向いてみよう。》
『ネ=ウィン』の4将親子であるフランドルらが不覚を取るほど凶暴化しているにも関わらず、それらを一蹴してしまうア=レイはナジュナメジナの話に声を弾ませると軽い足取りで執務室を出て行く。

こうしてロークス及び、その北方だけは『ジグラト』の脅威を一切知る事無く年を越えていた。

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