闇を統べる者

吉岡我龍

旅は道連れ -ルサナ-

 気が付けば村人達が死んでいた。それらは自分が手にする赤い刃の短剣によって殺されたのだからこんな他人事のように思ってはいけないのかもしれない。
しかし体は確かにルサナのものだが操っているのは『血を求めし者』なのだ。ならば客観的な物言いになっても仕方がない部分はあるのだろう。
その気になれば一日もかからずに全員をその手に掛けられるのに彼女はわざと正体をくらましつつ一方的な殺戮を楽しむ。それを嫌が応にも見せつけられるルサナは再び心と閉ざしつつあった。
《うふふふふ!やっぱり感情が高ぶっている時の血は最高ねぇ!》
微塵も理解し難いが『血を求めし者』曰く強い気持ちを持っている人間の血こそが極上であり美味なのだという。ただその話を聞いてほんの少しだけ思い当たる節があった。
以前妻子持ちの中年男性に色で近づいた時だ。何故あんな淫行をしたのかが少しだけ合点がいったものの自分の幼い体を欲するというのはそういう性癖の人間を狙ったというのだろうか?
《違うわよ。ほら、見てみて。》
『血を求めし者』の視線が自分の真下に向くと見慣れない遮蔽物がある。何だこれは?
ルサナの疑問に答えるべく彼女は空いている方の手でそれを優しくゆっくりと揉みしだきながらいつもの薄ら笑いを放ってくる。
《これは貴女の体を大きくしたの。一時的に成長させているって言えばわかる?私の力を使えば貴女は大人の体になれるの。》
・・・・・もう滅茶苦茶だ。何もかもがおかしいしどうでもいい。三度心の奥底に閉じこもろうと強く目を閉じた時。

《ほらほら。最後に見ていって。貴女の御父さんよ?》

とてもうれしそうに声を掛けてくる『血を求めし者』。
父を出されては自分も反応しないわけにはいかずゆっくりと視界をのぞき込むと縛られたままでろくに食事を与えてもらえていないのか、ぐったりとした父がこちらを向いていた。
「ル、ルサナ・・・なの、か?」
《そうよ~。貴方の愛する娘よ~?今は私が支配しているけどね?》
弱弱しい父の声と楽しそうな彼女の声が不思議な会話を交わす。他人がこの場面を見ても一切理解出来ないだろうが2人の話は進んでいく。
《今私を通してルサナも貴方を見ているわ。どう?何か声でも掛けてあげたら?》

「ル、ルサナ・・・逃げて・・・くれ・・・頼む・・・私達の、分まで・・・生きて・・・」

憔悴しきった父が途切れ途切れに訴えてくると涙が零れ落ちる。お互いがもうどうしようもないと悟っているからだろう。何故・・・本当に何故という言葉しか出てこない。何故自分達がこんな目にあっているのだろう?
すでに心という概念すら失いつつあったルサナの頭にはそれしかなかった。
《うーん?そうねぇ?逃げられたらいいのにねぇ?うふっ♪》

ずぶっ!

そんな親子が向き合っている最中に『血を求めし者』の短剣が父の腹部に突き刺さった。短い悲鳴がルサナの耳にも届くといよいよ思考さえ失っていく。
何が面白いのか彼女はくすくすと笑いながらそれをゆっくりと真横に引き裂いていくのをルサナは感情を失ったまま見届ける。
やがて大きく横一文字に傷が入ると今度は刃を立てる『血を求めし者』。すると傷口が開いて中からどろりとした臓物が零れ落ちてきた。
正気を保っていたら思わず悲鳴を上げてしまいそうだが今のルサナには届かない。目を閉じて現実からの逃避に走った結果、体の全ては『血を求めし者』に乗っ取られた後だったのだ。

《ねぇルサナ見てる?ただ吸収するだけじゃなくてこうやって味わうの。貴女達も蜂蜜を舐めとる時美味しい食事をする時は同じ事をするでしょ?》

その流れ出る血液をうっとりと眺めながら指で掬うと舌で舐め取る。この日父の犠牲を最期に村人達は全て彼女の餌となって消え去った。





 これは夢なのだ。
ルサナは心の殻に閉じこもりながら何度もそう言い聞かせていた。そうでもしないと狂ってしまいそうだから。
あまりにも無茶な思考だが父を目の前で惨殺され、自分の体を奪われた彼女からすればこれでも足りない。もっと突飛もない発想で自分を慰めても良いくらいだ。

(・・・誰か・・・助けて・・・お願い・・・だか、ら・・・)

それとは別に来るはずもない助けは願い続けるルサナ。思い描くのはクレイスの姿だがもう二度と会うことはないだろう。
となると自分に出来る事といえば二度と外に目を向けない事くらいか。そうすれば『血を求めし者』の虐殺を目の当たりにしないで済む。

「ルサナー!!いたら返事してーっ!!」

・・・・・え?
(ま、まさか、そんな・・・これも『血を求めし者』の罠なの?)
ルサナの心はつぶやきと思考がごっちゃになる。何日か前に旅立ったはずの彼が何故ここに?いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
(た、助けを求め・・・・・いや。逃げてもらわないと!)
今の体は外見こそルサナだが中身は悪魔よりも性質が悪い『血を求めし者』だ。もし彼まで犠牲になったらと考えると心が張り裂けそうだ。
(逃げて・・・お願い、逃げて・・・クレイス様・・・!)
必死で言葉を伝えようとするも体の支配権を完全に掌握された今、ルサナの叫びが声になることはなく、途中から現れたイルフォシアが間に入ってくるとその凶刃が彼女の腕を掠った。

ほんの少しだ。ほんの少しの掠り傷でイルフォシアは真っ青な顔色となって気を失っていく。

『血を求めし者』という名は伊達ではない。血を奪うために持つ能力は血が流れた瞬間から最大限に発動して相手を絶命に追い込む。
そんな彼女を大事そうに抱えたクレイスは空を飛んで上空に逃げていくが『血を求めし者』の攻撃も止まる事はない。このままでは2人とも犠牲になってしまう・・・
と、そこに今度はあのバルバロッサという魔術師が徒党を組んで現れた。何がどうなっているのかわからないが彼は『血を求めし者』が厄介だと認識している強者のはず。

(も、も、もしかし、て・・・)

助かるかもしれないという希望、そして自分は死ぬかもしれないという絶望から言葉がからまった。
そうなのだ。今のルサナは『血を求めし者』と一心同体。彼女の体が死ぬほどの傷を受けたら恐らく2人とも助からないだろう。
今まで深く考えてこなかったが、いざ目の前に手を差し伸べられると初めて自分のややこしい状況に理解が追いついてくる。体を持たない『血を求めし者』だけを退治するなどと誰も想定していないはずだ。
(・・・お父さん、お母さん。私ももうすぐそっちに行けそう・・・)
もはや命乞いなどすまい。この悪魔を放置していてはいずれ国や世界が傾きかねないだろう。ならばここで殺してもらった方が良い。

《うふふ。私の力を侮りすぎよ?》

だが折角覚悟を決めたルサナに『血を求めし者』が随分余裕のある口調で答えてくる。外界を見る限りではバルバロッサ率いる魔術師団にやられたい放題でルサナの体は地を這うような状態なのに。
そう思っていたが突然彼女の体が先程までと比べ物にならない速度で上空に向かって飛んでいくではないか。
性格の悪い『血を求めし者』の事だ。恐らく今までは手を抜いて相手に余計な希望と油断を持たせていたのだろう。すぐに察したルサナは眼前に迫るクレイスに傷を負わせてはならないと必死で体を抑えるよう力を込めるもやはりそれが届く事はなかった。





 気を失っていたイルフォシアが目を覚ましてくれたお陰で誰一人犠牲にならずに済んだ。これにはルサナも胸をなでおろしていたがそこからは別世界のような展開が訪れる。
何せクレイスの首元から黒いとかげのようなものが現れると心の底から響くような低い声で話をし始めたのだ。
存在が心だけになっていたルサナに彼の声はとても力強く聞こえて吹き飛ばされそうな錯覚に囚われたがあながち間違った例えでもないのかもしれない。

【よかろう。ではお前があの『血を求めし者』を見事討ち取るが良い。】

絶対的な自信に満ちた声は決して虚勢ではないはずだ。話の流れからクレイスが『血を求めし者』と戦うらしいがルサナは何となく安心出来た。
何故なら突如現れた『闇を統べる者』という存在を前に『血を求めし者』から焦りを確かに感じたからだ。
彼女は彼を恐れている。今までこちらの心情ばかりを読まれている場面が多かったが彼女の喜怒哀楽程度ならルサナにも十分伝わってくるのだ。

そしてその予想は見事に的中した。

まるで赤子の手を捻るかのようにクレイスが圧倒していた。一体どういった理屈かはわからないが『血を求めし者』もルサナの体を本来では考えられない程強く動かしている。
恐らく『闇を統べる者』とやらも何かしらの方法でクレイスの体を動かしているのだろう。
最終的には彼がこちらに蹴りを放ってきた事でルサナの体は折れたり折れる寸前程度の傷があちこちに走る。
《っがぁっ・・・!!》
初めて聞く『血を求めし者』の短い悲鳴にいよいよ自分の魂が開放される時が近づいているのだと悟った時。

「もう十分でしょう?『血を求めし者』、ルサナを返して下さい。出来る事ならルサナの体から離れ去って下さい。」

クレイスの言葉にルサナの心は完全に命を吹き返した。まさかこの状態でも尚自分の事を気にかけてくれる彼に言葉も出ない。
(今なら・・・今ならこの体を取り戻せるかもしれない!)
弱りきっている『血を求めし者』の支配権を排除すべく蘇った心を持つルサナが必死で祈りを捧げながらクレイスに話しかける。

「・・・ク、クレイス様・・・に、逃げて・・・」

・・・駄目だった。これは『血を求めし者』の演技なのだがクレイスは見抜いてくれているだろうか?
と、次の瞬間彼がイルフォシアやバルバロッサと対峙する形で体の向きを変えたから悔しくて唇をかみ締める。
未だ『血を求めし者』はこの場面を切り抜けようとよからぬ事を企んでいるのだ。なのにこちらに背中を向けたりしたら・・・
《うふふ・・・クレイスか・・・とんだ甘ちゃんね!》

(駄目っ!!!)

隙だらけのクレイスにその赤い凶刃を突き出そうとした瞬間、今度こそ自分の全てを賭けて体を取り戻したルサナはそれを自分の腹部に深く突きたてていた。





 (これでいい。これでいいんだ。)
彼らも言っていたが自分は村人達を全員殺してしまっている。更に心の殻に閉じこもっている間に『ネ=ウィン』兵達まで手にかけていたらしい。
200人以上の命を奪っておいて自分だけ助かろうなんて思っちゃいけない。それこそ天罰が下るだろう。いや、今の状態が既に天罰なのかもしれない。
何せ痛いし苦しいしで呼吸は乱れ、脂汗も止まらない。やっと体を取り戻せたと思ったら苦痛の連続だ。魔術師の1人が応急手当をしてくれてはいるものの恐らく命は助からないだろう。
(それでもいい。これでやっと『血を求めし者』から開放されるのだから・・・)
出来れば最後にクレイスへお礼を言いたかったが自分は罪人である。これ以上望めば更なる天罰が下るに違いない。

《何も良い事はないわ!貴女のせいで余計な傷を負っちゃって・・・どうしてくれるの?!》

王都『シャリーゼ』へ搬送される途中、聞きたくない声が耳に届く。いくら体を取り戻したとはいえ立場が逆になっただけで未だ自分の中には『血を求めし者』が存在しているらしい。
(どうもしないわ・・・もうすぐ私は死ぬみたいだし、あなたも道連れにする。二度と誰も殺させはしない。)
随分元気に激高している彼女を軽くあしらうルサナは痛みに耐えつつも自分の人生を思い返していた。
何故か死の間際というのは楽しくも心残りだった記憶が蘇りやすいようだ。家族との思い出の中にはああしておけばよかった、こうしておけばよかったと後悔ばかりが脳裏に過ぎる。
(・・・結局サーマには会えなかったな・・・)
仲の良かった友人に別れを告げられないのは寂しいが今会っても『血を求めし者』の毒牙に掛かりかねない。やはり1人で死んでいくべきなのだろう。
痛みからか寂しさからか、手足は丈夫な縄で括られたまま大きな布に包まれて運ばれるルサナは静かに涙を零し続ける。
(・・・さよなら。サーマ、クレイス様・・・)

だが生を諦めた隙をこの存在は見逃さなかった。

《さよならしたければお一人でどうぞ。》
今までは心の中でやり取りしていたが今はその耳に彼女の呆れた声が届く。そして腹部の傷が妙に疼き出すと失念していた記憶が蘇った。
あれは最初の契約時だったか。自分は確かに自らの太腿に短剣を突き刺した。なのに僅かな時間でその傷跡が無くなっていたのだ。
《あははははっ!!やっぱり貴女を選んでよかったわ!!》
またも体の支配を奪った『血を求めし者』が取り上げられていたはずの短剣を手に縄や自身の体を包んでいた布を一瞬で細切れにすると運搬に従事していた魔術師に襲い掛かろうとした。
異変に気が付いたバルバロッサもすぐに陣形を整えるとこちらに魔術を仕掛けるべく一斉に手をかざす。

「・・・やらせる、訳、ないでしょぉおおおっ!!!!」

しかしルサナが吼えると再びその体は彼女の支配下に置かれながら手にした短剣を左手で抑えつつ地面へ落ちていった。

《こ、このっ!!》

再度『血を求めし者』がその体を動かし始めると表情はもちろん、一気に成長するのだからバルバロッサも目を白黒させたまま攻撃の機を逃していた。
「もう絶対あなたの好きにはさせないっ!!皆逃げてっ!!!」
三度中身が入れ替わり少女の姿に戻ったルサナが地面に着地すると上を見上げて彼らに警告する。今なら手に取るように分かる。自分の体は血を欲しているのだ。
それは傷を回復させた為に弱まった濃度を取り戻そうとする本能、人間で言えばお腹が空いたからご飯を食べたいのと同じ状態なのだ。
《言うじゃないルサナ!貴女如きが私に歯向かおうなんて・・・後で絶対後悔させてあげる!》
四度の入れ替わりが行われてその都度体が成長したり幼くなったりするのを上空の魔術師達はどんな心境で見ていたのだろう。だが彼らは『ネ=ウィン』の4将筆頭が自ら率いるほどの精鋭なのだ。

ぼぼっぼぼぼぼぼっ!!!びしゃっ!!!

お互いの強い意志で体を奪い合い、動く事が出来なかった所に大量の火球が降り注ぐ。更にバルバロッサは自身が放てる最大威力の雷を落としてくれたのだからルサナとしても有り難かった。
(ここで自分共々この悪魔を消し去ってくれれば・・・)
少女の悲しい望みを叶えるべくルサナが体を取り戻した瞬間全ての攻撃を貰える様に無抵抗でその場に立ち尽くす。
一瞬で無数の痛みが体に走っていよいよ死が傍まで近づいてくるのだと・・・そう願っていたのだが。

「・・・そ、そんな・・・お願い逃げてっ!!あなた達の魔術じゃ私は死ねないのっ!!」

大声を上げる事すら人生でそうそう無かったのにまさかこんな台詞を言う時が来るとは思いもしなかった。
彼ら『ネ=ウィン』の魔術師達が放ったそれらは痛みこそ感じたものの命を脅かすものではない。転んで擦りむいた方がまだ痛みを感じるかもしれない。
あの時、バルバロッサと戦っていた時わざと弱って見せていたのは本当にそうしないと相手の油断を誘えなかったからなのだ。
《何を言っているの!彼らは誇り高き『ネ=ウィン』の魔術師様よ?ねぇ?私を殺したいんでしょ?もっと近くから魔術を放てばいいのよ?もう私達は瀕死なの。ね?》
大人の姿になると妖艶な雰囲気を漂わせながら無理矢理な理屈で彼らを呼び込もうとしているが既に将軍の表情は何かを決断した様子だった。

「・・・全軍撤退だ。」





 バルバロッサが指示を出すと魔術師達が南の方向へ飛び去っていく。それを見てルサナの体内では喜びと悔しさがぶつかり合っていた。
《貴女ねぇ?!私と契約したんだから素直に従いなさい!血を奪わないと私達は死んでしまうのよ?!》
「えっ?!そうなんだ・・・じゃあこのまま無抵抗でいられたら・・・」
どれだけ強い生き物でも栄養を摂取しなければ死んでしまうのは自明の理だ。『血を求めし者』が大人の姿で口を押さえていたがもう遅い。
その姿勢のまま少女に戻ったルサナはいよいよ希望が見えてきた事でより嬉しくて踊りだしたくなる。今度こそこの悪魔を消し去れそうだ。
《何を浮かれているの?!私が死ねば貴女も死ぬんだからね?!》
言われてからふと何かを思い出したルサナは『血を求めし者』の焦りと怒りをしっかりと感じとる。
「そうなんだ。私達は2人で1つ・・・貴方は生きていくのに血が必要。だから『血を求めし者』なのね。」
《そうよ!だからあいつらを追いかけて!私には、私達には血が必要なの!》
「ふーん・・・」



どしゅっ・・・



煮えたぎる憎悪。それがあまりにも大きすぎて気が付けなかったのは仕方のない事だ。
何故なら少し前の内向的で弱気なルサナは父が目の前で惨殺された時に消え去っていたのだから。



赤い凶刃を自身の腹部に再び突き刺すルサナに心が読めると豪語していた『血を求めし者』ですら驚き狼狽える。
《あ、貴女?!何をしているの!》
「え?だってあなたは血を失えば死ぬんでしょ?」
《貴女も一緒に死ぬのよ?!》
「え?それがどうかしたの?」
《えっ・・・・・》
立場は逆転しておりルサナが今どんな表情をしているのか『血を求めし者』が知る由はない。ただルサナの心はとうに限界を超えていた。
いつも彼女がしていた薄ら笑いを浮かべながらルサナは更に自分の胴へその凶刃を遠慮なく刺し続ける。
《あ、貴女・・・本当にわかっているの?ほ、本当に死んでしまうのよ?》
「え?そうね?やっとあなたを殺せる方法がわかって今凄く楽しいの。邪魔しないでくれる?」

ずぶっ!!ずむっ!!きゅぃっ・・・ざくっ!!!

手足などではない。臓物が沢山詰まった場所を嬉しそうに何度も何度も突き刺しながらくすくすと笑うルサナ。
与しやすいと侮っていた少女が最後の最後で自身をも超える悪魔に成長してしまった事を絶望の中で後悔していたが既に足元は血の池が広がって臓物の切れ端がぽとりぽとりと散乱しつつあった。
《・・・ねぇ・・・お願い。もうやめて・・・本当に私も貴女も・・・》
泣きながら訴えてくる『血を求めし者』の声を聞いてその腕を止めたルサナは心の中で相手の存在をじっと見つめる。
「・・・そうやって訴えてきた私の声をずっと無視し続けたのは誰?」
《・・・・・》



「誰?誰?誰なの?ねぇ誰よ?うふふふふふふ・・・・ねぇ誰よぉおおおおおおお?!?!」



人の心を破壊され、全く別の者に生まれ変わったルサナに泣き落としなど通用する訳もなく、彼女はやっと自分の手で憎き悪魔を滅ぼせる事に至上の悦びを得て大笑いしながら刃を再度突き立て始める。



どれくらいの時間が経ったのか。いつの間にか胴のいたるところに穴が開いており足元には臓物と肉片、そして骨らしきものが山積していた。
「驚いた。あなたまだ死なないの?」
《・・・・・》
確認したのに返事がなかったからか、他に気に食わない要素があったからか。ルサナは突然足元に散乱していたものを蹴り散らす。
「おかしいな・・・もう死んでもおかしくないのにおかしいな・・・そうだ。首を刎ねれば死ぬよね?」
もはや彼女が誰を殺したいのか彼女自身にもわかっていない。名案だと笑みを浮かべると手にした凶刃を思いっきり自分の喉元に突き立てると勢いよく左右にぐりぐりと刃を通す。

そこでやっと動きを止めたルサナは力なくうつ伏せに倒れ込む。と同時に衝撃から転がりながら首が胴から離れていく。
その顔は決して笑顔ではなかったがそれでも満足そうな表情だったという。







撤退命令を出したもののルサナを野放しになど出来るはずもない。
バルバロッサは側近5名だけを手元に残すと彼女が見えるぎりぎりの上空に留まってその動向を観察していたのだ。
やがて自傷行為を始めた少女を全員が遠くから見守り始めたのだが、そのあまりにも容赦のない光景に2人ほどが目を逸らして口を押えている。
長すぎた残忍な自殺は彼女が自らの首を落とした事でやっと終わりを迎えると、

「・・・ジークを残して4人は死体を処理。近づかずに燃やしてみろ。もし不穏な動きがあればすぐに退避して観察に移行。魔術は惜しみなく使え。」

指示を受けた魔術師達がルサナの死体に近づいていく中、バルバロッサはジークという魔術師に今後の展開を手短に説明した後北へと飛んで行った。

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