闇を統べる者

吉岡我龍

第二章 天族と魔族 -年始めの出来事-

 クレイス達が帰ってから傷も全快したショウは
相変わらずサーマと老婆の3人で診療所を手伝いながらのその日暮らしだ。
『シャリーゼ』と王女アンの復讐心は未だ湧き起こる事はなく、
それに対しての危機感もない為にただただ平穏な毎日が続いていく。老婆も苦言を呈する事無く、
「ショウ。この前干しといた熱さましの薬草、全部挽いといてくれんか?」
「わかりました。」
2人を完全に自分の助手として扱い始めていた。
サーマは相変わらずだが、ショウは元々頭を使う事に長けている。
老婆から教わりながら自分が今まで手を付けなかった医術に対しての知識をどんどん吸収していくと、
彼に回される仕事が日に日に増えていった。
それでも他にやる事もなく、やる気力もなかったショウは与えられた仕事を淡々とこなしていく。



気が付けば年が明けて1か月近くが経過していた。



元『シャリーゼ』領内でかなり評判の良い医者がいると噂が広がっていった為、
連日混み合う程忙しい毎日を送っている。

「ふぅ~。今日もお疲れさん!」

それなりに高齢な老婆は疲れた様子ながらも、2人に労いの言葉をかけてくれる。
日が暮れてそれなりに時間が経ってからやっと診療所を閉めるとサーマはすぐに食事の支度を、
ショウは備品の補充や掃除を素早く済ませて老婆の肩を揉んでいた。
常に女王の傍に仕えていた時には考えもしなかったが、
どうやら彼女に教えられた知識や気配りなどは王女に限らず誰の下でも応用が利くらしい。
「はぁ~ぎもちいいねぇ~」
完全に脱力しきっている老婆の気持ちよさそうな声にショウも嬉しくなる。

忙しいながらも充実した日々だ。復讐や憎悪などとは全く無縁の日々。
このまま安息の日々が送れたら良い。この2人の為にも。
ぽっかり空いた心の穴の事などすっかり忘れ去っていたショウはその夜も3人で楽しい食事を終えると
早々に気持ちの良い眠りについた。

しかし翌日。
久しぶりに過去の人間に出会った事で彼の人生が大きく動き始めるのであった。



「ショウ!!こんな所にいたのか!!」
2カ月前にはクレイスとイルフォシア、そして時雨の3人が自分の安否を確かめに来てくれた。
そして今日、『シャリーゼ』宰相だった男が混み合う診療所の中に堂々と入って来たのだ。
「モレスト様。ご無事だったのですね。」
「こらこら!順番を守らん奴ぁ診てやんねぇぞ?!」
老婆が怒り任せに注意すると一気に注目を浴びたので、
「すみません。彼は昔の上司です。少しだけ席を外してもよろしいですか?」
「・・・まぁいいけん。あんまし長く離れんなよ?」
少しの時間をもらったショウは、
心配そうに見つめてくるサーマに笑顔を向けると診療所から少し離れた場所に移動した。

「しかしお前が何故こんな萎びた村で医者の手伝いなんかを?」
昔の彼を知っているからこその発言だろう。
正直これには深い理由もないので何と答えればいいのか少し悩むも、
「あの老婆と少女が私を助けてくれたのです。なのでその恩を返す為、ですね。」
居心地が良くなってきている事や、他にやる気が起こらない等の理由もあるが、
こう言っておけば一番納得してくれるだろうと思って答えたショウ。
「そうか。実は『シャリーゼ』復興の為に人を集めている。是非お前にも手伝ってほしい。」
モレストが姿を現した理由が『シャリーゼ』関係なのはすぐに察したが、まさか復興とは。
現在城のあった湖のほとりは瓦解した建物の破片が未だに散乱している状態だ。
人も国財も失った中、それを取り除く事さえ難しい筈なのに・・・
「お前の言いたい事はわかる。実は『ジグラト』と『ネ=ウィン』が復興の支援を申し出てくれているんだ。」
「なるほど。」
それならば不可能ではないだろう。
前までのショウなら祖国復興の話を聞けば目の色を変えて力を注ごうとしたに違いない。しかし、

「私は今ここから離れるつもりはありません。」

あれだけ愛国心に満ち溢れていた少年から出てきた言葉にモレストはもちろん、
付き人達も目を丸くして言葉を失っていた。しばらくしてその原因がわかったかのように、
「・・・そうか。王女様が亡くなられた事でまだ立ち直れていないんだな。そうだな・・・」
その思考もよくわかる。今までのショウならそう捉えられても仕方ないだろう。
だが違うのだ。本当にそれらに対する愛がすっぽりと抜け落ちている為なのだ。
これは何と説明すればいいのか・・・
「お前がここにいる事さえわかっただけでも十分だ。もし気持ちの整理がついたらいつでも尋ねてくれ。」
勝手に納得したモレスト達は慰めるようにそう言い残すと最後に振り向いて、
「そういえば『トリスト』という国も援助を申し出てくれたんだが、ショウはこの国について何か知ってるか?」
数か月ぶりに聞いたその名前にイルフォシアや時雨の姿が頭を過る。
「聞いた事はあります。是非協力してもらえる様前向きに話を進められればよろしいかと。」
そして恐らくその関係者であろうヴァッツの姿も思い出す。
懐かしさと同時に何故か心の中に小さな炎が灯るのを感じたショウは一瞬思考が止まるも、
モレスト達に手を振ってそのまま彼らが帰っていくのを見届けた。





 王女姉妹が翼を生やして自由に空を飛ぶ事にも驚きはあったが、まさか馬車まで飛ばす事が出来るなんて・・・
クレイスは今までと違う馬車からの風景を食い入るように眺めている。
この時は自分も御者席に座るのは初めてですと少し興奮気味だったハイジヴラムの握る手綱に
隣に座って見せてこちらに微笑みを向けるイルフォシア、リリーとルルー姉妹も一緒に乗っていた。
これから『トリスト』で王族としての知識を身に着ける為の修練が始まる。
事前の説明で城が空の上にあると聞いた時もそうだったが12歳になった今、
元服までの一年で一体どれほどの知識を得られるのか。今からわくわくして仕方がないクレイス。

2時間も経たないうちに大地が随分遠くになり前方にあった大きな雲に接近していく。
馬車はそれを迂回するように走り続けると、やがてその上面が見えてきた。

「・・・・・うわぁ・・・・・」

想像すらしなかった光景に思わず声を漏らしてしまう。
地上から小さく見えていたその雲はとてつもなく広大で大地には民家や田畑、家畜の姿もある。
そして中央には白く輝く遠目でもわかるほど荘厳がお城が目に飛び込んで来た。
「これが『トリスト』・・・」
「はい。ようこそ我が国へ。」
リリーとルルーも空を飛べない故に馬車から眺める祖国の景色を楽しむ中、
自由に行き来できるイルフォシアだけはクレイスの唖然とした顔をみて笑いながらそう言ってきた。



わくわくや修練への覚悟がどこかに飛んで行ってしまったクレイスは
呆然としながらも『トリスト』で政務の最高責任者であるザラールと面会を行っていた。
「ようこそクレイス様。私が宰相のザラールです。」
細身で初老といった容姿だが、
その双眸は呆然としていたクレイスの心身を一気に引き締めるほど力強い物が宿っている。
「キシリングの子、クレイス=アデルハイドです。よ、よろしくお願いします。」
この厳しい眼光には覚えがある。初めて出会った時のショウとそっくりだ。
彼の事を思い出しながらザラールを再び観察すると、
どうもこの初老の男も政務にはついているもののかなり強いのではないだろうか?と勘ぐってしまう。
「現在訓練の責任者はネイヴン様に任せています。詳しい事は彼に直接聞いてください。」
挨拶もそこそこに、彼の部屋から退出するとそのままイルフォシアに案内されて
今度はネイヴンという男と顔合わせをすることになる。

遠目からでもわかってはいたが、実際中を歩くと作りが荘厳で神秘的なものを感じる城内。
その廊下の作りも独特で所々に吹き抜けが確保されているのには理由があった。

ひゅんっ!!・・・ひゅんっ!!

『トリスト』はイルフォシアに限らず空を自由に飛べる者が多い。
なので城内を歩く人間以上に飛んで行き来する人間が多い為、そのように作られているのだ。
正に別世界に来たクレイスは、
イルフォシアが傍にいるにも関わらず辺りをきょろきょろしながら後について歩いて行くと、
「ここから先が軍事関係の建物です。」
やはり白を基調にした大理石で出来た見事な建物が並んでいた。
しかしここで目立つのは中央にある大きな訓練場だろうか。
長方形の形で大地の見える場所には数百人ほどの兵士達が隊列を組んだままそれが乱れる事無く、
指揮官の合図で前後左右に激しく動いている。
「おや?これはイル姫様。戻られていたのですね。ということは・・・」
訓練場がとてもよく見渡せる場所に案内されるとそこにはハイジヴラムほどではないが
仮面をつけて素顔がよくわからない男が席を立って頭を下げていた。
「はい、たった今戻りました。丁度ネイヴン様へご挨拶をしに参った所です。」
「なるほどなるほど。クレイス様ですね?
初めまして、私は兵の訓練を担当しているネイヴンという者です。どうぞよろしくお願いします。」
先程のザラールと違い、随分優しさを感じる声色と態度だ。
仮面をつけている者は皆その厳つい外見とは相反して優しい人物が多いのだろうか?
しかし訓練を担当していると紹介された。腕は相当立つはずだ。
「キシリングの子、クレイス=アデルハイドです。こちらこそよろしくお願いします。」
この2人が今後の修練に関わってくる事を伝えられたクレイスは早速自身の部屋に案内される。
気が引き締まったり緩まったり唖然としたりと大変な出来事が続いたが、
「ここが君の部屋だ。」
同じような扉が並ぶ中の1つを軽く叩いてから開けると、
「お、やっと来たのか。」
中には自分の師匠が分厚い本を片手にこちらに視線を向けていた。
クンシェオルトの葬儀前に会ってから1か月以上ぶりの再会なのだがカズキがそれを面に出す事はない。
「2人は兵卒から鍛え上げてほしいという事なので気心の知れた同士相部屋にしてみた。
厳しい生活になるだろうが頑張ってくれたまえ。」

・・・・・

あれ?今兵卒からと言われた?
スラヴォフィルからは王族としての基礎的な知識を教えてもらおうと思ってここに来たはずなのだが・・・
「くっくっく。お前ヴァッツ並みに顔に出るようになったな。」
その疑問にいち早く気が付いたカズキは茶化すように笑い出した。





 『アデルハイド』の国王は自身の執務室を友人に貸し与えていた為、
自分はそこから一番遠く目立たない場所に仕事場を構えてこっそりと職務をこなしていたのだが。
「そっかー!おじちゃんがクレイスのお父さんなんだ!見つかってよかったー!」
「えー。ヴァッツはそう受け取るの?隠れてただけじゃない。」
その友人から頼まれた2人に自己紹介をするととても個性豊かな反応が眼前で繰り広げられていた。
1人は『羅刹』の孫であり無類の強さを持つというヴァッツ。
1人は『トリスト』王女姉妹の長女であり魔術の力では『魔王』を軽く超えると言われているアルヴィーヌ。
どちらもその軍事的な力は破格らしいが如何せん国務となると知識が全く無い。
「・・・・・」
これに対して何か言いたいキシリングだが、自分も息子には何も教えてこなかった。
自由に思うがままに行動することを許してきたのだ。
「・・・類は友を呼ぶ・・・か。」
お互い武名をとどろかせた仲ではあるが同時に身内には甘いという部分も似ていたらしい。
「何それ?」
「いや。私とスラヴォフィルの事だ。気にしないでくれ。さて・・・」
息子と同い年らしいが、話している限りでは6歳児くらいに感じる大将軍と我儘王女。
自由に使ってくれて構わないと言われたものの友人の娘と孫に雑用を任せる訳にもいかず、
国務に携わる何かを与えなくてはならない。

未だかつてない難題に顎に手をやって顔を歪ませながら悩み始めるキシリング。
室内をうろうろしながら自分の机に目をやると、
「・・・・・ヴァッツ君は『シャリーゼ』に友人がいると聞いたが?」
「え?うん。ショウっていうのがいるよ。」
「そうか。よし・・・では2人でその復興の手伝いに行ってくれないか?」
現在廃墟と化しているシャリーゼ城と城下町。
まずは瓦礫の撤去から始めなければならず、その援助を生き残っていた宰相モレストが各国に呼び掛けていたのだ。
ヴァッツは無類の力持ちと聞く。
ならば現地で十分役に立ってくれるだろう。
大将軍にそんな仕事を・・・と思われるかもしれないが、彼の精神年齢的にまずはこのくらいから始めた方がよい。
それに他国も援助に行くはずだ。その時直接交流し合えるのは必ず後に繋がるだろう。
「えー?私は面倒くさいからやだ。ハルカと留守番しとく。」
「ちょっとアル。流石にこれくらいは・・・面倒なら全部あいつに任せとけばいいんだし。」
現在ヴァッツの配下であり王女の友人でもある暗闇夜天族の頭領が彼女なりに任務を受けさせようとしてくれている。
自身の上官をあいつ呼ばわりするのはどうなのだ?と口に出したい気もするが、
「アル姫様。それでしたらショウ様の下を訪ねられるのはどうでしょう?
現在彼と一緒に暮らしているサーマという少女。もしかしたらお友達になれるかもしれま」
「よし、いこう!」
「ちょっと待って!ショウのとこにいくならオレもいくよ?!」
「・・・・・ではショウ様の下を訪ねるという意味も含めて、一度『シャリーゼ』へ向かうように。」
色々言いたい事はあるが、我が息子も逆境の中亡命という旅を経て見違えるように成長した。
ならば彼らもきちんとした国務さえ与えていれば寄り道はあれど何か感じる部分があるのではないだろうか?
うん。あるに違いない。きっとある。
「ではあたいが御者を務めよう!」
「待て。お前はここに残れ。私1人で十分だ。」
「いってらっしゃ~い。」
大将軍の配下3人も全く統率が取れていない上に意志もばらばらだが必ず団結する時が来る。
「全員だ。5人で行ってくるように!」
深く考えると何も進まないと感じたキシリングはまるで下町の子供達のような集団に
厳しく命令すると旅支度を早々に済ませてさっさと『アデルハイド』から出立させた。





 母国で親友が任務に励む中、地上から400里近く高い場所にある『トリスト』で
クレイスとカズキの修練生活が始まってた。
周囲は自分達よりも年齢が上で2人はかなり浮いた存在に見えたが、
むしろ他の要素が特にクレイスの足を引っ張ることになる。
「見て見て!あの子が国王様が連れてきたっていう・・・」
「わぁ・・・本当に女の子みたい。可愛いわぁ・・・」
「あら?イル姫様が連れてきたって聞いたけど・・・他国の王子様らしいわよ?」
訓練場は周囲が城の建物で囲われており、開けた場所からはその様子を見物出来るようになっている。
そこから城内にいる女性の召使いや政務官が噂を聞きつけて覗きに来るのだ。
それ自体がかなり広いので本来なら静かな場面で耳を澄まさなければ聞き取れないような会話も、
興奮気味な彼女達のおしゃべりは何故かよく通った。
「まぁ王子であっても贔屓はしないからね?」
体格はレイヴンに近いだろうか。
出会ってからずっと笑顔の部隊長はとても優しくそう言ってくるが、これはクレイスとしても有り難い。
元服まであと1年。
まさか兵卒として入隊しての修練だとは思っても見なかったが、
やるからにはこの一年でしっかりとものにしたい。
「は、はい!よろしくお願いします!」
自己紹介が終わり、いよいよ訓練が始まると、

・・・・・

10分後には立っている事も難しい状態で息を切らしてフラフラになるクレイスの姿があった。

基礎訓練としてまずは訓練場を10周ほどするらしいのだが、
それに全くついていけなかった彼は周回遅れになりながらも頑張ってはいた。
しかし途中からがんがんとした頭痛、脇腹に刺す様な痛みが走り出すと呼吸も浅くなってくる。
初日である為より必死になって皆に追い付こうとするも遂には、
「クレイス。君は休んでいい。」
部隊長による判断で休息を命じられてしまった。
今までの彼なら痛みを忘れて走り続けようとしただろう。しかし上官が言う以上ここは従うしかない。
「は・・はぃ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
恐らく5週も走れていない彼は自分の情けなさを再度痛感しながら戻ってくると、

「よっ。クレイス、辛そうだなぁ。」

部隊長の後ろから誰もが目を引く翡翠色の髪をなびかせて桃色の鎧に身を纏ったリリーが
手を上げて笑いながらこちらに歩いて来た。

「「「「リリー様!!お疲れ様です!!」」」」

既に10周を走り終えてた兵卒達がそれぞれ休んでいたのを中断すると慌てて直立し、
敬礼しながら挨拶を交わす。
ここに来て一番元気のよい彼らを見る余裕はないクレイスは息も絶え絶えに軽く頭を下げるしか出来なかった。
「リリー様は何故こちらへ?」
部隊長がやや緊張の面持ちで彼女に問いかけると、
「いや。主の命でしばらくは城内待機らしいんだ。まぁ家から通えるからとても助かるんだけど。
あと部隊長、あたしの方がずっと年下なんだし敬語じゃなくてもいいよ。」
「いいえ。国王様直属の近衛である貴女にその様な真似は出来ません。」
「うーん。あたしは気にしないのになぁ・・・」
やや困った顔になりながらこちらに歩いてくると座り込んでいたクレイスの前にしゃがみこんで、
手にしていた水筒からお茶らしきものを注いで手渡してくれた。
「ここでは兵卒として扱えって言われてるからあたしも普段通りに話す。
クレイス、この場所は地上からかなり高い所にあるから空気が薄いんだ。まずはこれに慣れろ。」
本来の彼女らしい言葉で励ましながらも受け取ったお茶を飲んでみると、
「・・・にが・・・い・・・」
妙な苦さを感じるも温かく、乱れていた呼吸が少し落ち着きを取り戻した。
「これはこの地で採れるお茶だ。頭痛とかしないか?それにも効くらしい。」
もちろん即効性ではないだろうが、
「あ、ありがとうございます。」
「うん。まぁ頑張れ。時々見に来るからさ。」
その心遣いと優しさに感謝を述べるとまるで自分の妹達に送るような笑顔で応えてくれた。



彼女がカズキにも軽く声を掛けてからその場を後にすると、
「そうか。君はリリー様とも面識があるんだったな。」
部隊長の言葉と共に周囲から刺す様な視線が向けられていた事に初めて気が付く。
(あ、あれ??何だろ・・・何か悪い事でも・・・あ!そうか。)
初日であまりの体力の無さを露見させてしまったので足手まといだと思われているのだろう。
「面識どころか一緒に旅をしてたからな。」
カズキが補足したところで周囲から無数の嫉妬が生まれ出す。
そもそも人から羨まれた経験がないので
未だ息を切らしているクレイスにはその感情の正体も自身に向けられる理由もわからない。

「・・・リリー様は『トリスト』兵全員の憧れでもある。あまり我々の神経を逆撫でしないように。」

「なるほどなぁ。」
何がなるほどなのか全く理解出来ないまま、次の訓練へと命令が出そうになった瞬間。

「クレイス様~!ご様子はいかがですか?」

第二王女であるイルフォシアが彼の名前を呼びながら皆の前に姿を現した事で
今度は嫉妬以上に殺気交じりの雰囲気が漂い始める。



訓練日初日。

クレイスは体が動かなくなるまで厳しい訓練を与えられ続けていた。

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