闇を統べる者

吉岡我龍

道なき人生 -弔いの形-

 クンシェオルトの葬儀はその妹メイの凶行によって中止という形で幕を閉じた。
反逆者扱いになった彼女は即日処刑という命が下ったのだが、
「ヴァッツ様との戦いが終わった時、既に彼女は死んでいたようです。」
その後、迎賓館に4将のビアードがクレイス達の元に来て本当の死因を教えてくれていた。
元々彼らは『闇の血族』という呪われた運命を背負っており、その力を解放すると寿命が削られるらしい。
クンシェオルトは1度の開放で二十年程を犠牲にしていたという話もその時初めて聞かされる。
「メイの力は尋常ではなかった。クンシェオルトへの想いもあり、その全てを使い切ったのでしょう。」
ビアードの考察を耳にしながらも、
裂かれた衣装を着替えて傷の手当てを終えたヴァッツはここへ来る前以上に深く沈んでしまっている。
だがそれ以上に
「我々がついておきながらこの体たらく。本当に申し訳ございません!」
彼は葬儀の安全を確保出来なかった事について何度も頭を下げて謝る。
「「「「・・・・・」」」」
この謝罪にどう答えるべきか。誰が答えるべきか。
少なくともクレイスではない事はわかっている。
だが誰かが受け止めてあげないと彼はこの部屋から動けないままだ。ここはやはり・・・
「頭を上げて下さいビアード様。私達は誰一人として今回の件を咎めようとは思っていません。」
やはり国務慣れしているイルフォシアがこの場を収めようと優しく声を掛けた。
その言葉を聞いてやっと少しだけ安堵の表情を浮かべたビアードは、
「ありがとうございます!」
心の底から謝意を表すと、

こんこん

扉が叩かれる音と同時に確認を取る事もせず、鋭い目つきの青年がずかずかと部屋に入って来た。
「これはナルサス様。今は不祥事の報告と謝罪を・・・」
口ひげの男が振り向きながら慌てて席を立って説明をしようとするも、
ナルサスと呼ばれた男はそれを手で制して
「わかっている。その話はもう済んだ。そうだろう?」
「は、はっ!」
どうも立場的にはビアードの上司といった感じか。
しかし彼は4将の1人だ。その上の人間となるとあとは・・・
「初めまして。私は『ネ=ウィン』帝国第五皇子ナルサス=ネ=ウィンだ。」
その名前を聞いてすぐに思い浮かんだのはクンシェオルトの顔だ。
(彼から聞いていた男・・・この男が『アデルハイド』への侵攻を企てた・・・)
思考が記憶と結びつき体が強張って動かない中。
イルフォシアはすっと静かに席を立ち、彼の前に移動すると、
「初めまして。私は『トリスト』王国第二王女イルフォシア=シン=ヴラウセッツァーと申します。」
洗礼された所作で頭を下げてその紹介に応える王女。更に、
「アルヴィーヌ=リシーア=ヴラウセッツァー。イルの姉。よろしく。」
椅子に座ったままだが姉もぶっきらぼうに自己紹介を済ませた。
ここでやっとクレイスも動き出そうとするが、
「いや。君はクレイスだろ?そちらはハイジヴラムだ。知っているよ。」
ナルサスがまたも手で制してその動きを止めてきた。
国力の差があるのは知っているが護衛役の紹介を省くのはともかく、
流石に他国の王族が挨拶をしようとするのを止めるのは無礼に値する。
上下関係を結んだ同盟国等の事情があるのならならわからなくもないのだが。
「・・・・・」
「私がここに来たのは理由がある。硬くならずに座ってくれたまえ。」
言われるがままに座り直すイルフォシア。
そして彼はヴァッツには一瞥もせずに自身もそのままビアードの隣に座ると、
「ふむ。やはり私の目に狂いはなかったか。
実際こうやって直接この目で確かめるとその美しさは何かに例えるのすら難しいな。」
開口一番、ナルサスは人生で中々口にすることがないであろう台詞を口にする。
その視線の先にはイルフォシアだ。むしろ彼の視線は最初から彼女しか見ていないようにも思えた。
しかし葬儀での騒ぎがあった後にそんな事を言う為にわざわざこの部屋に皇子自ら出向いてきたのか?
隣に座るビアードすら驚愕が見え隠れする表情を浮かべている。
「・・・お褒めに預かり光栄です。」
言葉を贈られた本人は至って冷静に返すも何やら様子がおかしい。
これは他の誰よりもずっと彼女を見続けていたクレイスだからこそ感じたのかもしれない。
だがそれよりも続く皇子の言葉に・・・
「ふふ。私が貴女に会いに来た理由は1つ。私と婚姻の契りを結んでいただきたい。」

・・・・・
ナルサスの度重なる予想外の台詞に一同は誰一人としてすぐに反応する事が出来なかった。





 女性への賛辞を贈る。
それだけでも嫌な予感はしていた。
だがよりによってこの男はイルフォシアへの婚約を持ち出してきたのだ。
現在ここに至ってはクレイスは正真正銘の部外者で何かを言い出せる立場ではない。
理解は出来るが納得がいくかというとそれはまた別だ。
ビアードの驚愕した表情とは別にこちらは軽蔑と嫉妬の表情を隠すことなく浮かべるクレイス。
しかしナルサスがそれを視界に捉える事はなかった。
返事を待つ間もずっとイルフォシアの表情を覗き込んでいるようだ。
(・・・・・この男・・・・・・)
『アデルハイド』への侵攻を指示し、父を殺し、更に恋心を寄せる人までも奪うつもりか?
父の安否はまだ決定したわけではないが、この状況で彼にそんな些細な事を思い直す余裕はない。
何より今回の来訪はクンシェオルトの葬儀が目的だ。彼の妹による事件もあった。
そんな出来事の後にこの男は涼しい顔で全く別の話を持ちかけてきたのだ。
クレイスの心にあった軽蔑が激しい怒りへ、嫉妬がおぞましい憎悪へ変わりゆく・・・

「ナルサス様。私達はクンシェオルト様の葬儀に参列する為にここに来たのです。
そのような話は私達だけで進められるものでもありませんし、今のは聞かなかった事にしておきます。」

とても冷静に対応するイルフォシア。
あまりにも堂々と、そして丁寧に言葉を返す姿の美しさが彼の中にあった醜い感情を一瞬で打ち消す。
「ふむ。では日を改めてそちらの国王とも相談してみよう。」
皇子は笑みを浮かべて軽く返すと来た時と同じように周囲を気遣う事無く退室し、
その後を慌ててビアードが追いかけていった。

・・・・・

折角の葬儀が台無しになった後にこの話題。
静まり返った室内で息が詰まりそうになっていると、
「帰りましょう!!」
イルフォシアが鼻息を荒くさせて立ち上がるとそう言い放った。
理由はなんとなくわかってはいたが、
「何で?」
「あの人が気に入らないからです!一刻も早くここから立ち去りたいです!」
姉の短い問いかけに全力で答える妹。
彼女が皇子を気に入るどころか真逆の感情を抱いた事にほっと胸をなでおろしていると、

こんこんこん

またも来客が訪れてきたようだ。
今度こそ御世話役のハイジヴラムが扉を開けて確認をすると、
「えっ?!は、はぁ・・・」
一瞬驚きの声を上げると何とも畏まった様子でその男を4人の前に連れてくると、

「よぉヴァッツ!元気がないって聞いたから様子を見に来たんだが?」

そこには以前出会った一兵卒フェイカーが笑顔で入って来た。





 「あ・・・カーチフ。」
メイの死によって全く喋らなかったヴァッツが彼に反応したので少し驚くも、
(カーチフ?フェイカーさんだよね?)
カズキに乗せられて初めて立ち合い稽古をした相手。
その時2人には間違いなくフェイカーと名乗っていた。人によって名乗る名を変えたりしているのか?
そもそもカズキを一瞬で打ち負かした相手という点も含めて色々と謎が多い人物ではあったが。
「えっと。貴方は?」
イルフォシアが見た目通りの男に何故ここに来たのかという意味も含めて尋ねると、
「おっと、初めましてアルヴィーヌ様にイルフォシア様。俺はフェイカー。
元の名前がカーチフって言うんだが、まぁそれはどっちでもいい。」
なるほど。ヴァッツにはカーチフと名乗っていたのか。
しかし彼がヴァッツと接触していた事は知らなかった。
そんなフェイカーが落ち込んでいると知っているヴァッツに会いに来たのには何か理由があるのだろう。

「何をそんなにしょげているんだ?ちょっと俺に話してみろ?」

近づきながらとても優しそうに尋ねる彼に、ヴァッツも感じ取る部分があったのか。
「あのね・・・クンシェオルトとメイが死んじゃってさ・・・
もう2人には会えないんだって・・・それで、
オレが配下にするとか約束したりしなければこんな事にはならなかったのかなって・・・」
感情を言葉にするのが難しいらしく、非常にたどたどしくも自分の気持ちをしっかり表そうとする。
それを優しい笑顔で頷きながらも見守るフェイカー。
(そういえば彼はクンシェオルトの元上官だって言っていた。)
今回の葬儀もどこかで参列していたのか。
だとすれば彼がここにいるのも納得できるのだが、1つだけ気になる点があった。
それは彼からはヴァッツのような悲しみが全く感じられない事だ。

クンシェオルトの元上官なら少なくともクレイス達よりも長い付き合いだっただろう。
なのに彼が死んだ事に対する感情が全く読めない、初めて出会った頃と同じような雰囲気を纏ったままだ。

「オレ、『死ぬ』っていうの全然わからなくてさ・・・何でもう会えないの?」

クレイスが自然体でいるフェイカーに目を奪われているとヴァッツが自身の苦悩を打ち明け終わっていた。
その話を聞いても優しい笑顔を崩すことなく大きく頷くと、
「よし。じゃあその『答え』を探しにあいつの家に行ってみようか。」
「えっ?!」
まるで最初からその誘いを持ちかけに来たかのように切り出すと、
フェイカーは手招きしてヴァッツについてくるよう促し始める。
これをこのままにしておいていいのか?
彼については謎を多く感じるものの悪さを企むような人間には見えないが・・・
「お嬢様方も、クレイス様もハイジヴラムもどうぞ。
あそこの執事は俺もよく知ってるからな。嫌な顔はされないさ。」
全員が向かっても大丈夫だと断言するので4人が顔を見合わせると代表して、
「では。折角なのでご招待に預かります。」
先程のナルサスを相手にしていた時とは違い期待の意味も籠っているのか、
イルフォシアは優しく答えた。





 フェイカーに案内され、迎賓館から二台の馬車を率いて向かった先はとんでもなく大きな建物だった。
4将筆頭というのは知っていたが、それでも広大な敷地に城とも呼べそうな館。
木々の手入れはしっかりと行き届いており、馬車が到着した時も一糸乱れぬ動きで執事と召使いが出迎えてくれた。
「これはこれは。フェイカー様、御無沙汰しております。」
白髪だが品のある老執事が少し寂しそうな笑顔で挨拶をすると、
「うむ。しばらく見ないうちにレドラもまた年を取ったみたいだな。」
相変わらずフェイカーは明るく振舞っている・・・いや、本当に明るいのか。
しかしそんな彼の言動は決して彼らを傷つける事はなく、むしろ少し表情が和らいでいくようにも感じた。
「今日は客人を連れてきた。あいつの部屋で昔話でもと思ってな。頼めるか?」
「・・・畏まりました。ではどうぞ。」
レドラと呼ばれた執事はそう言われると先程までの寂しい雰囲気が消え、優しい笑顔で5人を案内してくれる。
そしてその立ち居振る舞いを見てクレイスは、
(・・・クンシェオルトみたいだ。)
どちらがどちらの見本になっていたのかはわからないが、その品のある動きは間違いなく彼と被る部分がある。
その所作に感心していると、

「こちらがクンシェオルト様のお部屋でございます。」

二階にある一際大きな扉の前まで連れて来られると中に通される。
そこでもまた彼らしい、実直な性格を端々まで感じ取れる内装と質素ながらも荘厳さを感じる部屋に、
「・・・ここがクンシェオルトの・・・なんか・・・今にも出てきそう。」
ヴァッツが少しだけ元気の戻った声で呟いていた。
その声にそれぞれが反応すると、
「そりゃそうだ。あいつの性格が詰まっているからな。はっはっは。」
フェイカーが皆と同じように見回しながら笑う。
やがて大卓を囲んで座ると少量の料理に見合わぬほど大量の酒が運ばれてきた。
「おいおい。これは流石に多すぎるだろ?4人はまだ元服すらしてないんだぞ?」
ここにきて初めてフェイカーが苦々しい表情になるもそれは決して悲しみからではない。
愚痴に近い彼の言葉に今度はレドラの方が満面の笑みになりながら、
「いえいえ。私も楽しませていただく以上、これくらいは無いと話になりませんよ。」
どうも彼は相当お酒が好きらしい。
更に彼もこの卓について一緒に楽しむようだ。
執事としてその行動はどうなのだろうと思いもしたがフェイカーは何も言わない。むしろ、
「弔いの杯だ。俺は抑えるからな?」
彼の参加は最初から決まっていたらしい。

何が何だかよくわからないまま、中止になった葬儀の代わりではないのだろうが、
厳かとは程遠い、明るい酒席が幕を開いた。





 「まずは別れの杯だ。献杯!」
フェイカーがそう言って控え目な杯に入った酒を低く掲げると一気に飲み干す。
それに続いて周りも各々が好みの飲み物を喉の奥に落とし込んでいく。
発酵させていない葡萄水を頂いたクレイスも、それを一口飲んでほっと一息つくと、
「先に改めて紹介しておこう。レドラとこの屋敷は元々俺の所有物だったんだ。」
「そうなの?」
この屋敷に通されてからヴァッツに少しだけ元気が戻ったようだ。
彼らしい好奇心に満ちた眼差しでフェイカーに質問をぶつけると、
「ああ。俺はクンシェオルトとは別の意味で持て余していたからな。
さっさと売り払いたかったんだがそんな時あいつが『トリスト』との戦で大手柄を立てた。」
「・・・我が国の兵士を壊滅させた戦いですね。私も話でしか聞いておりませんが。」
「うむ。7年前だからな。女王様方はまだ赤子だったんだろうし無理もない。」
そんなやりとりで始まった弔いの酒席だが、
話の内容だと2国の争いは相当な犠牲が出ている様子だ。
それなのにお互いが憎悪を面に表すことなく話は続けられる。

「あいつも妹の世話が必要だったからな。
強さも申し分なかったし俺はそのまま4将筆頭とこの屋敷関連を全部譲った訳だ。」

・・・・・
譲った??
「なるほど。それで7年前から名前まで変えられていた訳ですか。」
あまり自分から口を開くことが無かった御世話役のハイジヴラムが感心しながら納得すると、
「利害の一致、というのも大きな理由でした。ですよね?」
レドラが今の話では不十分だと言いたげに口を挟んでくる。
「う・・・ま、まぁな。多少は俺の都合もあったな。」
「どんな事?」
こういう時のヴァッツは違う意味で最も強いとクレイスは感じる。
下心がある訳でもなく、ただただ純粋に目を輝かせながら気になった事を聞いてくるので
尋ねられた方も誤魔化す事が難しく、
「・・・俺には年頃の娘がいるんだ。丁度今のお前と同い年、当時11歳だった。
それが手を付けられないくらいの反抗期に入っててな。どうしても家にいる時間を増やしたかったんだよ。」
苦笑いと共に酒を飲みながら自身の事情を説明すると、
「更にフェイカー様はご自身の娘をクンシェオルト様に嫁がそうと動かれていたようですが?」
元々彼に仕えていた執事が目を光らせて質問を挟んでくる。
「うぐ・・・うむ・・・まぁそれが一番理想だったんだが、
あいつは『闇の血族』という理由で婚姻は全て断っていたんだ。本当勿体無いよな・・・」
知らず知らずのうちにフェイカーとクンシェオルト、レドラの関係性と彼らの昔話で場が賑わう。
だかここまできてやっと。

「あの・・・フェイカー・・・様って・・・元々4将・・・なのですか?」

話の流れからしてそうとしか考えられない。
しかし誰もそれを口に出す事はなかったので気になって仕方のないクレイスが直接本人に問うと、
「うむ。俺は前4将筆頭カーチフ=アクワイヤ、なんだが正直大層な肩書きは肩が凝ってな?
兵卒として最前線で戦ってる方が性には会っているんだ。」
彼が答えるとハイジヴラムとレドラもこちらに向けて頷いていた。
2人は彼の事を知っていたらしい。

(それで・・・カズキが簡単に負ける訳だ・・・)

本人の前で言ったら絶対にその日の修行が激しいものになる為、この場の心の中だけで呟いておくクレイス。
気が付けばクンシェオルトとあまり接点のなかったクレイス自身の寂しさも徐々に薄れていった。





 「クンシェオルト様はメイ様に関してだけは厳しい態度で接する事が出来ませんでした。
なので当初反対されていた暗殺者との関わりもなし崩し的に許容する流れになったのです。」
会食が進む中、レドラがご機嫌に主兄妹の話をすると、
「ほう?そうなのか。ハルカ?」
ふとフェイカーが扉に向かって尋ねる。
それに合わせてずっと無言で食事を取りながら退屈そうにしていたアルヴィーヌも首を向けると、

・・・きぃ・・・

ゆっくりと扉が開き、そこには葬儀の場でも見た黒い衣装にきちっと身を包んだハルカが立っていた。
「・・・クンシェオルト様は絶対メイに怒らなかったし。まさか反対されてたなんて・・・」
その表情は悲しみというより複雑な、悲しんでいいのか笑っていいのかといった風だ。
そんな彼女の前にとととっと軽い足取りで近づいて行ったのは、
「貴女ハルカって言うの?もしかしてルーが言ってた暗殺者のお友達って貴女?」
アルヴィーヌが不意に懐かしい名前を出したのでクレイスも2人の動向に目を向けた。
ルーというのは旅の最初に付いていた従者リリーの妹だ。
非常に明るくヴァッツを女の子にしたような子で、確かにシャリーゼでハルカと随分仲良くなっていたのを思い出す。
「何でルーを知ってるの?貴方『トリスト』の王女でしょ?」
「だって私の友達だし。」
扉際でお互いが共通の友人を持っているという話になると、
「とにかくこそこそしてないで。ほらほらハルカも入って混ざれ。」
フェイカーが酔っ払いながら中に入るよう促すと、少し気恥ずかしそうにもじもじし出すハルカ。
そんな彼女の心情を汲み取ることなくアルヴィーヌがその手を掴んで引っ張ると自身と妹の間に座らせた。
元々クンシェオルトを知らない彼女からしてみればとても退屈だった酒席の場に
人伝で聞いていただけとはいえ気になっていた人間が現れたのだ。
「私はアルヴィーヌ。ルーの友達ならアルって呼んでくれていいよ。私もハルカって呼ぶから。」
「ぇぇぇ・・・」
今までの無言が嘘だったかのように堰を切って話し出すアルヴィーヌに戸惑うハルカ。
やがてそれぞれが色んな話題を個別にし始めて場がどんどん騒がしくなってくると、

「覚えておけ。これが死者を弔う一番良い方法だ。」

フェイカーがヴァッツと、その隣に座っていたクレイスに笑いかける。
場慣れもしていないし知識も乏しい彼らは
お互いの顔を見合わせてどういう反応をすべきか無言で視線を交わし合うと、
いつの間にかヴァッツから暗い雰囲気と表情がほとんど消え去っている事に気が付く。
そこで1つの答えにたどり着いたクレイスは正否を確認すべく、
「えっと。わざと明るい酒席を開く事が、ですか?」
今後の為にも必要な知識となるかもしれない。フェイカーにしっかりと聞いておこうと思ったのだ。
「いいや。上辺だけの明るさなどいらん。悲しければ悲しめばいいし泣きたければ泣けばいい。
要はその場を設ける事が大事なんだ。」
クレイスの問いに答えながらも彼は明るさを取り戻しつつあるヴァッツに目を向ける。
そして、

「いいかヴァッツ。人は必ず死ぬ。
そしてそれは例え誰かに殺されようとも、その根幹には自身の選択ってのが必ず入ってくるんだ。」

いきなり真面目な、酔いを全く感じさせない声色に戻ったフェイカーの言葉に思わずクレイスも聞き入る。
「そうなの?」
「ああそうだ。今回クンシェオルトが死んだのも、メイが死んだのも誰が悪いっていう訳じゃない。
あいつらが自身の人生を選び、そして運命がその方向へ進んだ。それだけなんだ。」
前4将筆頭が語る真面目な死の価値観とその言葉にいつの間にか周囲も黙って耳を傾け始めた。
「・・・死なないようには出来なかったの?」
「さぁな。出来たかもしれないし出来なかったかもしれない。だがもう済んだ事だ。
それを考えても2人が生き返る訳でもないしな。」
そう言って杯の酒を軽く飲むと少し間をおいて、
「だがもし今回の事でお前が何かこうしておけばよかった、というのがあればそれを忘れずに胸にしまっておくといい。
今後同じような場面に出くわした時、
その時こそ今日この日に感じた苦い記憶と後悔を再び思い出して全力でそれを果たせ。」
優しく、力強く諭す姿と言葉に感動を覚えつつも、
ここでも先程のレドラのように、元上官の姿に一瞬クンシェオルトが重なって見える。
「・・・カーチフの言葉って・・・難しいね?」
しかし一番伝えたかったであろう少年の反応は薄いものだった。
眉間にしわを寄せて理解しようと必死に考えているのは間違いなかったが、その姿を見て少し考えたフェイカーは、
「・・・わかりやすくいうと2人の死は誰も悪くない。
それにいつまでもくよくよしてるとクンシェオルトがあの世で困り果てるぞ?」
とてもわかりやすく答えたフェイカーにヴァッツの表情に明るさが戻りつつも、

「うん・・・そうか。困らせたら駄目だよね・・・うん・・・」

自分に言い聞かせようとしているのか、何度も頷いているヴァッツ。そこに、
「クンシェオルト様の御姿は我々の記憶と目に焼き付いております。
もし彼の事で聞きたい事があればいつでもお話させていただきますよ。」
こちらは相当な量のお酒を飲んでいるにも関わらず全く様子の変わらないレドラがにこりと微笑んでいる。
と、同時に今の発言がクレイスの中で何か閃くような感覚に襲われた。

・・・そうか。関係が深かった2人だからこそ、彼と似た点がより際立つのか。

この時はその程度しかわからなかったが、それは自分の中にも確かに存在するのだと後ほど気が付くことになる。

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