闇を統べる者

吉岡我龍

ユリアン教の影 -闇について-

 完全に脅威が去ったとみていいだろう。
クレイス達は村人を率いて村に戻ってくると、
そこには唖然とした5人がヴァッツを見て予想通り様々な反応をする。
「今の黒いの、絶対お前の仕業だよな?どうやったんだ?」
「あれは私達にも悪い影響があるのでは?どういった原理ですか?」
「ヴァッツ様、貴方は素晴らしい。まことに素晴らしいです。」
「また助けていただきましたね。ありがとうございます。」
「・・・・・二度と私の前でやらないでもらえる?!」
身内に詰め寄られる中、村人達も口々に感謝の声を上げている。
だが彼らからするとあの現象はやはり恐ろしかったようで、
一部の人間はヴァッツを敬遠しがちな目で見るようになった。
あまり質問をされたくないヴァッツは、そそくさと逃げるようにクレイスの傍に来ると、
「クレイス。この黒焦げの木って、まとめてどっかに集めてあげるとみんな喜ぶかな?」
「う、うん。ここにまた家を建てたりするから、邪魔だし村の外に出そう。」
シャリーゼの時と同じように提案し、2人は作業を装ってその場を回避した。

(・・・さすがにもう誤魔化せないんじゃないかな・・・)

炭となった木材を集めながらクレイスは今後について考えていた。
ヴァッツのあの様子だとまた何とかしてほしいと頼まれそうだが、
今回は村人まで巻き込んでいる。

そういった経緯も踏まえると、
『ヤミヲ』が頑なに自身の存在を隠そうとするのにそれ以上に表に出てくるのが悪い気がする。
クレイスやヴァッツに誤魔化しを任せる前に自分でどうにかすべきではないだろうか?
そこに考えが行き着くと彼の中でこんがらがっていた悩みが見事に解決したのだが、

(・・・本当にそれでなんとかなるかな?)

不安なまま夜になり、一行は亡き村長の家を借りて夕食の卓を囲んでいた。
それぞれが口に出したい衝動を抑えながら静かに食事を取っていると、

「オレの事そんなに知りたい?」

周囲の空気を悟ったのか、ヴァッツからそんな事を言い出してくる。
「えっ?!」
クレイスが思わず声をあげてしまうと、そんな空気を一蹴するかのように
「・・・それを知ったらあんたの命取れる?」
暗闇夜天族の頭領が自分の中にある矜持を取り戻さんと凄んでくるが、
【貴様ごときでは傷一つつけられん。くだらぬ野心は捨てる事だな。】
「いやぁぁぁ?!?!」
一瞬で心が折れた彼女は慌てて時雨に抱きついた。
リリーがいなくなってからは事ある毎に時雨を頼っている。
「あ、あれ?いいの?『ヤミヲ』さん。」
まさか昼間に思っていた通り本人が出てくるとは思わず、クレイスが聞いてみると、
「いいんだって。オレが本気で怒っちゃったからつい嬉しくなって力使ったんだってさ。
だから自分で説明するって。だったら最初からそうしてほしいよね?」
ヴァッツが不貞腐り気味に同意を求めてくるが、
【何を言う。お前と私は一心同体、私を楽しませたお前の責任も十二分に考慮すべきだろう。】
『ヤミヲ』がヴァッツの口を通して話してくる。
以前と同じで片方の瞳だけ白黒を反転させ、黒い霧らしきものが漏れていた。
ふと周囲が唖然としているのに気が付き、自分達ばかりで話していたので慌てて口を噤むと、
「えっと・・・ヴァッツの中にいる『ヤミヲ』さんです。」
紹介だけして皆に話を振った。
彼の存在を知らなかったら様々な憶測が頭に浮かんでいただろう。
クレイス自身もわからない事だらけなので、この際みんなの力も借りて色々聞いておきたい。
まずは戦闘に関して誰よりもうるさい獣の少年から口を開く。
「『ヤミヲ』?っていうのか。お前はヴァッツとは別物なんだな?」
【うむ。私は闇を統べる者。ヴァッツの体を使っているだけで私は私として存在している。】
(そうだったのか・・・)
カズキの質問にクレイスが深く頷くと、
「『ヤミヲ』様はどういった力をお持ちなのですか?」
【闇を通せば何でも可能だ。】
「具体的には相手の動きを止めたり、相手を遠い地に飛ばしたり、などですか?」
ショウの質問にクンシェオルトが重ねて質問すると、
【そうだ。それらは全て私の力だ。】
その答えに今度はクレイス以外が納得したのか深く頷いている。
「その力ってのはヴァッツの傍にいればいつでも起こるもんなんだな?」
【いいや。私とヴァッツの気分次第だ。】
「えっ?!そ、そうなのか?」
もう少し明確に力を発動させているものかと思っていたようで驚きの声を上げるガゼル。
(そういえば騎士達に襲われた時、誰よりもヴァッツの力を知ってる風な事を言ってたな。)
しかしそれは勘違いだったようで事実を知ったら顔を引きつらせて青ざめていた。
「結局のところ貴方は何者なのですか?」
【闇だ。それ以上でも以下でもない。】
抽象的な答えに沈黙が生まれる。
(闇・・・・・)
よく善の象徴として使われる光とは対象に物語などではあまり良くは描かれないが、
こうやって話をしてみると、ヴァッツの外見こそやや不気味にはなっているものの
やはりクレイス個人としては怖さなどを感じる事はなかった。
「もうオレもしゃべっていい?」
【お前の体だ。私に気兼ねせずどんどん話せばいい。】
「よし!それじゃオレも聞いとこ。なんで俺が怒ったらヤミヲが楽しいの?」
まさか本人が本人に質問するとは思わなかった。
そしてそれは力の発動に大きく関係していると思われる内容だ。
周囲もかたずをのんで見守る中、
【ふむ。私の感情・・・ともう言うべきか。それは常に安らぎの状態なのだ。
そこにヴァッツが喜んだり怒ったりするとそれが私にも伝わる。
私には生み出せない物がこの体を通じて感じることが出来る。
同時に体感出来ているという快楽も生まれ、恐らくその時私は幸せなるものも得ているのだろう。】
「うん?つまり?」
【つまりお前の感情が私の喜びに変わる。】
「???」
(なるほど・・・それで怖さとかは感じないのか。)
ヴァッツの意図する質問とは別の方向から自身の答えを見つけたクレイス。
『ヤミヲ』は安らぎの存在なのだ。だから話していても恐怖など感じない。
納得のいく答えに手ごたえを感じているがヴァッツの表情は困惑そのものだった。
【質問は終わったか?では私は引っ込むとしよう。】
周囲がある程度納得いったのを確認すると『ヤミヲ』は静かに消えていった。

「・・・あいつさえ出てこなければ私が勝てるんじゃない?」
暗殺者としての誇りから来るのだろうか。
恐怖の対象が消えた途端、再度強気な発言をするハルカ。
時雨に抱き着いたままなので全く説得力はないのだが、
【ヴァッツに勝てる者など存在しない。諦めろ。】
「?!?!?!?」
『ヤミヲ』はいつでもヴァッツの傍にいるのだ。

こうしてヴァッツの大いなる力を知った一同は、
それらを話題に出しながら楽しい夕食の時間を過ごしていった。





 次の日、朝から張り切っていたヴァッツは村人に案内され、
家屋を立てるのに必要となる木の群生地に来ていた。
夕べ隠し事だったヤミヲを打ち明けたので気が晴れたのだろう。
いつも以上に元気いっぱいな様子を見せている。

今回復興作業の手伝いも彼が言い出したことだ。
「『迷わせの森』じゃ曲がった木しか見た事なかったから。
一度真っ直ぐな木を担いでみたかったんだよね。」
その言葉を聞いてクレイスとガゼルが顔を見合わせる。
確か初対面の時はひん曲がった巨木を3本まとめて肩に担いでいた。
なので、
「いいんじゃねぇか?村も大いに助かるだろうし。
何よりヴァッツがやりたいってんなら俺も賛成だ。」
ガゼルに言いたい事を全部言われてしまったが、クレイスもうなずいて同意する。
周囲もそれに反対する理由はなかったので朝から行動を開始していたのだ。

「よっし!それじゃ片っ端から抜いていくね!!」
最初言っている意味がよくわからなかったが、両手で幹を掴み、
まるで雑草のように巨木がどんどんを引き抜かれていく様子を見て開いた口が塞がらなかった。
午前中だけで必要な数以上の木材が揃ってしまっただけでなく
全て根っこから引き抜いているので同時に開墾地まで出来てしまい、
村人達の今後の仕事が増える事態になってしまう。

真っ直ぐな木を扱えることに喜びを感じているヴァッツは
それを10本単位で担いで村の脇まで運び、汗一つかかずに何往復もする。

もちろんそれらは加工しないと使えないので
すぐに家が建つというわけにはいかないが、少なくともその時点で作業の半分は終えている。
村人もつい調子に乗って余分に木の調達を頼んでしまい、
午後が過ぎた頃には村の敷地が見えなくなるほど材木だらけになってしまった。

「おいおい。持って来すぎだろ。枝打ちが間に合わねーぞこれ。」
ガズキがぼやきながら作業の手伝いをしていると、
「でも貴方の手際がいいのでかなり捗っていますよ。鉈も上手に扱われるんですね。」
同じく作業を手伝いながら感心するショウに、
「家訓でな。武芸百般って教わってきたから大体何でも使えるんだよ。」
くるくると鉈を回しながら答える。
「へー」
クレイスも鉈を片手に見よう見真似で枝を打つ。が、これが思った以上に重労働だ。
「太いところは鋸使ったほうがいいぞ。」
周囲の男勢からも助言やら指示が飛び交い、昨日とは打って変わって皆の表情が明るい。
安全が確保されたのもそうだが、やはり木材の確保が想像以上に早く進んでいるからだろう。



 「いや。とても助かりました。本当にありがとうございます。」
その夜はささやかながら小さな宴を用意され、昨夜と違って賑わいを見せる夜を過ごす。
特に急ぐ旅でもないが報告は必要なので
明日は『シアヌーク』へ向かって出発し、そこから中央への援助要請も届けてもらう予定だ。

酒も入っていたので、次の日の朝は遅めの時間からの行動になった。
村の都合もあり、あまり補給は期待出来なかったがそれでも3日分は分けてもらうと、
「では、我々は急いで報告して参ります。皆さんも焦らずお待ちください。」
最後に挨拶を交わしたショウは援助の早期要請を約束し、見送られた一行は北へ旅立った。





 「行ったか。」
「ああ、そのようだ。」
村から東にある小さな丘。そこから2人はクレイス達を監視していた。
「あの黒い雲といい木の集め方といい、なんかとんでもないのがいるな。」
「本当だよ。下見に来て正解だったぜ。」
まだ若い、少年のあどけなさが残る金髪と黒髪の2人はぼやきながら遠望鏡をしまう。
「しかし俺達の小隊を襲った騎士団、跡形もなく消えてしまったのはどう説明しよう?」
「だなぁ。見たまま説明しても信じてもらえるかどうか。戦利品が無いもんな。」
斥候としてここにやってきたのはいいが、
このまま帰れば成果どころか情報すら無しと判断されかねない。
「接触してみるか?」
「ええ・・・・・それなら帰って叱られた方がよくないか?」
あまりにも得体が知れないのだ。黒髪の青年が二の足を踏むのはよくわかる。
「じゃあお前が帰るって言いましたって報告するからな?」
「おい、そこは連帯責任だろ。」
2人はじゃれ合うように掛け合いを終えた後、静かに馬に飛び乗るとその場を走り去った。



 まさか旅立って1日も経たないうちに次の厄介事が起きるとは。

村を出て間もないのに、一行の前に2騎の馬が現れた。
「ちょっと待ってもらおう。その馬車に乗ってるのってあの村にいた騎士団を倒した人達だよな?」
「いえ、違います。」
一瞬の間も置かずに有無も言わさず返事をする時雨。
以前リリーさんも同じようなことをしていたな、と思い出す。
「いや!そんなはずはない。俺らは丘から見てたんだ。
変な黒い雲が一面に広がって、それが晴れたら騎士団が誰もいなくなってた。」
それを聞いてどきっとするクレイス。
まさかヤミヲさんの力を外から見ていた人がいたなんて・・・
同時に外からはそういう風に見えてたのかと少し感心していると、
「で、騎士団を倒したのが俺らだったら、お前らはどうする?」
戦いの匂いに釣られた戦闘狂が目を光らせて馬車から降りていく。
闘気とやる気が充満している姿をみて、騎乗している2人が顔を合わせている。
「・・・どうする?もうここまで来たら一戦交えるか?」
「でもあれ、やばそうだぞ?いけるかな?」
ひそひそと相談しているようだが、そこに
「失礼。貴方達はもしかして『リングストン』の方々ですか?」
ショウまで出ていって話し始めた。
「あ、ああ。俺らは『ナーグウェイ領』から来た。仲間があの騎士団にやられたんでね。
雪辱を果たす為に偵察に来たんだけど。」
「そしたらあんたらが一掃しちゃったみたいだし。そのまま手ぶらで戻るのもアレなんで。
あいつらを殲滅したあんたらに接触だけしてみようって思ったわけ。」
随分軽い調子で答える2人に、
「なるほど。では帰るついでに1つお伝え下さい。
『もし『シャリーゼ』の地に侵攻目的で入ってきたら、同じように何も残らずこの世から消す』とね。」
まるで自分がやったかのように言い放つショウ。
思わず突っ込みそうになるが、その効果は絶大だったようで
「お、お前か!?あれをやったのは!」
「こ、こいつ・・・この赤毛、もしかして懐刀のショウか?!」
「ご名答。はい、お互いがお互いを理解したようなので話は以上です。」
「ちょっと待て。俺がまだ戦ってないだろ?」
カズキが入ってきて話がややこしい事になってくる。が
「俺ヴァッツ。よろしく。お前らは?」
ヴァッツがいつの間にか外に出ていつもの自己紹介と握手を求めている。
「お、おう。俺はアスワット」
流されて黒髪の青年が名を名乗り握手を交わす。
「俺はサファヴだ。」
仕方なく金髪の青年も名乗り、同じく握手をする。
「俺はカズキだ。さて、どっちからやる?同時でもいいぜ?」
すでに刀を抜いている戦闘狂。どうにも止まりそうにない。
アスワットとサファヴは何度目かのお互いの顔を見合わせる様子を見せると、
「騎士団の件がわかってて消すとか言われてんのに何で戦わなきゃならねーんだよ。」
「ったく。最悪の斥候任務だったぜ。」
と、愚痴を吐き捨てた後、逃げるように北に去っていった。

「何だったんだあれ・・・」

嵐のような出来事に思わずクレイスの口から素直な意見が漏れた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品