闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の侵略-⑥

 「こいつは目が覚めたら畑を修繕させる。いいな?」

「はいはい、この人の怪我が完治してからね。」
年下らしい反応を示してくれるので少しだけ嬉しかったフランセルは軽く流す素振りを見せるが実際この男の処遇はどうなるのだろう。
「それなりの怪我ですがまぁ屈強そうですしな。早ければ今日明日にでも目が覚めるでしょう。」
『剣撃士団』のお抱え医師ルクトゥールの診断では命に別状はないという事だが異邦人と話し合いになるのか。フランセルの記憶では凡そ仲良くするには難しい人物しか知らない為不安要素はかなり強い。

「じゃ、今度こそお昼にしよ?もう私お腹ぺこぺこだよ~。」

ほら思った通りだ。緊迫した空気を全く読まないタシンが甘えた声を出してきたので思わず拳を作ったがそれよりも早くカズキが諫める。
「俺はこいつが起きるまでここにいる。フランセル、悪いけどタシンに飯を食わせてやってくれ。」
「ええ?!何で私が?!」
「ここがお前の母国だからだよ。色々詳しいだろ?」
それはそうかもしれないが彼女も自分なんかと一緒に食事を摂りたいとは思っていないだろう。
「いいわね。それじゃ案内よろしく~。」
ところが優しく断ろうと思案していた所にタシンの方から了承してきたのでこちらは目を丸くしてしまった。まさか仲良くなりたいとか?よくわからないがここにいてもカズキの邪魔になるだろうと考えたフランセルは一先ず街に出てから彼女の様子を窺ってみる。
「・・・何でもいいの?」
「うん。あ、でも折角だから『ネ=ウィン』で有名なものとかここでしか食べられないものがいいかな~。何かある?」
見た所お腹が空いているのと美味しいものを食べたいという部分は本当らしい。仕方がないのでお気に入りの定食屋に足を運んだのだが席に着くとタシンは呆れた様子で店内を見渡していた。
「ほえ~良い匂いはするけど飾り気も何もないわね。周りがごつい男ばっかりなのはやっぱり『ネ=ウィン』だから?」
「・・・そうね。ここは戦士達が愛用しているお店だし。力の付くご飯に量も申し分ないわ。」
「うへ~私、量はそんなにいらないかな。注文もフランセルに任せちゃう。」
今の所こちらを敵対視するような言動は一切ないのでこちらも仕方なく彼女の要望に応えると2人の席には薄く切った豚肉に美味しそうな果汁のかかった料理が運ばれてくる。
「お?!いいね!こういうおしゃれなものもあるんだ!もしかして私に合わせてくれた?」
「そんな訳ないでしょ。ただお店の人が私の為にって色々作ってくれるのよ。だから今日も彼らにお任せしてきたわ。」

「お~常連だね。でもフランセルはあんまり女を磨いてない感じか~。」

そしてやっと彼女が初対面時と同じような雰囲気を醸し出すとフランセルも言葉の棘に反応しつつ、ゆっくりと睨みを利かせるのだった。

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