闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の侵略-④

 「はぁ。自分の勤勉さが恨めしいわ・・・」
「勤勉、のう・・・」
お客様の波が落ち着いた頃、やっとショウ達の下へ戻って来たハルカはティナマからの疑問の眼差しを流しつつ椅子に腰かけるとどこまで話が進んだかを尋ねる。
するとサックルとウォダーフが危険、及び要注意として挙げていた人物を同席していたトウケンに確認も含めて教えてもらった。
とにかく最も注意すべきは先程名前が挙がっていたファーンという王だそうだ。この男は勝つ為なら手段を選ばないらしく、女子供さえ犠牲にするという。更に戦後与えられる褒賞すら約束の半分も渡さないという部分でサックルは非常に毛嫌いしているようだ。
他にもハーラーという女は様々な国の重臣、もしくは王に取り入って内部から崩壊させる為これまた厄介だという。何せ男なら抗うのが難しい程の美貌を持っているというのだ。
(美貌・・・クレイスはわからないけどヴァッツがそれに靡く事はなさそうね。)

「そして面白い話として暗殺集団『ファティアール』というものが存在するそうじゃ。わしらとどちらが上かのう?」

「えぇぇ・・・まぁどの世界にも需要はあるでしょうけど張り合うものでもないでしょ?」
と返してはみたものの確かにこの世界では『暗闇夜天』が頭一つ抜けて頂点に君臨している為別世界の暗殺集団がどういうものかはほんの少しだけ気になるところだ。
「他にも厄介、という訳ではないのですが私達の世界には強王ムチャカというのも存在しますね。とにかく個と我が強くいつも戦いに飢えているような、そう、カズキ様をより面倒臭くした感じの・・・げふんげふん、少し言い過ぎました。」
「それは十分に厄介ですね。覚えておきます。」
ウォダーフが過言気味だと謝罪を入れたにも拘らずショウがばっさりと肯定する様には呆れつつ笑みが込み上げてくる。やはりどこの世界にも戦闘狂というのは存在するらしい。

「まぁ俺にとってはウォダーフが一番厄介で面倒臭いんだけどね!いい加減この籠から出してくれよ?もう全然悪さをしてないだろ?」
「そういえば『ファンタレック』を放置してるなんて珍しいな。いつもならさっさと感情に戻すのにどうした?」
確かに籠の中でのんびり過ごしている『ファンタレック』にはハルカも疑問だった。捕らわれているようだが過酷な環境という訳でもなく、単に客寄せとして吊るしているのかと思っていたがそうではないらしい。
「私もそうしたいのですがメラーヴィ様からの慈悲を受けて生かしているのです。籠もその現れなので脱獄した場合は容赦なく自我を奪って無に帰します。」
「・・・それって囚人じゃん!」
「おや?やっと自覚されましたか?では今からが本当の服役ですね。」
初めて自分の立場と事実を告げられたからだろう。『ファンタレック』は絶望よりも憤怒を現していたが国王の体を乗っ取っていたという罪に対して処罰はかなり軽いのだからハルカは諦めるよう言い聞かせる。

「つまりそいつらを見つけた場合は上に報告すればいい感じ?」

それよりも今は彼の世界から迷い込んでくるかもしれない厄介者についての対処が最優先だ。話を戻すとショウも静かに頷いて記録した書類をまとめ始める。
「はい。どの方も相当癖が強そうなので報告を最優先にお願いします。あ、あとサックル様は傭兵と仰いましたね。もしよろしければ我が国の正規兵として働かれませんか?」
これは異邦人を他国に渡さない為の勧誘なのだろうが彼にしては随分と文言が弱い。そこに違和感を覚えていると彼が傭兵という部分を考慮しての発言だったらしい。
「おお!それは有難い!でも折角遠方の地に来たんだ。他の国も覗いてから考えさせてもらうよ!」
つまり強制するよりもあえて比較させる事で最終的に自らの意思で自陣へ引き込もうという狙いのようだ。
「ええ。我々も急ぎませんので是非『カーラル大陸』を十分に見聞してみて下さい。」
優しい笑みを浮かべたショウはそう告げると速やかに『トリスト』へ帰っていく。それからすぐにサックルも周辺国を調べに旅立ったのだが極度の方向音痴である彼が再びこの地に訪れるだろうか、とウォダーフが呟くと周囲は呆れ返り、イフリータはショウの作る手配書に彼も捜索枠として追加してもらうよう急いで後を追うのだった。

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