闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王と共に-②

 「であれば私からもクレイスに頼もう。今のルサナであれば正式な近衛や側近くらいは務まる筈だ。それで傍に置いてもらえばお前も後ろめたさが無くなるのではないか?」

期待していなかった分、かなり的確な提案にルサナは思わず目を丸くしてしまう。『闇の王』の力を得て動いてた時も知的な印象だったがまさかここまでとは。
兄妹というのも案外悪くないのかもしれない。初めて『骨を重ねし者』の存在を身近に感じたルサナは無意識に頷くと『腑を食らいし者』も口を挟んでくる。
「だったらわしも口添えするぞ!!可愛い妹の為だ!!何でもしてやろう!!」
ところがこちらは兄としての威厳を保つ為の行動らしい。何となくそう感じたのはルサナにも彼らの心情が流れ込んできたからだろう。
「腑の兄さんは『ダブラム』の復興について行動して下さい。私の事は・・・私自身が何とかしないといけないんです。」
未だにぴんと来ないがこれが血のつながりというやつなのか。無意識に『腑を喰らいし者』をそう呼ぶと姿形こそ見えないが彼は諌められたにも拘らず喜んでいる様子だ。
「元気を取り戻したようで何よりだ。では腑よ。私もルサナと共に『トリスト』に戻るのでな。また落ち着いたらゆっくり話そう。」
「え?!そ、そうなのか?骨兄は動けないのだからわしとここでのんびり暮らせばいいと思っておったんだが。」
そして『骨を重ねし者』の話に今度は『腑を喰らいし者』が落胆したのでルサナは困惑する。どうやら彼は以前のように兄妹揃って静かに暮らす事を望んでいるらしい。

「しかし世界がそれを許してはくれんだろう。何かあれば私も再び戦わねばならん。」

「ええ?!骨兄が??どうやって??」
この驚愕と疑問にはルサナも頷かざるを得ない。以前『闇の王』の力によって骨だけではあるもののしっかりと動ける体を手に入れてはいたが今は本当に頭蓋骨しか残っていないのだ。
「・・・それはその時が来たら教えてやろう。さぁ、クレイスもこちらの様子が気になって仕方がないようだからな。彼らと合流しようではないか。」
決して誇張や虚言ではない。それは感情の流れからも深く理解出来たのだがやはり異世界との邂逅を最大限に警戒しているのだろう。
「う、う~む。まぁワーディライもいるから退屈はしないが・・・わしは海を渡れんからな。ちょくちょく顔を出してくれよ?」
しかし『腑を喰らいし者』は折角再会出来た兄妹と再び離れ離れになる事が残念で仕方がないといった様子だ。
「・・・わかりました。私もだいぶ自由に飛べるようになったからお暇が貰えた時に骨兄さんと一緒に会いに来てあげます。」
そんな寂しい感情を宛てられるとルサナもつい優しい顔を見せてしまったのだがこれがいけなかった。

「おお!!『血を求めし者』!!お前、ルサナになってから随分と優しくなったなぁ!!兄は嬉しいぞ!!」

びちゃん!!

「ぎゃぁっ?!ちょっと?!腐った体で飛びついてくるなんて最っ低っ!!!」
未だ力を取り戻していなかったものの水たまりのような腐った地面が喜びのあまり大きな塊となって盛り上がったもののすぐに力なく雫となって落ちたのだから当然その汚水が飛び散る。そしてルサナの体には腐った染みと臭いが付着するとやっぱり彼らと兄妹なんてまっぴらごめんだと機嫌を大きく損ねるのだった。

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