闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王と共に-①

 傍にいた筈の彼は手の届かない場所へ到達していたらしい。いや、そもそも彼はれっきとした王族なのだから身分の差が顕著に現れ始めただけか。
(・・・いいえ、違うわ。クレイス様は目まぐるしい成長を遂げておられるだけよね。)
それは強さだけではない。ア=ディラファとの戦いにおいて見えた確たる信念は既に王そのものだった。
なのに『トリスト』では彼の王位継承について反対する勢力があるというのだから呆れてものも言えない。だが同時に自身もいつまで彼の傍にいる事が許されるのかという不安にも掻き立てられる。
特定の身分を与えられている訳でもなく、ヴァッツのように全員が婚約者のような扱いでもない。
であればこの先ルサナはどのように立ち回ればいいのだろう。いつかは、もしかしてイルフォシアに向けられている感情が僅かでもこちらに注がれればという淡い期待を第一に考える時期はとうに過ぎているのだ。

「しかし『血を求めし者』は本当に変わったのぅ。」

そんな悩みを内包しているのも理由かもしれない。ア=ディラファとの戦いを終えた一行は報告を含め、『腑を喰らいし者』に会いに行くと腐った大地から不思議そうな声が漏れてくる。
「そ、そうですね。私もそう思います。」
記憶のほとんどを失っている為彼と話していても懐かしさなどは一切ない。それでも一人の人間が骨と内臓と血に分かれたというのだから兄妹という間柄なのかもしれない。
「どうした?何か悩んでいるようだが?」
「おお?!そ、その声は『骨を重ねし者』?!クレイス、見つけてきてくれたのか?!」
そこに頭蓋骨だけで木箱に収まっていたにも拘わらずルサナの異変を感じ取った『骨を重ねし者』が尋ねてくると『腑を喰らいし者』も驚きながら確認してくる。
「え、えっと・・・その、私はあなた達の記憶がないので戸惑っています、はい。」
「ふむ。すまんが我々3人だけにしてもらえぬか?」
あまり心配を掛けたくないのに。そう思って誤魔化したルサナだが長兄は看過してくれないらしい。更にクレイス達も兄妹の交流に水を差したくない気持ちから速やかに距離を取ってくれるとあれだけ口を開かなかった『骨を重ねし者』が饒舌に話を切り出した。

「『血を求めし者』、というより今はルサナと呼んだ方が良いか。感情から酷い落胆が見えるな。我々で良ければ相談に乗るぞ?」

「いえ・・・えっとですね。まずあなた達に親近感が無くて、その、相談するつもりはありません。」
「むぅ。確かわしらの事を覚えていないと以前言っておったな。それは力の繋がりすら感じないという事か?」
「力の繋がり・・・それなら少しは。私とよく似てるなぁって思いますけど。」
それでも今のルサナにはしっかりした人間らしい肉体がある。決して腐った臓物の塊や骨だけの存在ではないのでどうしても先に忌避感を覚えてしまうのだ。
「・・・なるほど。クレイスの傍に置いてほしいが今後どう振舞うべきか、その答えが出てこないという事だな?」
「えっ?!な、何でわかったんですか?!」
「そりゃまぁわしらは元々1人の人間だからの。少し集中すれば互いの心情を読み解く事くらいは可能じゃ。」
だったら最初からそう切り出せばいいのに、とも思ったが彼らもルサナの口から直接聞き出したかったのだろう。僅かに彼らが兄なのだと本能的に理解すると『骨を重ねし者』がまたも饒舌に持論を述べ始めた。

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