闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誇り-④

 「・・・よくぞあの包囲網から抜け出したな。」
それに関しては自分でも自身を褒めてあげたい。それくらい完璧な対処方法だったと思う。
「僕は師匠に恵まれてますから。」
今は間合いが近い為、相手も先程のような戦術は取れない筈だ。展開している武器の数はア=ディラファは20近くを、クレイスは右手に握る魔剣を含めた7本なので数的には不利だろう。
だが数が多いというだけで有利が取れる程戦いとは単純なものではない。それは一度証明済みだ。では二度目はどうか。

「ふん。生意気な部分だけは資質があるようだ。誉めてやろう。」

そう言うとア=ディラファは自身の後方に控えていた矢や槍を放ちつつ、同時に長剣まで振るってきたのでクレイスも本来なら躱せる所をあえて三本の魔剣を動かして受ける。
これは油断ではなく相手の力量を詳しく知りたかったからだ。こちらは7本の魔剣をしっかり操る事で立ち回り、ア=ディラファは手で握る長剣以外は全て投擲する為に武器を展開しているらしい。
(魔力が底をついたりしないのかな?)
恐らく自分とは違う力を使っているのだろう。クレイスは不思議に思って多少の攻防を続けてみたが埒が明かないと感じたので今度は飛空速度を上げる。
そして投擲された武器を躱しつつ相手の後方へ回り込む動きを見せるとア=ディラファにも焦りの様子が見て取れた。

どうやら彼の力とは圧倒的な物量に依存しているらしい。

ダム=ヴァーヴァもそうだったが己の自力がさほど高くないのだろう。いくら数多の武器を展開、投擲出来たとしても本当の猛者の動きには体がついていけないのだ。
(・・・カズキも僕の魔剣の動きがこんな風に見えてたのかな。)
単調故に隙が目立つ。今回の戦いでそれを理解したクレイスは更に速度を上げて視界の外に出ると一気に魔剣でア=ディラファの四肢と胴に斬撃を叩き込む。
「ぐはっ・・・!!」
これらは全て魔力を最小限に抑えている為切断される事は無い。ただ痛みと内部への損傷があるだけだ。
それでも戦意を奪うには十分だった。
彼の後方に展開されていた武器の数が一瞬で減ると本人もゆっくり落ちるように高度を下げていく。

どしゃっ

最後は焦土の上に落下したので周囲も決着がついたと思ったのだろう。近寄ってくる素振りを見せたのだがそれをクレイスは手で制した。

しゃしゃんっ!!

何故なら残心を忘れなかったからだ。ただでさえ傲慢な部分を嫌という程見せつけていたア=ディラファが大人しく負けを認めるとも思えなかった。
故に突然展開された数々の攻撃を余裕を持って躱したクレイスは距離を取ったままゆっくり立ち上がろうとする彼を観察する。
まだ戦うのか。それとも油断を突こうと再び狡猾な動きを見せるのか。勝利こそ確信はしていたが今後の立ち回りをどうするか悩んでいたクレイスはしばし様子を窺っていると遂にア=ディラファも心が折れたのか、左手に鞘を顕現させながら静かに長剣を納めるのだった。

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