闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誇り-③

 またメラーヴィの思惑によって戦う事になってしまったが今回は己の強い意志もある。
「貴様は瞬きする間に死ぬ。覚悟は良いか?」
「・・・いつでもどうぞ。」
それに相手の手の内が全く分からない戦いというのも久しぶりだ。一体ア=ディラファはどんな方法で攻撃してくるのだろう。彼の側近であるダム=ヴァーヴァは長槍に鉄騎と見た目通りのわかりやすい手段と一応雷の魔術的なものもあったがそれも理解の範疇だった。

「では、これで終わりだ。」

ところがア=ディラファの魔術、だろうか。彼の声と共に展開されたのはあらゆる武器だ。それがクレイスを全方位から囲むように同時に現れたのだから大いに驚かされる。
様々な形の刀剣に槍や斧や弓はどれほどの威力を内包しているのか。そもそも全方位から攻撃されるという経験は流石に持ち合わせていない。
それから彼は言葉通り一瞬でクレイスの命を刈り取ろうとそれを同時に放ったのでこちらも対応に迫られる。
(・・・こういう時、カズキなら・・・!!)
全てが風を切る高音を纏っていた。それが一人の人間目がけて突っ込んでくるとなると結果は蜂の巣か細切れの肉片か。絶命どころか形すら残らないであろう攻撃をどう凌ぐのか、そう考えるのがいけないのだ。

ずずんっ!!!

幸い武器の数が多すぎた為、クレイスを囲む周囲の武器との距離は相当開いていた。つまり布陣そのものに大きな欠陥があったのだ。
今までの相手なら言葉通り一方的な勝利を得てきたのかもしれない。
だがそれを直感で見抜くと飛空の術式に風の魔術を重ねつつ、更に水の盾を展開して最も大きな槌目がけて眼にも止まらぬ速さで一直線に飛ぶ。
そして大槌の攻撃のみを真正面から受けて包囲を一点突破するとそのままア=ディラファに攻撃を放った。
「な、何っ?!」
どうやらクレイスのような動きを見せた者と相対した事はなかったらしい。まるで瞬間移動のように眼前に現れただけでなく、水の長剣で袈裟懸けに叩き斬られると痛みよりも先に驚きの声を漏らす。

ばかがががかんっ!!!

それと同時にア=ディラファの放った武器の数々がクレイスのいた場所で激しく衝突する音が木霊した事で鉄壁の包囲網が破られた事実に気が付いたようだ。
「まだやりますか?」
殺す事が目的でなかった為与えた負傷は大きなものではない。故に確認を取ってみたのだが相手は無手だった右手に長剣を、そして周囲にはまたも多種多様な武器を顕現し始めたのでこちらもそれに応えるべく、魔術を展開し始めるのだった。


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