闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誇り-②

 「貴方の国『マスィール』ではそうだったのかもしれません。しかし『ダブラム』や他の国は違う。民がいて、国があって、初めて王が生まれるのです。」
つまりア=ディラファ達の考え方とは順序が違うのだ。そして内容も。
「更に威光とは示すものではなく、民の心に芽生えるものだと僕は思います。間違っても国家を支えてくれている人々や文化を破壊する行動からは生まれません。」
「ほう?弁が立つ・・・というよりはぬるいな?そのような考え方では寝首を搔かれるぞ?」
「それも違います。貴方の言う威光を示す行動が人々の反感を生み、寝首を搔かれるのでしょう。」
納得とは程遠い答えを聞いてついついやり取りを継続してしまったがそこにやっとメラーヴィが楽しそうに動き始める。

「ではどうだろう?君達の考え、信念のどちらが正しいかを私に見せてくれないかな?」

一瞬意味が分からなくて言葉を失うもア=ディラファはすぐに理解したらしい。
「ほう?つまり我の威光を確かめたいというのか?」
「そうだね。君の言う威光が果たしてクレイス君に通用するのか。私も興味がある。どうだい?」
「メラーヴィ様?今回クレイス様は部外者です。流石にそれは・・・」
どうやら遠回しに戦いを勧められている、というよりクレイスにア=ディラファを討たせたい意図があったようだ。これにはイルフォシアが速やかに断りを入れるが信念という言葉がクレイスの心を掴んで離さない。
「メラーヴィ様、これは我が『ダブラム』の問題です。あいつはわしが仕留めましょう。」
「いえ、やらせてください。」
「クレイス様???」
ワーディライもイルフォシアの心配を汲み取って名乗りを上げてくれたのは理解出来る。どちらが正しいか。それを戦いで決するのは少し違うかもしれないがここでおめおめと引き下がるのも頑固な性格が許さなかったのだ。

「心配するな。我は逃げも隠れもせん。それにクレイス、だったか。貴様は我自ら血祭りにあげてやる。そこのちんちくりんに言われずともな。」

よかった。相手も己の信念を否定されたせいで相当な敵対心を抱いてくれている。
「私はクレイス様の勝利を信じていますから止めはしません。でもご無理はなさらないで下さいね?」
「う~ん・・・私は心配だなぁ・・・魔力の補充しとく?」
互いに了承するとクレイスもその場から飛び上がろうとしたのだがその時ルサナとウンディーネも心配しながら見送りの言葉をかけてくれた。これによりイルフォシアも折れるしかないと悟ったらしい。
「大丈夫だよ。それじゃ行ってきます。どんな攻撃が飛んでくるのかわからないので皆さんは少し離れていてください。」
「・・・・・お怪我を負った場合はそれなりに責任を取ってもらいますからね?」
しかし彼女の言葉だけは心配以上に相当な圧力を感じたので若干顔を引きつらせつつその場を後にするとクレイスは大空の下、ア=ディラファという異世界の王と対面を果たすのだった。

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