闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-⑪

 「げほっげほっ・・・く、くそっ。は、放せっ・・・!」
どうやら彼の力のほとんどは武具に集約されていたらしく、鉄騎と長槍を失ったダム=ヴァーヴァはワーディライの敵ではないらしい。
今度は大槌が形を変えて手枷足枷となり彼を拘束した事で戦いが終わるとメラーヴィもキャイベルから降りてきて再び尋問が始まった。
「さて、ダム=ヴァーヴァよ。もう一度『ダブラム』王メラーヴィ自ら問いかけようじゃないか。君の主、ア=ディラファはどこにいるんだい?」
「・・・近くにはいるよ。多分俺達の動向は全て見ている筈だ。」
「何っ?」
その答えを聞いてワーディライが慌ててメラーヴィを庇うも周囲に気配は全くない。クレイスもイルフォシア達に注意を促しつついくらか風の魔術で辺りを確認してみるがやはり人影は見当たらなかった。
「・・・虚言ですか?僕達を疑心暗鬼に陥れる為の。」
「さぁな?それよりこの鎖?大槌か?どうなってるんだ?形が変わる武具は見た事あるがここまで強力なのは初めてだぜ・・・」
ダム=ヴァーヴァも自身の発言や尋問の内容に興味はないのか、返事とは思えぬ短い答えの後ヴァッツが作り直した大槌の方に目を白黒させている。

「あの、ダム=ヴァーヴァさん。貴方の出身地はどこですか?」

なのでクレイスはメラーヴィに許可を貰うと少し違う質問をぶつけてみた。『腑を喰らいし者』もそうだが今まで存在を知られていなかった猛者というのは大抵別世界から迷い込んできた異邦人だ。
「ん?俺は『マスィール』だ。ア=ディラファの国だな。」
「『マスィール』・・・な、なるほど。」
やはりそうか。そこから大陸や近隣の国家を尋ねても知らない名前ばかりで困惑するがそんな中でもイルフォシアは隊員に命じて問答を逐一記録させている。

「では今度は彼を使ってそのア=ディラファとやらを逆におびき出しましょう。」

しかし内助の功らしい活躍も『天族』の血・・・いや、これはもう彼女の性格なのだろう。ワーディライでさえ目を丸くするような提案にメラーヴィだけが楽しそうに笑っている。
「流石はイルフォシア様。これならばダム=ヴァーヴァの言う唯一の側近という価値も確かめられるだろう。」
「う~ん。下手をうった俺の為に動くとは思えないけど・・・まぁ好きにしてくれ。」
それにしても逃亡を諦めたダム=ヴァーヴァは随分と潔い。これはヴァッツの力が関わっている手枷足枷のせいなのかそれこそ性格なのか。
とにかく非情とも受け取れる策謀にメラーヴィが賛成すると一行はそれを実行する為に王城近くまで移動を開始するのだった。

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