闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-⑩

 「これが最初で最後の譲歩だ。ア=ディラファとは何者だ?どこにおる?それを教えれば貴様の命は助けてやろう。」
その交渉内容を聞いたクレイスは思わず声を漏らしそうになったが真意に気付いた瞬間、流石は『孤高』であり将軍だと感心する。
まさかワーディライの持つ武器が相手に傷を負わす事が出来ない等思いもしないだろう。黒鋼の竜に形を変えた事実も交渉材料としては丁度良い。
ここまでの戦いで力の差は双方が深く理解している。つまり今を置いて相手を降参させる機会はないのだ。
「・・・聞いてどうする?」
「責任を負わせる。つまり貴様の代わりに処刑する。どうじゃ?」
これには心が締め付けられる。この状況は決して他人事ではない筈だ。もし自分が国王になった時、属する将軍が同じような交渉を持ち掛けられたらどう動くのだろう。
クレイスとしても大切な人材を失いたくはないし、かと言って話に乗って己の命を優先するような人物だと知れば酷く落胆するか、信頼が崩れるかもしれない。

「・・・断る。俺は彼の英雄王ア=ディラファの側近なんだ。戦って散る事を選ぶね。」

「そうか。ならば仕方ない。」
こうなるとダム=ヴァーヴァの死は避けられまい。しかし今回はヴァッツの力が関わっているので逆にワーディライの動きに注目する。
少なくとも大槌を手にしている間は傷の一つも付けられない。であれば間接的に攻撃を放てばよいのか?クレイスも自身ならどう対処すべきか考えていると何とワーディライは大槌の形を長槍に変えてダム=ヴァーヴァに投げて渡したのだから目玉が飛び出しそうになる。
「・・・何のつもりだ?」
「武器が無いのを言い訳にされたくはないからの。さて、ここからは貴様の体に尋ねよう。覚悟はいいか?」
手放した瞬間、黒鋼で出来た左手も形を失うといよいよ訳が分からくなる。何故ヴァッツに作ってもらった大槌を渡してしまったのか。今度こそ介入しようと思ったクレイスだったがダム=ヴァーヴァがこんな好機を逃す筈がないのだ。
「それじゃ遠慮なく使わせてもらうぜ!!!」

ばきゃんっっ!!!

ところが理不尽な戦いはワーディライの丸太と見紛う右腕の拳により一瞬で勝敗が決してしまった。あまりの早い結末に訳が分からなかったのはダム=ヴァーヴァも同じだろう。
大きく吹き飛んだ後すぐに勢い良く立ち上がって戻ってくると再び身構えるが今度は慎重に間合いを取っている。
「・・・この槍、何かおかしいな。俺の力が伝わらねぇ。」
「そりゃわしの大槌が形を変えてるだけだからの。しかし良い武器なのは保証するぞ。」
それから軽く振って回して、握り心地をしっかり確認したダム=ヴァーヴァは三度構えると今度は長柄物の距離で攻撃を放った。
しかし下地である体術に差があるらしい。その鋭い刺突攻撃を巨体からは考えられない速度で躱しつつ懐に入ったワーディライが巨大な拳を相手の腹部にめり込ませるとダム=ヴァーヴァは同じように吹っ飛んだ後、その場で悶え苦しんでいた。

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