闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-⑨

 「へぇっ?!」
これには流石に驚愕の声を漏らしていたが周囲も本人でさえも同じくらい驚いたのは間違いない。
「・・・相手を絶命に追い込むことは不可能かと思っていたがそうか。では遠慮なく叩き伏せてやろう!」
50年近く失っていた左腕を一時的に取り戻したワーディライは全てを理解すると雷が宿った長槍の穂先を軽く握り潰す。『黒威』とは全く違う力にクレイスも唖然としていたがヴァッツが手掛けた武器なのだからこれくらいは当然なのだろう。
「おかしな力を・・・だが俺の武器はこれだけじゃないぜ?!いくぞ鉄騎!!」
ワーディライの大槌には基本的に相手を傷つけない力が働いている為、重装戦車の馬達も吹き飛びはしたものの大した手傷は負っていないらしい。
ダム=ヴァーヴァの呼びかけに素早く立ち上がると相手は再び鉄騎に騎乗し、空を駆る。そして次に見せて来たのが中空から雨のように降り注ぐ攻撃だ。

びしゅんびしゃんびしゃぁんっ!!!

これも自分の知識だと魔術に近いか。相変わらず雷の形状をしているので思わずバルバロッサを回想してしまうがそれを一瞬でぶち破ったのがワーディライの行動だった
「おのれちょこまかと!!降りて・・・来んかいっ!!!」
何と彼は叫びながら大槌を中空にいるダム=ヴァーヴァ目がけて投げつけてしまったのだ。投擲してしまえば彼の手元に武器は残らない。なのに何故そんな無謀な行動に出たのか。その答えが明かされるのにさほど時間はかからなかった。

ばばっ!!めきゃきゃっ!!!

「な、何ぃっ?!?!」

例えワーディライが猛者だとしても巨大な大槌を相当な速度で動く的に当てるのはとても難しい筈だ。故に掠る事もなく明後日の方向に飛んでいったのも不思議ではなかった。だが大槌はそこから一瞬で形を変えると意思を持って鉄騎に襲い掛かったのだから驚くしかない。
その形や大きさから考えるとキャイベルを模しているのか。しかし本物以上に力強く、素早く動く大槌が変形した黒鋼の竜は後ろ足で器用に鉄騎の馬車部分を掴みながら地上に急降下してくると勢いそのままに踏み潰してしまう。

ずどぉぉぉんんん!!!!

途中ダム=ヴァーヴァも雷の攻撃で引き剥がそうとしてはいたらしいが元が大槌なのもあって僅かな痛痒すら与えられなかったらしい。地面に叩きつけられる直前に諦めて飛び降りはしたもののこれでお互いが地上戦に戻った訳だ。
「さて、手品はもう終わりか?」
「・・・・・どっちが手品だか。」
残った馬を残して黒鋼の竜が静かにワーディライの傍に戻ってくるとそれは形を戻して彼の手に収まるのだから開いた口が塞がらない。
カズキがこんな光景を見たら後で必ずヴァッツに同じような武器を作ってくれとせがむだろう。クレイスでさえそんな気持ちを抱えてしまうのだから間違いない。
ただ彼の手掛けた武器は生き物を傷つけるようには出来てない為どう決着を付けるのか。勝負は佳境に差し掛かっていたものの想像の付かない行く末に周囲も固唾を飲んで見護るしか出来なかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品