闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-⑦

 『ダブラム』が巨大な国家だというものあるだろうが、空を覆いつくすような煙など相当な被害でない限り起こる現象ではない。
「メラーヴィ様!クレイス!!一度わしの屋敷に寄ってくれぬか!!『腑』から話を聞いてみようと思う!!」
「わかりました!!」
遠くからでも王城の形が見えないと分かったワーディライがすぐに提案すると黒い竜に500の部隊も高度を落として彼の指示に従う。
避難民の話では『腑を喰らいし者』が侵攻を食い止めるために戦っているような内容だったが無事なのだろうか。クレイスも記憶を手繰り寄せて彼の屋敷に飛ぶが美しかった周囲の森林も立派な建物ものびのびと暮らしていた家畜達の姿も全てが瓦礫と残骸へと変わり果てていた。

「あそこです!クレイス様!」

しかし諦めかけていた所にルサナが指をさして叫んだので皆も一斉に注目すると、そこには僅かながら腐った地面が残っているではないか。
「『腑を喰らいし者』様!大丈夫ですか?!」
速度を上げて真っ先に辿り着いたクレイスが呼びかけても姿を見せてこない。以前は放っておくとどんどん腐敗した範囲を広げていたというのに、もしや本当に消滅してしまったのか?
「・・・その声はクレイスか?」
「よかった!一体どうされたのですか?!」
どうやら力が弱まっているせいで姿を形作る事が出来ないらしい。多少腐った地面が揺らぐと彼はその状態で説明を始める。
「・・・突然よくわからん存在が現れて『ダブラム』の地をあっという間に焦土に変えてしまったのじゃ。わしも抵抗はしたのだが何せ魔術のような攻撃には手も足も出なくてな・・・」
『腑を食らいし者』の力は腐った大地や腐肉があればこそ輝くのだが基本的にはそれを利用した物理での攻防しか出来ない為、クレイスとの対面時にも魔術を使用しない条件をつけて戦いを求めてきたのも懐かしい。
「つまり相手は相当な魔術師・・・ということですか。」
「いや・・・あれはお前の使っていたものとはまた違う気がする。クレイスよ、もし戦うのであればしっかり退却も念頭において・・・」

「まさか本当に餌に食いつくとは。さすが我が主の策略だぜ。」

そこに声をかけられたので一行は慌てて臨戦態勢を取ると物陰から重装備を施された二頭引きの二輪馬車という不思議な乗り物が静かに現れる。
「何じゃ貴様は?」
「俺かい?俺はダム=ヴァーヴァ。ア=ディラファ唯一の側近よ。」
同居人と国を崩壊させた相手にワーディライも容赦なく怒りを向けるが同じくらい筋骨隆々で彼よりもかなり若いダム=ヴァーヴァは全く意に介さない様子で軽く答えてきた。
髪の色は赤と緑という不思議な配色をしており、短く整えられた髪型からシーヴァルやフランシスカを思い起こすが彼らよりも冷酷そうだ。
「この国を破壊したのも貴様、と受け取って構わんのだな?」
「おうよ。俺の鉄騎と長槍で大暴れしたんだ。でも猛者が全くいなくて退屈でさ~。ご老人から随分な殺気を感じるけど、まさか俺と戦う気かい?」
「うむ。この国で将軍を務めておるからの。まずはお前を半殺しにしてア=ディラファとかいう人物についても教えてもらおうか。」
『腑を喰らいし者』も物理だけで言えば相当な強さを誇っていたのに全く歯が立たなかったという事実には嫌な予感しかない。
それでもワーディライが止まりそうになかったのでクレイスは静かに魔術を展開する準備だけ整えると2人の戦いに注視するのだった。

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