闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-⑥

 この旅はあくまで『ダブラム』訪問と部隊の移動能力を検証するだけだと思っていたが世界はそれを許してくれないようだ。
「クレイス様、何やら地上が慌ただしいようです。」
翌朝、西へ飛び立って早々最も低く飛んでいた隊員から妙な報せを受けるとすぐに降下を開始する。すると逃げている最中なのか、そこには荷物を担いで道なき道を東へと大移動している人々や馬であふれ返っているではないか。
「どうしたのかね?」
「あっ・・・あぁ!!も、もしかしてメラーヴィ様とワーディライ様でいらっしゃいますか?!」
恐らく何かが起こっているのだ。速やかにキャイベルとサリールを茂みに隠してから声をかけると隻腕から2人の正体を確信したらしい。
そこから一斉に民衆が助けを求めてきたので周囲は大混乱に陥りかけたが国王はわざと落ち着いた様子を見せつける事でまずは先手を打つ。

「私達が戻ってきた以上もう安心だよ。さて、どうやら君達は『ダブラム』から逃げおおせてきたようだけど詳しく聞かせてくれるかな?」

静かながら力のある声は隅々にまで届いたのだろう。喧噪が嘘のように止んで皆が顔を見合わせる中、最もメラーヴィに近い人物が詳細を説明すると今度はこちらが顔を見合わせる。
「何?侵攻を受けているだと?しかし我が国の周りにそのような勢力は存在しない筈・・・」
「うん・・・『ラムハット』は自国の事で精一杯だろうし『ジョーロン』や『フォンディーナ』がそんな蛮行に走る理由はない・・・一体何が起こっているんだろう?」
聞くところによると今は『腑を喰らいし者』がワーディライの屋敷を拠点に凌いでいるという。確かに彼は不死身に近い存在だが国民を逃がしている事から状況は決して芳しくない筈だ。
「ノーヴァラット!部隊500人と一緒に残って彼らの誘導と保護をお願い!」
「わかったわ。クレイスも気を付けてね。」
であれば全力で警戒しなければならない。クレイスも素早く命令を下すと部隊は期待以上に機敏な動きを見せてくれたので一安心する。
そしてキャイベルやサリールもその雰囲気を感じ取ったのか、呼ばれる前に姿を見せると再び民衆が混乱し出したが大きな黒い竜の背に乗り込むメラーヴィの姿によってそれは歓声へと早変わりした。

「では私達は国家を脅かす敵を駆逐して参る!!皆、安心して吉報を待つが良い!!」

更に国王の力強い宣言で辺りは割れんばかりの大歓声に包まれたのだが余韻に浸る時間も惜しい。クレイス達は応えるのも早々に切り上げて再び空へ舞い上がると焦らないよう慎重に西へと進む。
するとすぐに遠方から巨大な黒煙が上がっているのを視界に捉える事でショウから聞いていた『シャリーゼ』陥落の話を思い返していた。

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