闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-④

 「うん。いいよ。」

そしてメラーヴィの帰国当日の朝、ボトヴィの襲撃もあったのでアルヴィーヌへの交渉は難航する。そう思って気合を入れていたクレイスだったがあまりにもすんなりと了承を得られたので他の面々も目を丸くしていた。
「え?いいんですか?」
「うん。だってクレイスは私の弟だから。」
「???」
あまりにも脈絡のない内容に困惑しているのもわからず更にアルヴィーヌは背伸びをしてまでこちらの頭を撫でてくるのだからやや放心状態だ。

「姉さん???クレイス様が弟ってどういう意味ですか???あと距離が近すぎますよ???」

出会った頃こそ背丈は皆同じようなものだったが今では頭1つ半ほどクレイスの方が高いのに何故無理をしてまでこんな行動を?イルフォシアから僅かな嫉妬を感じつつ不思議に思っていたのだがどうやらこれは教育の賜物らしい。
「だってイルと結婚するんだからクレイスは義理の弟になる。あってるよね?」
「その通りでございます。」
国務にはあまり関係のない知識でもしっかり身についている事実が嬉しいのだろう。彼女の後ろで待機していたプレオスが若干目を潤ませながら静かに肯定すると妹も納得してから一瞬で笑顔に変わる。

「そ、そうですよね。で、では姉さんもヴァッツ様と正式に婚約が決まれば本当の兄さんになる、という事ですね?!」

「ちっちっち。イル、そこは義理の兄だよ。」

「・・・・・そうか。ヴァッツが義理の兄か・・・なんか不思議だな。」
彼の事は友としか考えていなかったクレイスもこれには少しの感動を覚えるが今は浸っている場合ではない。この先の行動と結果次第では全ての話が流れてしまう可能性すらあるのだ。
「でも流石にそんな沢山は連れて行っちゃ駄目。出来れば一、二頭くらいまでにして欲しい。」
それよりもアルヴィーヌにとってはこの場に現れた人数が気になって仕方がないらしい。というのも今回はメラーヴィとワーディライ以外にも兄である『骨を重ねし者』が入った木箱を持つルサナ、ウンディーネ、ノーヴァラットと自身が任されている1000人の飛空部隊までもが一緒なのだ。
しかしこれは部隊を引き連れての長距離移動について詳細を調べる為だと伝えると彼女もすぐに納得してくれる。
「アルヴィーヌ殿、では私とワーディライが乗れる一頭だけを貸与して頂けませんか?出来れば以前も御世話になったキャイベル君を所望したいのですが。」
「うん。それだったらいいよ。」
メラーヴィの提案にも二つ返事で了承されたのだからもう大丈夫だろう。
気が変わらないうちにと早速西の空へ飛び立ったのだが慌てるようにサリールも飛び上がってくると地上では止める様子のないアルヴィーヌが手を振っていた。
「ゆっくりしておいで。」
「はい!行ってきます!」
こういった気配りにも姉らしさが出ているのか。合間を見て会いには来ていたものの一緒に空を飛ぶのが久しぶりだったクレイスは部隊も忘れて中空で抱きしめながら優しく撫でると彼もまた甘えた鳴き声を漏らしつつ長い首をこちらの体に預けてくるのだった。

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