闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-③

 「・・・荷が重いようなら断ればいい。お前の祖国は『アデルハイド』なのだ。ここにイルフォシアと住めばよいではないか。」
スラヴォフィルと旧知の仲でもある父は当然のように子を気遣ってくれるがそれだとクレイスの納得には程遠い。次期国王に指名された喜び以上にそれに応えたい気持ちを諦めるつもりはないのだ。
「ふっふっふ。クレイスはお前に似て頑固な所があるからな。であればそのままで良いとわしは思うぞ。」
「しかし漠然とした不安を抱いたままでは国務に差し支えが出るやもしれん。メラーヴィ様、何か彼を救う手立てはございませんか?」

「確かに私達も若者に引き継ぐ年齢に達しているからね。他人事で済ます訳にはいかないな・・・そうだ。一度私の国に来てみないかい?」

「え?『ダブラム』にですか?」
「うん。私も近々息子に譲位するつもりなんだよ。事務的な手続きの内容だけでも参考にならないかな?」
『ファンタレック』が乗り移っていた彼の印象が強すぎて至極真っ当な意見と招待に思わず驚愕の声が漏れたがこれは願ったり叶ったりだ。特に王座を譲った国王が今後どういう立ち位置になるのかはとても興味がある。
「是非お願いします!」
「そうかそうか。ではキシリング殿、少しご子息をお借りしますよ。」
「よろしくお願い致します。クレイス、くれぐれも粗相がないようにな。」
こうして突如行われた5人の会談で速やかに次の目的が決定したのだがどうやらメラーヴィにも狙いがあったらしい。

「そうだ。帰国は是非黒い竜でお願いしたいかな。クレイス君、一緒に頼んでもらっていい?」

やっぱり『ファンタレック』とは似た部分があるのだろう。最後に子供っぽくお願いしてくるとワーディライが若干呆れた様子を浮かべていたがこちらとしてもその程度の願いくらいは叶えてあげたい。
「はい。それでしたら早速向かいましょう。」
「こらこらクレイス。粗相のないようにと言ったばかりだろう。来賓であるメラーヴィ様、ワーディライ様が帰国されるのであれば宴を用意せねばならん。」
逸る気持ちもあってそう提案したのだが早速父から注意されると己の早計さに謝罪する。そうだ、自身は王族でありこれから王としての立ち振る舞いを勉強をしなければならないのにこれではいけない。
改めて日取りを決めたクレイスは後でこっそり自らが料理の腕を振るう事について尋ねるとそれは是非やるべきだと背中を押されたので一安心する。
それをメラーヴィだけでなく、他の皆が自分の作った料理をとても美味しそうに食べてくれる姿を見て自分が持つ力の中ではこれが最も汎用性が高く、効果が高いのかもしれないと認識を改めるのだった。

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