闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-②

 彼らは人間とは異なり絶対的な力を保持しているので従う者達、国民達も歯向かうという考えは基本的に持ち合わせていない筈だ。
ただ国王がどれ程強大でも国民が納得する施策で国を治めなければ不満は募り、やがて瓦解するのは過去の歴史からも絶対だと断言出来る。
そう考えるとダクリバンの長期政権はその面だけで評価すれば相当優秀だったのではないか?
『モクトウ』では彼が名前を変えつつ何千年もの間国王として君臨してきた。もちろん反乱が起きないぎりぎりの圧政だった為最終的にはテキセイというとんでもない猛者による反旗がきっかけで消滅してしまったが裏を返せば彼さえいなければ今もダクリバンが国を運営していた可能性は高かった筈だ。

だがクレイスは人間であり寿命も100年を超える事は無いだろう。

であれば自身が国王になった後、その国の未来はどうなっていくのか。
スラヴォフィルが建てた『トリスト』は軍事力において他の追随を許さない程強大であり、一歩間違えれば世界が戦火に包まれてしまう可能性を内包している。
もちろん『孤高』が3人も在住している現在は何の心配もいらないだろう。問題はクレイスが引き継いだ後だ。
イルフォシアと結ばれる事を第一に、そしてショウやヴァッツが警戒する未曾有の危機を考えて行動してきたが今回『七神』の行動理念やイェ=イレィ達との会話で国家としての未来をぼんやりと考えるようになったクレイスは報告がてら一度母国へ帰るとそこでは珍しい光景が目に留まる。

「おお、帰ったかクレイス。」

「はい、只今戻りました。ところで随分と楽しそうですね。」
冬が近づいていたもののキシリング、トウケン、ワーディライにメラーヴィの4人は中庭で陽が指す心地よい席に座り、多少の軽食と酒を片手に楽しく談笑していたようだ。
「うむ。わしらがこうして顔を合わせる機会など滅多にないのでな。時々くだらない話を肴にちょくちょく飲んでおるのじゃ。」
ほとんど『トリスト』暮らしの為初めて知る事実に感心していたのだがその中でも王と呼ばれる存在はこちらの隠す程でもなかった微細な変化に気が付いてしまうらしい。
「うん?どうしたクレイス君。『ビ=ダータ』での会談はうまくいかなかったのかね?」
「え?いえ。全て滞りなく解決して参りました。」
「そうなのかい?それにしては随分と思い悩んでいるようだが・・・どうかね?私達でよければ話を聞くよ?」
他者の変化を機敏に読み取る力、これを持ち合わせている者こそが国をより良い方向に導いていく王となれるのだ。
自身にこんな能力があるのだろうか。これから身に着けられるだろうか。小柄で人柄の良いメラーヴィから言葉をかけられたクレイスは不思議な感情に満たされると次期国王として、後継者としてどう立ち回るべきかを静かに語り始めていた。

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