闇を統べる者

吉岡我龍

クレイスの憂鬱 -王の誘い-①

 「お二人にお願いがあります。」
会談が終わった後、『七神』の面々は彼らの意向と監視の意味も含めて『ビ=ダータ』で軟禁される事が決まるとクレイスは単身でイェ=イレィとフロウに相談を持ち掛ける。
「ほう?何だ?お前の願いならば大抵は聞き届けるぞ。」
「貴方本当に『悪魔族』の王なの?ここはもう少し悪魔らしい取引を持ち掛ける流れじゃないの?」
「何を言う。飲食に関して私はまだまだ知識も技術も未熟なのだ。それを全て吸収するまでは、いや、してからも恩義の分は動くつもりだぞ。」
神と悪魔という字面に惑わされると混乱しそうだがフロウはとても前向きに捉えてくれているのでこちらも話しやすい。

「そう仰って頂けると助かります。実は『悪魔族』の皆様とイェ=イレィ様が収める『モ=カ=ダス』と『トリスト』で同盟を結んで頂きたいのです。」

「ほほう?」
「ちょっと待って。貴方はただの将軍位でしょ?なのにその内容はおかしいんじゃないかしら?あ、もしかして国王からの命令とか?それとも・・・まさかヴァッツ様の御要望ですか?!」
確かに今の身分では交渉を任されたと捉えられてもおかしくないし、そう説明した方が手っ取り早いのかもしれない。だが信頼関係を築こうという相手にそんな対応をしては得られるものも得られなくなる。
なのでクレイスは王族が持つ雰囲気を無意識に作り出すと静かに説明を始めた。

「いいえ、これは将来的に迫る危機について備えておきたいという僕の独断です。あのヴァッツが警戒している存在、『ア=レイ』という人物がそうなのかはわかりませんが必ず皆様のお力添えが必要になると僕は考えております。」

「ふむ。よかろう。」
「フロウ様?何度も言いますが貴方には少し、いえ、かなり非情さが欠けています。それでは王としての責務が・・・」
「あ~うるさいうるさい。お前こそ打算が過ぎるぞ?神という名の付く種族ならもう少し慈愛に満ちた言動を心掛けたらどうなのだ?」
暫く見ないうちにこの二人は随分と仲が良くなったらしい。お互いが歯に衣着せぬ物言いで諫言しあう姿を見てクレイスはとてもほっこりしていたのだが実際の所は本心をぶつけあっているだけだ。
「・・・そうですね。ヴァッツ様は貴方と随分仲がよろしいみたいですし、私の事を良く良く伝えて頂けるのでしたらそのお話、前向きに検討いたしますわ。」
それでも打算じみた返答にフロウはわざとらしい程呆れる様子を見せつけていたが今は十分だろう。
「はい。その時にはイェ=イレィ様の名を第一に取り上げさせていただきます。」
なので本心からそう答えたのだが逆に冷静さを取り戻したイェ=イレィは少しだけ居住まいを正して見せると確たる約束を宣言し直してくれるのだった。

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