闇を統べる者
クレイスの憂鬱 -八人目-①
「すっかり慣れたようだな。」
ボトヴィという脅威に立ち向かったのは心の距離を縮めるのに十分な経験だったのだろう。特にハジャルはあれからフランシスカにべったりとくっついているのでアサドも安堵しているようだ。
「ああ。まさかこんなに懐いてくれるなんて、感無量だよ。」
彼も今まで触れなかった分を取り返すような勢いで体中を撫でくり回していると周囲の黒い竜達も羨ましいのか、少しだけ距離を置いて順番を待っている風に見える。
「ほらほら。私が撫でてあげるからおいで。」
そこに御世話役の長であるアルヴィーヌが軽い調子で手招きすると彼らも喜びを爆発させて数体が同時に頭を擦り付け始めるので彼女の体は一瞬で見えなくなるほど埋もれてしまった。
(・・・普通の人間だったら圧し潰されそう・・・)
しかし流石は『天族』だ。重圧をものともせずに小さな手が各々の頭や鼻を撫でると満足した個体は少しだけ離れる。そして次の竜が顔を突っ込んでいくのだから御世話役も相当な重労働だ。
そうして全員の機嫌を取り終わった彼らがプレオスの講義を受ける準備に入るとフランシスカが少し改まった様子で話を切り出した。
「あの、アルヴィーヌ様。お願いがございます。」
「うん?どうしたの?」
「はい。実は一度実家に帰省したいと思いまして。そこでハジャルも一緒に連れて帰る許可を頂けませんか?」
アナもここで働き始めて一か月以上経っている為フランシスカが畏まる理由は知っていた。黒い竜達はとても希少なので滅多な事では領内から出る許可が下りないのだ。
なのに話を持ち掛けたというのはそれなりの覚悟があるのだろう。
「うん。いいよ。」
「えっ?!よ、よろしいのですか?!」
ところがアルヴィーヌという少女は器が大きいのか深く考えない性格なのか、時折大きな決断を簡単に下す事がある。今回もそれが発動したお陰で彼の希望はあっさり通ったのだが許可をした後に何故か少し考えだしたので周囲は顔を見合わせる。
やはり危険性を考慮して取り消されるのだろうか?もしくは条件をつけられるとか?それでも人に負担を強いるとは思えなかったアナも様子を窺っていると何故か彼女の視線がこちらに向けられた。
「じゃあアナも一緒に連れて行ってあげて。」
「えっ?!な、何故ですか?!」
「だってむこうにはルマーやカーヘンもいるんでしょ?良く働いてくれてるし羽を休めてくればいいと思ったんだけど、アナはどう?」
つまり休暇を頂けるという事らしい。贖罪の身である自身にも気をかけてくれた事に思わず目を丸くしてしまったが思えば彼女はこういう人物なのだ。
「ふむふむ。本当に私が行ってもいいのかって?いいよ。いつも私達だけじゃなくて竜ちゃん達の御世話も手伝ってくれてるし、お休みは大事ってハルカも言ってた。」
であれば遠慮はいらないだろう。御礼を手の平で伝えると思い立ったが吉日という事で翌日、2人はハジャルの背に乗って『ネ=ウィン』という国に旅立とうとする。
ところがその方向と雰囲気から察したのか、カズキの相棒でもあるオンプが共に羽ばたくとアルヴィーヌも特に止める様子は見せず、二頭の竜は嬉しそうに快晴の空を飛ぶのだった。
ボトヴィという脅威に立ち向かったのは心の距離を縮めるのに十分な経験だったのだろう。特にハジャルはあれからフランシスカにべったりとくっついているのでアサドも安堵しているようだ。
「ああ。まさかこんなに懐いてくれるなんて、感無量だよ。」
彼も今まで触れなかった分を取り返すような勢いで体中を撫でくり回していると周囲の黒い竜達も羨ましいのか、少しだけ距離を置いて順番を待っている風に見える。
「ほらほら。私が撫でてあげるからおいで。」
そこに御世話役の長であるアルヴィーヌが軽い調子で手招きすると彼らも喜びを爆発させて数体が同時に頭を擦り付け始めるので彼女の体は一瞬で見えなくなるほど埋もれてしまった。
(・・・普通の人間だったら圧し潰されそう・・・)
しかし流石は『天族』だ。重圧をものともせずに小さな手が各々の頭や鼻を撫でると満足した個体は少しだけ離れる。そして次の竜が顔を突っ込んでいくのだから御世話役も相当な重労働だ。
そうして全員の機嫌を取り終わった彼らがプレオスの講義を受ける準備に入るとフランシスカが少し改まった様子で話を切り出した。
「あの、アルヴィーヌ様。お願いがございます。」
「うん?どうしたの?」
「はい。実は一度実家に帰省したいと思いまして。そこでハジャルも一緒に連れて帰る許可を頂けませんか?」
アナもここで働き始めて一か月以上経っている為フランシスカが畏まる理由は知っていた。黒い竜達はとても希少なので滅多な事では領内から出る許可が下りないのだ。
なのに話を持ち掛けたというのはそれなりの覚悟があるのだろう。
「うん。いいよ。」
「えっ?!よ、よろしいのですか?!」
ところがアルヴィーヌという少女は器が大きいのか深く考えない性格なのか、時折大きな決断を簡単に下す事がある。今回もそれが発動したお陰で彼の希望はあっさり通ったのだが許可をした後に何故か少し考えだしたので周囲は顔を見合わせる。
やはり危険性を考慮して取り消されるのだろうか?もしくは条件をつけられるとか?それでも人に負担を強いるとは思えなかったアナも様子を窺っていると何故か彼女の視線がこちらに向けられた。
「じゃあアナも一緒に連れて行ってあげて。」
「えっ?!な、何故ですか?!」
「だってむこうにはルマーやカーヘンもいるんでしょ?良く働いてくれてるし羽を休めてくればいいと思ったんだけど、アナはどう?」
つまり休暇を頂けるという事らしい。贖罪の身である自身にも気をかけてくれた事に思わず目を丸くしてしまったが思えば彼女はこういう人物なのだ。
「ふむふむ。本当に私が行ってもいいのかって?いいよ。いつも私達だけじゃなくて竜ちゃん達の御世話も手伝ってくれてるし、お休みは大事ってハルカも言ってた。」
であれば遠慮はいらないだろう。御礼を手の平で伝えると思い立ったが吉日という事で翌日、2人はハジャルの背に乗って『ネ=ウィン』という国に旅立とうとする。
ところがその方向と雰囲気から察したのか、カズキの相棒でもあるオンプが共に羽ばたくとアルヴィーヌも特に止める様子は見せず、二頭の竜は嬉しそうに快晴の空を飛ぶのだった。
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