闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -夢に見た道-⑩

 国家の重臣が複数人暗殺されたにも拘らず『リングストン』が寛大な対応を見せたのには明確な理由があった。

「よかったじゃない。これで謀らずとも余計なぜい肉が削ぎ落せたわ。」

アンはあくまで補佐でありほとんど接点が無いのもあるのだろう。自身に直接関係ないが故の軽すぎる感想にタッシールは苦笑いを浮かべるしかない。
今の『リングストン』は収支の均衡が大きく崩れている。これはいらぬ出費が多すぎたのが原因であり、新たな国王が立って以降少しずつ解決に向かっていたのだがそれでもまだまだ先は長かった。
そこに来て余計な食い扶持が減ったとなれば財政状況の改善が見込めるという理屈も理解は出来る。が、『リングストン』人であるタッシールがそれを心から喜ぶには少し難しい。
「しかし人員が減ったのであれば政務が滞りませんか?」
「あら?まだ『リングストン』という国家をわかっていないようね?」
そこでこの先どう動くのかを探ってみると彼女は普段見せない冷笑を浮かべて冷たく言い放つ。

「独裁国家という政治体制によって見栄や肩書だけの官位が腐る程出来てしまったのよ。それが多少無くなった所で全く支障など起きません。むしろまだまだ削らないと・・・ガビアム様ももう少し頑張ってくれればよかったのに。」

優秀な施政とはそういうものなのだろう。だから大実業家達の手綱を握りながら巨大な商業国家を作り出せたのだ。もし彼らの甘い誘惑に耳を傾けていれば繁栄を極めた『シャリーゼ』は無かった筈だ。
「いや・・・まだいけるわね。タッシール様、ガビアム様と極秘の会談を執り行いましょう。」
ところが国家の事だけを考えるが故の弊害か、彼女が時折みせる突拍子もない提案には舌を巻くばかりだ。
「そ、それはまた何故・・・もしや賠償のお話ですか?かの国には大実業家がいる。それを引っ張り出せば我が国の財政にも潤いが・・・」
「何言ってるの。いくら『リングストン』に猛者らしい猛者がいないとはいえ誰にも気が付かれる事無く侵入を許して挙句数十人を殺されたのよ?その内容を聞き出すの。そして使えそうならもう少し泥をかぶってもらいましょ。」
こういう所はやはりショウに似ている、というより彼が育ての親であるアンに似ていると言った方が良い。子は親の鏡、蛙の子は蛙という諺がきっちり当てはまるのだ。

こうして彼女は『ビ=ダータ』の蛮行を許す条件として更なる蛮行を求めるというとんでもない交渉を行ったのだが相手も相手だ。

「わかりました。その役目、喜んでお受けいたしましょう。」
復讐の為に仕掛けた暗殺が利用される話を聞いても激高や困惑を見せるどころか、むしろ涼しい顔で快諾するとアンは『リングストン』国内のぜい肉達に官位を返せば襲われなくなると吹聴する事で自浄作用も利用しつつ、冷酷無比な改革を一気に進めるのだった。

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