闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -夢に見た道-⑨

 ガビアムの胡散臭い発言を聞いた一同は唖然とするも最も冷静さを保っていたフロウはいち早く理解したらしい。
「ふむ。であれば少なくとも私が咎められる事はないか。構わんぞ。」
「ちょっとフロウ様?!それですと私の気持ちが収まりませんわ?!」
「しかしクレイスが『七神』との会談を望んでいるのだ。それを壊す真似はしたくない。が、もし偽りだった場合はお前の好きにすれば良い。それこそ黙っておいてやろう。」
『悪魔族』の王はかなり話が分かる存在ではあるものの、恩師と謳うクレイスが関わってくるとしっかり悪魔の顔を見せてくる。
もちろんそんな状況になって欲しくはないがこの中で唯一己を護れないガビアムが確約するのは難しいだろう。それでも折角取り戻した祖国の為に力強く頷いてみせるとフロウも浅く頷いて口を閉じる。
「・・・もし口外しないとして、今夜『リングストン』で起きた事件をどうするおつもり?」
しかし納得から程遠かったイェ=イレィがとても痛い部分を切り返してくるとガビアムはいよいよ腹を括る。

「はい。今夜の件は私が独断で行ったものだと公言します。幸い手を下したのはほとんど召使い達ですから。」

アジューズは『魔人族』の為自らの魔術で命を刈り取っていたそうだが物的証拠が残りにくいのと国王自らが発言すれば深く追求される事はないだろう。
問題は『リングストン』との関係と『ビ=ダータ』の存続だが元より険悪な間柄だし一応は『トリスト』の保護下なのだ。滅ぶこともあるまい。
「何故だ?何故そうまでして我らを庇う?」
ところがこの決断に最後まで納得いかなかったのは他でもない『七神』だったらしい。
隣に座らされていたフェレーヴァが訝し気な表情を向けてきたのでガビアムは最後の力を振り絞って真剣な面持ちを作る。

「私は国家の長という立場を忘れて私欲に走ってしまいました。結果とんでもない事態に陥った責任を取る必要があります。」

「それが全ての罪を被る事じゃと?」
「はい。幸い今夜の件は恐らくここにおられる皆様にしか気づかれていない筈。であれば後日の事も含めて内密に、しかし『リングストン』で起きた事件にはしっかり落とし前をつけなければなりません。」
「・・・欲望に染まった者にしては随分と物分かりが良いな。」
フロウが感心していたが彼のような強者にはわからないだろう。右手を落とされて相当な血を失っているガビアムに残された時間は少ないのだ。
もしかすると要らぬ血が毒気と共に抜けた事で元の自分に戻れたのかもしれない。視界と思考が船のように揺れ始め、痛みすら薄れてきた頃、ネヴラティークの助言を思い返して笑みを浮かべたガビアムは意識を失う。

そして残された面々は彼の発言と立場を考慮しながら少しの話し合いを終えるとイェ=イレィとフロウが直接『トリスト』に赴いて説明する事で『ビ=ダータ』という国家は辛うじて存続を許される事となる。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品