闇を統べる者

吉岡我龍

王道 -夢に見た道-⑥

 折角『リングストン』滅亡への工作が上手くいっていたというのに何という間の悪さだ。
イェ=イレィはヴァッツに心酔している事ばかり耳に届いていたが元は『神族』と呼ばれる存在でその力は相当なものだという話も聞いている。
そんな存在を相手に戦う?戦いになるのだろうか?だが抗わねば確実な死が待ち受けている以上選択肢など無きに等しい。
「あら?あなたも戦うの?『黒威』を握っていても凡庸な人間にしか見えないけど・・・それほど自信があるのかしら?」
ところがこちらを一瞥して発せられた言葉を聞いて思わず安堵してしまった。そうか、彼女の目的はあくまで『黒威』を人に渡す『七神』であって使用する自分ではないのだ。
であれば大人しく引き下がれば良いかと言われると難しい。何故ならガビアムの行動次第ではフェレーヴァを敵に回す事になるのだから。

「・・・イェ=イレィ様、私の持つ『黒威』を渡す事で見逃して頂く訳には参りませんか?」

故に彼は交渉という手段で切り込んだのだ。お互いが初対面でありこちらは二人とも深く外套を被っているので正体がばれる事もないだろうと考えて。
「へぇ・・・小悪党の分際で私に提案を持ち掛けるなんて良い度胸ね?」
「この方はとある国の王だ。無礼も大概にしておけ。」
なのにフェレーヴァの告げ口からかなり絞り込まれる状況に陥ってしまった。不味い。もし今夜の大量暗殺と関連付けられたら要らぬ嫌疑がかけられてしまうではないか。
「そういえばナルサスやナハトールも王族だったわね。全く、力が無いなら無いなりに分相応に生きていくという発想は無いのかしら?」
最初の覚悟も忘れて焦っていたが彼女はこちらの素性など一切興味が無いらしい。呆れた様子でゆっくり降りてくると僅かに野次馬が現れる中、視線と体の向きはフェレーヴァに、杖だけをこちらに向けてきた。

すると銀の彫像だった鷹がまるで生き物のように飛び掛かってくるのだから腰が抜けそうになる。

嘴による一撃を転倒しながら何とか凌いだが奴は大空で旋回した後再びこちらに狙いを定めているらしい。まさか『黒威』を使った実践相手が人外になるとは夢にも思わなかったが泣き言は言っていられない。
速すぎる敵に何とか対抗せねばと咄嗟に考えを巡らせたガビアムは急いで建物の中に飛び込むと扉側に向かって迎撃態勢を取る。
この状況なら鷹が飛び込んで来られる場所は真正面しかない。であれば凌ぐのはもちろん、『黒威』の力を十全に活かせば叩き落とせる可能性だってある筈だ。
そんな淡い期待を胸にじっと正面を見据えていたのだがイェ=イレィの側近でもある銀の鷹が持つ知能と力を計り損ねていたらしい。

ぼっ・・・・・ばりばりばりんっ!!!

気が付いた時には『黒威』の長剣は右手ごと貫き落とされており、呆然としながら音と風の起こった方を振り向いてみるとどうやら銀の鷹は後方の遮蔽物を全て突貫しながらこちらへの攻撃を実現させたようだ。
更に次の旋回で地面に落ちていた『黒威』を鉤爪の付いた両足で上手く拾い上げるとガビアムなど歯牙にもかけない様子で飛び去って行った。

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